北ミサイルはどこまで脅威なのか(上)日本の迎撃能力を超える量と技術も

北ミサイルはどこまで脅威なのか(上)日本の迎撃能力を超える量と技術も

[写真]弾道ミサイルを相次いで発射している北朝鮮。写真は8月24日の発射を報じる韓国テレビ(ロイター/アフロ)

 北朝鮮による弾道ミサイル発射が活発化しています。8月末には、地上からではなく、潜水艦から発射されました。先月には5回目となる核実験も行い、「核ミサイル」への懸念も高まっています。予想以上の軍事的技術の進展も指摘される北朝鮮。その本当のところは、どの程度の“実力”なのか。元航空自衛隊幹部で作家の数多久遠氏に寄稿してもらいました。

             ◇
 8月24日、北朝鮮は、東京で日中韓外相会談が開かれる直前に潜水艦発射弾道ミサイルを発射しました。そして、9月5日にも、主要20か国・地域(G20)首脳会議(サミット)に合わせ、弾道ミサイルを発射しました。

 あまりに頻繁に発射されるため、最近では「またか」と思うだけで、すぐに忘れてしまう方も多いでしょう。しかしながら、北朝鮮の弾道ミサイル戦力は、確実に能力を高め、私たちの命を脅かす存在になりつつあります。

 では、その能力はどこまで来ているのか、本当に脅威なのか解説したいと思います。

 なお、この記事は2部構成です。今回は第1回として、北朝鮮が保有するミサイルの能力を解説し、第2部では、北朝鮮が弾道ミサイルによって描いている戦略を解説します。

■地上発射型弾道ミサイル

 弾道ミサイルは、通常、その射程距離で分類されます。この分類方法では、短距離弾道ミサイル、中距離弾道ミサイル、大陸間弾道ミサイルなどに分けられます。

 しかし、この記事では、日本にとっての脅威を考えるため、次の4つに分類します。

(1)日本に到達できないミサイル(2)日本に到達するミサイル(3)日本を飛び越えてしまうミサイル(4)戦力としては考えられないミサイル

(1)日本に到達できないミサイル
 射程が短く、韓国を目標とすることが間違いないミサイルです。KN−02以外は、かなり古いミサイルですが、弾頭の小型化ができれば、どれも核弾頭を搭載することも可能です。
・FROG
・KN−02
・スカッド

(2)日本に到達するミサイル
・ノドン
 威力のある(重い)弾頭を搭載した場合でも、射程は1000キロを超えるとみられ、日本のほぼ全域を射程圏内に収めることができます。

(3)日本を飛び越えてしまうミサイル
 これらは、日本を飛び越える能力を持っていますが、日本を狙うことも可能です。しかし、必要以上に高価なミサイルを使う事になるため、通常は、そうした使い方はされません。

 ですが、特殊な打ち方(ディブプレスト弾道及びロフト弾道。詳細は後述)をすることで、日本の弾道ミサイル防衛を突破させることができるため、注意が必要です。
・ムスダン
・テポドン2号
・KN−08(開発中)

(4)戦力としては考えられないミサイル
 技術を積み上げるための試作ミサイルとみられており、実戦配備されていない。
・テポドン1号

■日本にとって脅威となるのは?

 こうして見てみると、日本に脅威となるミサイルは、一部のものだけだと分かります。
 以下、もう少し詳しく見てみます。

(a)ノドン

 ノドンミサイルに関して注目されるのは、「移動式発射機」で運用されているという点です。普段は、山をくり抜いた基地などに隠されており、発射するときだけ、外に出て発射します。

 移動式発射機が停止してから、ミサイルを発射するまでに要する時間は極めて短く、いわゆる「策源地攻撃」(発射されたミサイルや飛来する航空機を迎撃するのではなく、それらを運用する根拠地、ミサイル基地や発射機、そして飛行場などを攻撃すること)によって、ミサイルの発射を阻止することが困難です。

 そして、もう一つ注目すべきなのは、その数です。

 一部は、サイロと呼ばれる地中の縦穴に入れられた固定式の発射機が使われますが、多くは移動式の発射機で運用されます。これら発射機が、約50基あると見られています。

 9月5日の弾道ミサイル発射では、3発がほぼ同時に発射され、ほぼ同時に着弾したとみられています。つまり、50機の発射機があるため、50発の同時発射・同時着弾が可能ということです。ただし、実験の状況を見ると、正常に飛翔しないミサイルが、かなりありそうです。

