北ミサイルはどこまで脅威なのか(下) 核搭載可能な“小型化”成功の恐れ

北ミサイルはどこまで脅威なのか(下) 核搭載可能な“小型化”成功の恐れ

[写真]2012年4月に行われた故金日成主席生誕100年の記念軍事パレードに登場した「ロケット」(ロイター/アフロ)

 北朝鮮による弾道ミサイル発射が活発化しています。8月末には、地上からではなく、潜水艦から発射されました。先月には5回目となる核実験も行い、「核ミサイル」への懸念も高まっています。予想以上の軍事的技術の進展も指摘される北朝鮮。その本当のところは、どの程度の“実力”なのか。元航空自衛隊幹部で作家の数多久遠氏に寄稿してもらいました。

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 前回の記事(https://thepage.jp/detail/20161011-00000001-wordleaf)で、北朝鮮の弾道ミサイルは、既に日本にとって非常に脅威であることを述べました。

 主要な脅威であるノドンミサイルは、日本の弾道ミサイル迎撃能力を超えるほど多数が配備されている上、「策源地攻撃」によって破壊することも困難です。ムスダンミサイルは、ディプレスト弾道、ロフト弾道による攻撃で、弾道ミサイル迎撃網を突破してしまう可能性があります。それに加え、北朝鮮が潜水艦発射弾道ミサイル運用能力を確保すると、相乗効果によって弾道ミサイル迎撃がより困難になります。

 しかし、北朝鮮の弾道ミサイルを脅威だとするのは、ある意味で間違いです。

 軍事的な“力“としての脅威だけでなく、北朝鮮の弾道ミサイルの現実的な脅威を考えるためには、アメリカの存在、アメリカの抑止力を考える必要があるためです。

 今回は、北朝鮮の弾道ミサイルは、はたして脅威なのかという問題に、アメリカによる抑止力が、どのように関係しているか、そして今後も抑止が機能するか考えてみます。

軍事的な意味における「脅威」

 脅威とは「意思」と「能力」であるとされます。その際の意思と能力は、足し算で考えるのではなく、かけ算で考えるものだとされています。

 アメリカが日本にとって脅威かと考えた場合、能力は非常に高いものの、同盟関係にある日本を攻撃する意思はゼロです。足し算であれば、脅威は意思はゼロでも、能力は高いため、相応に高いということになりますが、かけ算ではゼロをかけるため、脅威はゼロだとする考え方です。

 北朝鮮の弾道ミサイルに関しては、能力は高いものの、意思となると微妙です。もちろん、北朝鮮は日本を敵視していますから、その意味では意思はあると言えます。

 ですが、だからと言って、北朝鮮が日本に弾道ミサイル攻撃をかけてくると考える人はほとんどいないでしょう。その理由は、言わずもがな、アメリカの存在です。更に言うなら、アメリカの核を含む戦力によって、抑止され、攻撃の意思を持てずにいるためです。(もちろん願望はあるでしょう)。

 この事実を踏まえると、北朝鮮の弾道ミサイルが、日本にとって真に脅威かと言う問いの答えは、アメリカによる北朝鮮の抑止が、今後も機能するかどうかという点にあると言えます。

 抑止は、脅威と同様の意思と能力に加え、その二つが相手に認識されることによって成立します。

 アメリカによる北朝鮮の抑止は、アメリカ世論が孤立主義的な方向にシフトしていることから、意思の点では低下傾向だという事実があります。韓国や日本が独自で防衛を行うべきと主張するトランプ氏のような人物が、大統領になる可能性が出てくるほどです。

 こうしたアメリカ世論の傾向に加えて、北朝鮮の核と弾道ミサイルが、アメリカ、特にアメリカ本土に脅威を与えることで、北朝鮮に対する抑止が充分に機能しなくなる可能性があります。

 特に、トランプ氏が支持を受けていることからも分かるとおり、日本が北朝鮮から攻撃を受けた際、アメリカが報復として力を行使する懲罰的抑止が機能するかどうかは、極めて怪しいと言えるでしょう。

