農業改革に本腰を入れ始めたインドーHSBC投信・経済レポート

農業改革に本腰を入れ始めたインドーHSBC投信・経済レポート

農業部門への民間投資

 2020年10月1日、HSBC投信・経済レポートは、「農業改革に本腰を入れ始めたインド」について伝えた。

(レポート)インド議会は9月20日、農家が農産品を民間業者向けに直接販売をしやすくするための新農業法案を可決した。この法案は、現行法の改正および中間流通業者の排除を進めて、農家が農産品をスーパーマーケットやオンライン食品販売会社等を含む流通会社、大手小売チェーンと直接取引を行うことを可能にする狙いがある。

 法案は、野党だけではなく、連立与党内からも激しい抗議が続く中で可決された。反対派は、農家が大手企業による収奪にこれまで以上にさらされると主張した。法案の可決によって、農家の売買交渉における立場は弱まり、大型小売チェーンや他の民間会社による農家支配が強まることが懸念されている。反対派は、法案可決によって現行の農家に対する政府の作物価格保証である最低支援価格(MSP)が撤廃される可能性があり、そうなれば、零細農家は民間企業の言い値での取引を余儀なくされる恐れがあると警告する。

 これに対して、モディ政権は、農家が、政府による農家保護政策の支援を引き続き受けながら、可決された新法案に盛り込まれた農業改革のメリットも享受できると強調している。

 小規模かつ細分化された農地、低水準の生産性、インフラの未整備、金融支援制度の遅れなど様々な要因が国内農業の発展を阻害している。人口の半数近くを農業従事者が占めるインドでは、大規模な農業改革の必要性が数十年前から議論されてきた。

 1.必需商品法(Essential Commodities Bill)改正、2.農家による農産品取引の推進、3.農業就労者の権限保護・強化のための価格保証協約・農業サービス付与の3本柱から成る改革法案は、5月に財務相によって議会に提出された。

 法案の狙いは大きく分けて、農家所得の向上、農業生産性の向上、農業部門への投資拡大にある。具体策としては、1.一部の必需農産品の供給規制を撤廃し、在庫制限の導入を価格とリンクさせる、2.農産品の州内・州間の取引(オンライン取引を含む)については、州政府による手数料、地方税、課徴金を撤廃し、自由化する、3.農家の買い手との直接取引を認め、適切な代表者制度と紛争処理メカニズムを整備することが掲げられた。

 インドではほとんどの農家は、農産品の大部分を州政府管轄下の卸売市場で、政府による保証価格で売却する。卸売市場は農家(通常は大規模農家)と中間取引業者で構成される農産品流通委員会によって運営されている。中間取引業者は農産品の販売促進、保管、輸送を担うほか、必要な場合は農家向け金融もアレンジする。

 可決された法案に含まれている改革のいくつかは、多くの州ですでに実践されており、法改正が進めばそうした流れが全国的に広まるのは必至であろう。

 人口に占める割合が大きい農業従事者は選挙対策上重視をする必要があることから、モディ政権は卸売市場と農産品の最低価格制度の維持を約束した。しかし、卸売市場がしっかりと根付き、活況を呈している複数の州の関係者たちはモディ政権の公約を疑問視している。政府がやるべきことは、法案を改正して、農家を自由市場の乱高下から守るための施策を盛り込むこと、との声が根強いのは確かである。

 農業改革が新法案どおりに進むかは今後の成り行き次第だが、そうした改革が農家の自由市場へのより良いアクセスにつながるとすれば、インド農業に著しい変化が起きる可能性がある。しかし、現状は、インフラの未整備、サプライチェーンの遅れ、低水準の農業生産性など大きな課題は手つかずのままだ。

 これらの課題の解決策の一つとしては、民間資本の農業部門への投入を促進し、農業技術のイノベーションを加速させることが考えられる。しかし、農業投資を意味のある水準まで引き上げるためにも、農業部門のさらなる改革が必要である。インドにおける農業への民間投資は低水準で推移しているのが実情である。農家を民間企業から守るために導入されている農地活用に関する厳しい法律や関連規制を含む現行の法的枠組みが民間投資拡大へのネックとなっている。
【編集:BY】

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