 この大量のミサイルの同時発射は、戦術手法としては、「飽和攻撃」と呼ばれるものです。北朝鮮は、敵の防御手段、この場合、日本の弾道ミサイル防衛網の持つ能力を上回る、大量のノドンミサイルを同時に撃つ戦術が可能なのです。それによって、発射したノドンミサイルの多くが、撃ち落とされますが、一部は、目標に着弾させることができることになります。

 当然ですが、防衛省は、何発以上になると、ミサイル防衛網が飽和するのかは公開していません。ですが、50発のミサイルによる同時攻撃は、相当なものであることは間違いありません。そして、もし1発だけがミサイル防衛網をくぐり抜けたとしても、それが核ミサイルだったのならば……。

 さらに、実は飽和攻撃よりも、もっと明確に危険であると言える事実があります。

 それは、ノドンミサイルの総量です。北朝鮮は、300発を超えるノドンミサイルを保有していると見られています。50発の発射機からミサイルを発射後、再度ミサイルを搭載することで、また50発のミサイルが発射できます。再装填の時間は、明らかではありませんが、長くかかったとしても数時間で再装填できるはずです。

 それに対して、日本の弾道ミサイル防衛の主力であるイージス艦は、現時点ではこんごう型護衛艦4隻のみです。そしてこのイージス艦による弾道ミサイル防衛は、1隻で日本全域をカバーすることは、現時点では無理です。つまり、整備中の1隻が常にあることを考慮すると、海自がどれだけ努力しても、2隻+1隻での運用になります。そして、こんごう型護衛艦は、迎撃ミサイルのSM−3を最大限搭載しても、96発しか搭載できません。

 北朝鮮が、イージス艦が1隻しか防衛できていない地点に対して、ミサイルを集中的に運用すると、SM−3ミサイルが百発百中だったとしても、96発のノドンミサイルしか迎撃できないのです。イージス艦2隻でカバーできる地点に対して、弾道ミサイルが発射されたとしても、最大限迎撃出来る数は192発です。ノドンミサイルの総量よりも、明らかに不足します。しかも、イージス艦がSM−3ミサイルを格納、発射するVLSと呼ばれる発射機は、イージス艦を航空機による攻撃から防衛するためのSM−2ミサイルや対潜水艦用のASROCミサイルも格納するため、基本的に全弾SM−3を搭載することはありません。そして、言うまでもないことですが、撃墜確率が100%ということもあり得ません。

 さらに、現時点では不確実情報ですが、9月5日に行われた発射では、1発のノドンミサイルから、複数の弾頭を切り離し、別々の目標に落下させる「MIRV(ミーブ=弾道ミサイルの多弾頭化)」という技術を実証してみせたとの情報があります。切り離しは、ロケットモーターの燃焼が終わり、大気圏外にでると順次行われるため、通常SM−3ミサイルによる迎撃よりも先になります。つまり、迎撃するべき目標の数が、ミサイルの総量以上に増えるのです。

 また、ミサイル防衛網は、イージス艦の海上配備型迎撃ミサイル「SM−3」だけではなく、地対空誘導弾パトリオット「PAC−3」ミサイルも、これを構成しています。しかし、パトリオットPAC−3の防護範囲は狭いため、パトリオットが展開していない場所にミサイルを撃たれた場合は、そもそも迎撃出来ません。

 つまり、北朝鮮のノドンによる量的攻撃力は、自衛隊による弾道ミサイル防衛を、量的に凌駕してしまっているのです。

(b)ムスダンとテポドン2号

 ムスダンは、ノドンと同様に移動式発射機で運用され、発射を阻止することが難しいという特質は同じです。ただし、射程が3200キロ以上であり、グアムにも届くとみられています。

 テポドン2号は、サイロで運用されており、位置は衛星などで把握できていると思われますが、発射の兆候を外部から確認することが困難な上、サイロは堅固に作られているため、威力の高い爆弾などでないと、破壊が難しくなっています。

■ディプレスト弾道とロフト弾道

 ムスダンとテポドン2号は、ノドンと同様の特徴の他に、日本に対して使用される場合は、別の特徴に注目しなければなりません。それは、「ディプレスト弾道」、および「ロフト(あるいはロフテッド)弾道」と呼ばれる弾道ミサイルの特殊な攻撃方法が可能だということです。

 ここからは、ムスダンに絞って、シミュレーションを行ってみます。テポドン2号は、ムスダン以上に“虎の子のミサイル”であり、こうした使用方法をされる可能性が低いためです。