 北朝鮮に対して軍事力を行使すれば、核ミサイルがアメリカ本土に降り注ぐとなった時、アメリカ世論が報復行動をとってくれるかは極めて不透明だと言えます。

 そうなれば、北朝鮮の弾道ミサイルは、日本にとって恐るべき脅威となります。

アメリカへの弾道ミサイル攻撃

 北朝鮮が現在、保有する弾道ミサイルのうち、アメリカに到達する可能性があるのは、グアムに届くとみられるムスダンと衛星軌道にも物体を投入可能なテポドン2号です。

 また、開発中とみられるKN−08が、テポドン2号以上の能力を持った大陸間弾道ミサイル(ICBM)となるもようです。さらに改良型のKN−14を開発中との情報もあります。

 加えて、射程など能力がよく分かっていない潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)であるKN−11があります。ただしKN−11は、大きさなどからムスダンに近い能力だと思われます。しかしながら、現在の北朝鮮潜水艦の能力では、プラットホームであるシンポ型潜水艦が自由に行動できる可能性は皆無に近いため、現実的な戦力としては疑問です。

 これを踏まえると、現状ではアメリカ本土に打ち込まれる可能性があるのは、テポドン2号ですが、少数がサイロ運用されているだけです。アメリカは、大陸間弾道ミサイルからアメリカ本土を防衛するため、テポドン2号を迎撃可能な「GBI」という迎撃ミサイルを、アラスカとカリフォルニアの基地に配備しています。北朝鮮がテポドン2号を発射しても、迎撃され、アメリカ本土には到達しない可能性が高いでしょう。

 しかも、テポドン2号が、サイロから正常に発射されるかどうかは、未知数です。

 今後、ノドンなどと同様に、移動式発射機で運用される可能性が高いKN−08(あるいは14)の開発、配備状況によって、アメリカに対する弾道ミサイル戦力は大きく拡充される可能性があります。

 もしKN−08が大量に配備されると、北朝鮮とアメリカの関係は、現在と大きく変容するでしょう。

 長く続いた冷戦期にも、日本においては、ほとんどまともに考えられず、メディアが報道することも少なかった核抑止について、真剣に考えなければならない時代に突入します。

核兵器の搭載は可能なのか?

 北朝鮮は、9月9日に通算5回目の核実験を行いました。威力は、今まででも最大とみられ、高出力化ができていることは間違いありません。小型化については、各方面で分析されていますが、今回の実験は、ブースト型原爆であったと見られており、実験レベルでは、弾道ミサイルに搭載可能なほど、小型化できている可能性が高いようです。

 ですが、弾道ミサイルの発射、及び大気圏への再突入では、搭載される核弾頭も、非常に強い加速度と振動にさらされます。精密に作られている核弾頭がその衝撃に耐えて、正確に作動できるようにするためには、もう少し時間がかかるでしょう。

 実際に搭載するにあたっては、問題となるのは“小型化”と表現されていますが、実際にはサイズではなく重量です。

衛星打ち上げ用のロケットでも、衛星格納部が膨らんだロケットがあるように、宇宙空間を飛ぶミサイルに、空気抵抗は関係ありません。地表から発射後は、徐々に加速しながら上空に向かいます。高い速度となるのは空気の薄い高空なので、それほど影響はないのです。

 重量が重いと、同じエネルギーで打ち上げても、飛距離が短くなります。逆に言えば、核弾頭の小型化ができなければ、ミサイルを大型化させれば、核弾頭は搭載できます。広島と長崎に投下された原爆は共に5トン程度と非常に巨大で重い核爆弾ですが、米アポロ計画で人類を月面まで運んだサターン5型ロケットなら、2発を積んで地球の裏側にさえ到達させられます。

 このため、分析されている“小型化”は、他の弾頭と同じ程度の軽量化ができているかという意味になります。

 上記のように、相当程度に“小型化”は進んでいる模様ですが、実戦配備できるようになるためには、震動に対する信頼性をあげなければならないため、恐らくもう少しかかるでしょう。

 なお、日本に対しての話では、そもそも核弾頭を搭載できるかは、あまり意味はありません。

 ここまで書いたように、日本の弾道ミサイル防衛は、既にかなりの実力をつけています。北朝鮮が核弾頭を弾道ミサイルに搭載できるとしても、大量の核弾頭を作るためには、まだ時間がかかります。少数では、弾道ミサイル防衛によって、迎撃されてしまう可能性が高いのです。

