中身がない“政治ショー”――米朝首脳会談は金正恩の「大勝利」だった

中身がない“政治ショー”――米朝首脳会談は金正恩の「大勝利」だった

両首脳と通訳だけの“密室会談”、閣僚らを交えての拡大折衝を経て署名された合意文書の中身はスカスカ。核廃棄に向けた具体的なプロセスの設定や、絶対必要なはずの約束事など、すべてが「持ち越し」に…

世界中が注目するなかシンガポールで行なわれた史上初の米朝首脳会談という“政治ショー”。

得意満面なトランプ大統領のアピールとは裏腹に、最高の結果を得たのは金正恩(キム・ジョンウン)のほうだった―。

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NHKは6月12日の朝9時から夕方まで、異例ともいえるほぼぶっ通しの特別編成で、史上初の米朝首脳会談の中継・解説を放送。民放各局もこぞって速報を差し込み、トランプ大統領と金正恩委員長が直接対峙(たいじ)する「歴史的イベント」への高揚感を煽(あお)り続けた。…ところが、スタジオの有識者はやがて言うことがなくなり、同じ話を繰り返すばかりになってしまった。

それだけ、あのイベントには中身がなかったのだ。

突き詰めれば「とりあえず会った」だけ。それでも当面の戦争危機が遠のいたという意味は大きいが、全体を見れば、北朝鮮・金正恩委員長の望みどおりの展開だったというしかない。ジャーナリストの黒井文太郎氏はこう語る。

「金正恩にとって最も重要なのは、北朝鮮が核保有国としてのポジションを得ること。米朝両国が核保有国同士として、対等の立場で交渉の席に着いたわけですから、『大勝利』と言っていいでしょう」

経済力や通常兵器の軍事力では大国にとてもかなわない小国の独裁者にとって、相手がどんなに強かろうと一撃で甚大な被害をもたらす核兵器は唯一無二の“後ろ盾”だ。それを保有したことでアメリカが歩み寄ってきたのだから、金正恩からすれば「やっぱり核開発をやってきてよかった」ということになる。

ここに至るまでの金正恩の計算深さを、元防衛省情報分析官の上田篤盛(あつもり)氏はこう語る。

「金正恩は、表向きは経済と核開発を同時推進する『並進路線』を掲げながらも、実際は核開発を優先させてきました。経済優先を主張する叔父の張成沢(チャン・ソンテ)ク氏を処刑した2013年12月以降、ミサイル発射のオンパレードとなったことがその証拠です。

昨年1月に誕生した米トランプ政権の当初の強硬姿勢は予想以上だったと思われますが、金正恩は弱気を見せず、巧みに米側の“レッドライン”をかわしつつ瀬戸際外交を展開。そして11月、ついに核武装の完成を宣布し、予定どおり対外融和・経済優先へと舵(かじ)を切ったのです。

加えて幸運だったのは昨年5月、韓国で前政権のスキャンダルに伴う予定外の大統領選が行なわれ、親北派の文在寅(ムン・ジェイン)政権が誕生したことです。これによって南北対話の道筋ができ、米朝接近のお膳立てが進んだわけですから」

そんな相手と交渉する道を選んだトランプは、北朝鮮の確実な核廃棄を絶対に約束させる必要があった。国際社会もそれを期待した。ところが米朝会談では、最低条件のはずの「CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)」が合意内容に含まれず、肩透かしの結果に終わった。これはなぜなのか?

「そもそもトランプに、CVIDをどうしてもねじ込むという執着があったかどうかすら疑わしい。先行き不透明であっても、とりあえず北朝鮮の暴挙をやめさせて“前進”をアピールすることで、今年11月の中間選挙の敗北、そして大統領弾劾を回避できるカードを持っただけで十分なのかもしれません。その意味では、トランプ個人と金正恩にとっては“ウィン−ウィン”だったともいえます」(上田氏)

◆トランプの本気度は大いに疑問…この続きは、『週刊プレイボーイ』27号(6月18日発売)「トランプに一瞬期待した『ぼくたちの失敗』」にてお読みいただきたい。

(取材・文/世良光弘 小峯隆生 写真/時事通信社)

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