 弾道ミサイルは、基本的に打ち上げた後は、慣性と地球の重力に従い、落下するだけです。つまり、ボール投げと同じと言えます。

 通常の発射では、最小エネルギー弾道と呼ばれる、最も長射程となる弾道でミサイルを発射します。この時、発射、そして落下時の角度は、約45度です。

 これに対して、ディプレスト弾道は、野球のライナーのように、低い角度でミサイルを打ち上げる方法です。ロフト弾道は、これとは逆に、テニスのロビングと同じで、極端に高い角度で弾道ミサイルを打ち上げます。結果的に、射程はどちらも短くなります。

 つまり、日本を大きく飛び越えることのできるこれらの弾道ミサイルは、日本を狙う際に使用する場合は、燃料を少なくしてノドンと同じような弾道をとるのでなく、ディプレスト弾道あるいはロフト弾道によって、攻撃が可能なのです。

 このディプレスト弾道とロフト弾道は、質的に、自衛隊による弾道ミサイル防衛を突破できる可能性があります。

 ここでは、シミュレーションを行うため、ムスダンの射程を、平壌からグアムにも到達可能な3350キロ程だと仮定します。

 最小エネルギー弾道での飛翔経路は、図1のようになります。

 打ち上げ角度45度。弾道ミサイルは、目標であるグアムまで18分ほどで到達し、最大弾道高度は960キロ程です。

 これに対して、ムスダンをディプレスト弾道で発射し、東京を狙った場合は、図2のような弾道となります。

 打ち上げ角度は7.7度。東京まで、わずか4分で到達します。最大弾道高度も35キロしかありません。

 高く打ち上がらないため、発見が遅くなる上、ノドンであれば、東京に到達するまで11分かかりますが、このムスダンのディプレスト弾道だと4分しかかからないため、奇襲効果が高くなります。

 しかし、ディプレスト弾道の最も恐ろしい特徴は、奇襲効果ではありません。最大弾道高度が低いため、イージスSM−3での迎撃が困難だからです。SM−3の最低迎撃高度は、70キロと言われています。

 ただし、このシミュレーションは、空気抵抗までシミュレートできる高度なシミュレーターではないため、このディプレスト弾道での弾道は、実はかなり不正確です。実際のディプレスト弾道は、垂直に近い急角度で打ち上げた後、重力ターンという技術を使って、角度を変えます。そのため、単純に先ほどのシミュレーションよりも10キロ以上は、最大弾道高度が高くなります。ですが、それでも70キロよりも低い高度で飛ぶ可能性が高いでしょう。

 日本の弾道ミサイル防衛は、日本全域の防衛をイージスSM−3によって行い、重要な地域はパトリオットPAC−3を使い、二重の防衛をすることになっています。

 しかし、北朝鮮が、ムスダンをディプレストで発射すると、パトリオットPAC−3でカバーしきれない地方都市などは、防護できない可能性があります。

 次に、ムスダンをロフト弾道で発射し、東京を狙った場合は、図3のような弾道となります。

 打ち上げ角度は76度。東京到達まで23分もかかります。最大弾頭高度は、1630キロです。

 高く打ち上がり、落下してくるまで時間もかかるため、発見がし易く、イージスSM−3での迎撃は、通常の最小エネルギー弾道での飛翔よりも容易です。

 ロフト弾頭での特徴は、落下時の速度が速く(大気圏を垂直に落下してくるため、空気抵抗による速度低下が少ない)、パトリオットPAC−3での迎撃が困難なことです。パトリオットPAC−3は、ノドン程度の射程(=速度)を持つミサイルの迎撃用に開発されています。ムスダンは、ノドンよりもはるかに高速になるため、PAC−3での迎撃が困難で、迎撃できたとしても、防護できる範囲が狭くなります。

 このロフト弾道を、北朝鮮が戦術的に選択するケースは、ノドンの大量発射により、イージスSM−3の残弾が少なくなり、SM−3による防衛が困難になった状況で、東京などイージスSM−3、パトリオットPAC−3の2層での弾道ミサイル防衛が行われている重要地域を攻撃する場合です。

 以上のように、本来グアム用と考えられるムスダンを、ディプレスト弾道及びロフト弾道で使用することは、日本の弾道ミサイル防衛網を突破し、攻撃を行うことが可能となるため、意味があります。

 北朝鮮の技術で、このディプレスト弾道、ロフト弾道が可能なのかということに疑問を持つ方もいるでしょう。しかし、北朝鮮は、既にこれらの特殊弾道でミサイルを飛翔させる技術は保有していると見るべきです。