 また、一部では指摘がされていますが、核弾頭以外にも、脅威となるものがあります。北朝鮮は、核弾頭を作るぐらいですから、大量の放射性廃棄物を抱えています。これを粉末状にして、通常の弾頭に仕込むことが可能です。これは、ダーティボムと呼ばれます。
 もしこれが東京上空で爆発すれば、福島の原発事故が東京で起きたことと同じ結果となります。東京23区が帰還困難地域にでもなれば、その経済的損失は計り知れません。ダーティボムの被害で、直接死ぬ人はいないでしょう。しかし、経済の混乱で、生計が成り立たなくなる人が何人出てくるかは、想像もできません。

 また、北朝鮮は、ダーティーボム以外にも、化学兵器や生物兵器も保有しており、これらが弾道ミサイルに搭載される可能性があります。

誰が何を抑止するか?

ここでは、核抑止の理論については深く触れません。軍事に造詣のある方でも、核抑止というとMAD(Mutual Assured Destruction、マッド=相互確証破壊の略語)しか知らない方も多いでしょう。安全保障の入門書でもMADしか書かれておらず、それが提唱された理由も、MADが決して平和的な核戦略であるとは限らないことも語られていないことがあります。

 この問題が難しいのは、議論されるときに何を抑止するかが非常に不明確なまま議論がされることが多いことです。

 先日も、安倍首相が、アメリカの核先制不使用宣言に反対したとの“誤報”が流されましたが、核を先制使用にコミットすることで抑止したいのは、核を用いない攻撃を抑止することにあることを認識する必要があります。

 アメリカが核の先制不使用を宣言すれば、北朝鮮が核兵器を使用しない限り、韓国や日本に、化学兵器や生物兵器、それにダーティボム弾頭を弾道ミサイルで打ち込んでも、北朝鮮への核による反撃はしないという意味となります。

 北朝鮮は、延坪島を砲撃したり、浦項級コルベット天安を魚雷攻撃したりといった数々の無法を行っていますが、この程度であれば、アメリカが対応してくる可能性は低いと考えているためです。

 アメリカに対して、核ミサイル攻撃が可能になれば、“この程度”が大きく拡大する可能性があります。

 日本にとっては、北朝鮮の核及び弾道ミサイルが、日本にとって直接脅威であるかどうかよりも、アメリカにとって脅威となるかどうかの方が、より重要なのです。

 この問題の核心は、北朝鮮の弾道ミサイル及び核兵器(のアメリカに対する脅威)が、北朝鮮に対するアメリカの関与、それも、日本への攻撃(核攻撃だけでなく、核を用いない通常兵器、化学兵器、生物兵器などの非核攻撃を含め)に対して、アメリカの行動を “抑止”してしまうかどうかにかかっている点です。

 前述したとおり、北朝鮮が日本に化学兵器や生物兵器、それにダーティボムを使って弾道ミサイル攻撃をしても、核弾頭を搭載した弾道ミサイルがアメリカ本土に発射される可能性があれば、関与を躊躇する可能性は充分にあります。もし、トランプ氏が大統領になれば、その可能性の方が高いでしょう。

 北朝鮮が、国際社会の圧力を受けても、執拗なまでに核と弾道ミサイルの開発を進める理由は、金王朝を維持するために、アメリカの関与を抑止することにあるのです。

 SLBMであるKN−11が配備されても、潜水艦の能力が向上しない限り、GBIによって防衛されるアメリカに、ミサイルを到達させることは難しいでしょう。

 移動式発射機に搭載され、生残性が高いKN−08(もしくは14)型ICBMが、いつ実用化され、どの程度配備されるかが、当面の情勢を決める鍵です。

 具体的なポイントは、KN−08の配備数がGBIの配備数を上回ったり、GBIによる迎撃を回避するための、軌道制御能力を持つかどうかです。もし、そうなれば、北朝鮮はアメリカに核爆弾を打ち込める状態となります。

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■数多久遠(あまた・くおん) ミリタリー小説作家、ブロガー。元航空自衛隊幹部。自衛官として勤務中は、ミサイル防衛や作戦計画の策定に携わる。その頃から小説を書き始め、退官後に執筆した『黎明の笛』セルフパブリッシングで話題になったことから、作家としてデビュー。一方、ブロガーとしても活躍し、ミサイル防衛、防衛関係法規、防衛力整備など、防衛問題全般で鋭い解説記事を書いている。著書に、『黎明の笛』、『深淵の覇者』(共に祥伝社)がある