 ディプレスト弾道については、先に述べた重力ターンという技術が必要になりますが、これは、衛星軌道上に物体を投入する場合には必須の技術です。北朝鮮は、2012年に、テポドン2号を改造したロケットで、衛星軌道への物体投入に成功しているため、少なくともこの重力ターンを正確に制御できることは分かっています。大気圏内に、浅い角度で再突入させ、目標に正確に着弾させる技術については、現時点では不明ですが、研究を行っていることは間違いありません。

 また、ロフト弾道については、本年6月にムスダンが発射された際、ロフト弾道での発射であったと見られていることから、既に能力は獲得していると考えられます。

■潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)

 次に、最近になって北朝鮮が開発を進めている潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)について、考えてみましょう。

 SLBMは、弾道ミサイルとしては、地上発射型の弾道ミサイルと違いはありません。異なるのは、潜水艦から発射することができるという点です。

 歴史上、初期のSLBMは、潜水艦が浮上してから発射していました。現代のSLBMは、潜水艦が水中に潜ったまま発射可能となっており、北朝鮮も、この潜航したまま発射可能なSLBMを開発しているようです。

 SLBMが、大きな意味を持つのは、プラットフォームである潜水艦が、海中を自由に移動できる点と、潜水艦であるため、姿を隠すことが容易であることです。SLBMの特質の一つは、潜水艦が海中を移動できるため、ミサイルの射程が目標に届かなければ、届く距離まで近づける点にあることは、誰しも理解できるでしょう。

 ですが、日本にとっての脅威を考える場合、最も重要な特質は、北朝鮮とは別の方角からミサイルが飛翔してくることです。

 弾道ミサイル防衛を実施するための第一歩は、飛翔している弾道ミサイルを発見することです。

 発射された弾道ミサイルを、最初に補足するのは、発射炎の赤外線を捉える早期警戒衛星となります。しかし、この早期警戒衛星の情報は、弾道ミサイル迎撃を行うためには正確性に欠け、レーダーによる補足が必須です。

 弾道ミサイル防衛用のレーダーとしては、通称「ガメラレーダー」と呼ばれるFPS−5が有名です。このFPS−5は、全周360度を監視するために、それぞれ120度の範囲をカバーする3つのレーダーが、3角柱の表面に取り付けられています。この中で、弾道ミサイルを補足追尾できるのは、1つの面だけなのです。

 この他に、イージス艦のSPY−1レーダーやFPS−3改と呼ばれるレーダーも、弾道ミサイルの補足追尾ができますが、それぞれ弾道ミサイル用の特殊なモードを使う必要があり、弾道ミサイル追尾中は、他の機能が制限されます。

 つまり、弾道ミサイルの補足、追尾を行うためには、ある程度の準備時間が必要なのです。しかしながら、潜水艦を使い、予想外の方位からSLBMを撃たれると、早期警戒衛星からの警報を受けて、これらレーダーの準備をしても、迎撃が間に合わなくなる可能性が高くなります。

 しかも、実際の戦術としては、地上発射型弾道ミサイルの攻撃も同時に行われる可能性が高いと考えられます。

 自衛隊としては、レーダーのリソースを、大量に発射される地上発射型弾道ミサイルに振り向けるか、意外な方向から奇襲を行うSLBMに向けるか、瞬時に判断しなければならなくなります。そして、そのリソース配分が間に合ったとしても、地上発射型弾道ミサイルを補足追尾するレーダーが減ることは間違いないため、対処能力が足りなくなる(飽和攻撃)可能性が高くなります。

 このため、SLBMは、数が少なくとも、非常に脅威なのです。

■北朝鮮のSLBMと潜水艦技術

 北朝鮮のSLBM技術は、近年まであまり情報がありませんでした。しかし、2014年頃から動向が報じられるようになり、2015年には北朝鮮自身が、発射実験を行ったと宣伝しています。

 詳細な情報が公開されていないので、判断は難しいところですが、既に潜水艦からの水中発射には成功しており、一定の技術が確立されたと見るべきです。

 水中発射以外の弾道ミサイルとしての能力は、ムスダンの原型となったロシア製のミサイルR−27が、もともとSLBMであったことから、北朝鮮は十分な能力を持っていると思われます。

 一方で、SLBMを運用する潜水艦に関しては、北朝鮮の能力は非常に低いものです。北朝鮮の主力潜水艦であるロメオ級は、旧ソ連で1950年代に設計された旧式潜水艦で、艦首の形状が現代の潜水艦のように、水中での航行に適した流線型ではなく、水上での航行に適した水上艦のような形状です。言うなれば、水中に潜ることもできる艦程度の性能です。

 ただし、北朝鮮がSLBM運用のために新造したと思われ、一部でシンポ型(あるいはGORAE型)と呼ばれる潜水艦は、船首形状が流線型になっており、技術的には向上が図られているようです。しかし、静粛性は、日米のレベルに到達しているはずはなく、日米が動向を監視しようと思えば、質的には問題ありません。

 また、更に新型となる潜水艦の建造を始めているとの情報もあります。

 問題は、潜水艦を追いかけるためには、港の近くで日米の潜水艦が待ち構え、追尾を続ける必要があることです。現在、海自の潜水艦部隊は中国に対する備えで忙しく、この北朝鮮の潜水艦追尾任務による負担は、かなり厳しいものと思われます。そのため海自は、来年度の概算要求に、対潜水艦能力を向上させるための施策を多く盛り込んでいます。

 SLBMに対処するためには、追尾する潜水艦、及び他の対潜部隊(水上艦、哨戒機)が、SLBM搭載潜水艦の動向を常に監視・報告し、奇襲を防止する必要があります。そして、実際にSLBMを発射する公算が高ければ、地上発射弾道ミサイルに対する策源地攻撃と同じように、SLBMが発射される前に、潜水艦を撃沈する必要があります。

 このSLBM対処は、冷戦時代にアメリカがソ連に対して行ってきたものと同じです。

 質的には、海自は充分に対処できるでしょう。将来的な課題としては、もし北朝鮮が原子力潜水艦を建造した場合は、海自も原子力潜水艦を持たざるを得ないという点があります。海自の通常動力型潜水艦は、高い静粛性を持つ優秀な艦ですが、原子力潜水艦の速度について行くことはできません。

自衛隊はどう対処すべきか?

 ここまで随所で触れていますが、最後に北朝鮮の弾道ミサイルに対する対処として、何をすべきなのか、そしてその課題は何なのか整理してみます。

 大量に運用されるノドンの脅威を排除するためには、やはり弾道ミサイル防衛の量的拡大は必要です。ですが、こちらが量的拡大を図るよりも、北朝鮮がノドンを量産する方が容易です。

 そのため、やはり対処として、策源地攻撃を行う能力が必要です。具体的には、湾岸戦争において「スカッドハント(スカッド狩り)」を行うため、米英の特殊部隊がスカッドミサイルの移動式発射機を捜索したように、自衛隊にもそうした特殊作戦、あるいは長距離徒歩偵察の能力拡大が必要です。陸自特殊作戦群の能力は、秘密のベールの彼方ですが、こうした努力は、実際に行われていると思われます。

 同時に、北朝鮮の防空火網の対応可能高度以上の高空から、ピンポイント爆撃できる能力についても、LJDAM(レーザーJDAM)などの拡充が必要でしょう。F−2戦闘機の能力向上は、来年度の概算要求にも盛り込まれています。

 ムスダンによるディプレスト弾道とロフト弾道攻撃に対しては、弾道ミサイル防衛の質的向上が欠かせません。イージスSM−3とパトリオットPAC−3の能力向上は、スケジュールにのっとって、実行されています。

 SLBMに対しては、海自の対潜能力向上、特に常時継続した弾道ミサイル潜水艦の監視を行うため、量的な拡大が必要です。そして、これは来年度の概算要求の主要要求項目となっています。

 以上のように、課題は明確であるため、防衛省も対策は講じています。しかし、北朝鮮の動きは予断を許さないものです。対策は、常に見直して行く必要性があるでしょう。

※今回は北朝鮮の弾道ミサイルが日本にとって脅威かを論じましたが、次回(10月13日掲載予定)はアメリカとの関係を中心に解説します。

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■数多久遠(あまた・くおん) ミリタリー小説作家、ブロガー。元航空自衛隊幹部。自衛官として勤務中は、ミサイル防衛や作戦計画の策定に携わる。その頃から小説を書き始め、退官後に執筆した『黎明の笛』セルフパブリッシングで話題になったことから、作家としてデビュー。一方、ブロガーとしても活躍し、ミサイル防衛、防衛関係法規、防衛力整備など、防衛問題全般で鋭い解説記事を書いている。著書に、『黎明の笛』、『深淵の覇者』(共に祥伝社)がある