日米同盟破棄で日本は繁栄か沈没か 外交論客3人が分析

日米同盟破棄で日本は繁栄か沈没か 外交論客3人が分析

安倍外交は大慌て(共同通信社)

 精製が不十分な蜂蜜がそうであるように、シンゾーとドナルドの「蜜月」には、“甘さ”の中に凄烈な“苦み”が混ざり合う。

 日米同盟を根底から覆す発言が、トランプ大統領の口から飛び出したと報じられた。60年近く前に調印された安保条約が破棄されたらどうなるのか。プロの視点から見た日本の未来の姿は──。

◆官房長官は火消しに躍起

「報道にあるような話はまったくありません。大統領府からも、米国政府の立場と相容れないものであるという確認を受けている」

 6月25日、記者会見で菅義偉・官房長官はそう強調した。発端は、同日に米ブルームバーグ通信が伝えたアメリカのドナルド・トランプ大統領による「日米同盟破棄発言」だ。

 記事によればトランプ大統領は、日本が攻撃されれば米国が援助することを約束するが、米国が攻撃された場合は日本の自衛隊による支援が義務ではない日米安全保障条約について「あまりにも一方的だと感じて」おり、「日米安保を破棄する可能性」について側近に漏らしたという。

 1960年に締結された日米安保条約では、米国は日本の防衛義務を負う。その代わり、日本は在日米軍基地や空域を提供し、さらに年間約2000億円という巨額の米軍駐留経費を負担している。

 この報道に大慌てだったのが日本政府だ。

「菅官房長官が否定したのはもちろんのこと、複数の外務省幹部も“あり得ない”と一斉に口を揃えました。これまでにも、トランプ大統領の奔放な発言はたびたび報じられたが、日本政府のスタンスは一貫して静観の構えだった。しかし今回は“火消し”に躍起になった。それほど今回の報道はこの国の安全保障の根幹を危うくさせるものだった」(全国紙政治部記者)

 さらにダメを押すかのようにトランプ大統領は6月26日に放送された米テレビ局「FOXビジネス」のインタビューでも、日米安保への不満を口にした。

〈もし日本が攻撃されれば我々は第3次世界大戦を戦うことになり、命を懸けて日本を守る。しかし、もし我々が攻撃されても日本は我々を助ける必要はまったくない。彼らはソニー製のテレビでそれを見るだけだ〉

 東京で安倍晋三・首相とゴルフや相撲観戦に興じた、わずか1か月前の蜜月ぶりは何だったのか──そう思えてしまうほどの、突き放した物言いだった。

 トランプ大統領の突然の“変節”は何を意味するのか。外交のスペシャリストたちが、本誌の取材に独自の考察を示した。

「この発言の背景には“ホルムズ海峡”がある」

 そう指摘するのは、外交ジャーナリストで作家の手嶋龍一氏。

「安倍首相がイランを訪問中の6月13日、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶホルムズ海峡で日本のタンカーが攻撃を受けて炎上しました。米国政府はイランの革命防衛隊による攻撃と断定して非難しましたが、日本は態度を明確にしなかった。こうした姿勢にトランプ大統領は不満を募らせたのではないか」

 実際、6月24日にトランプ大統領はツイッターで日本と中国を名指しし、〈なぜ、我々が他国のために無償で航路を守っているのか。これらの国は、危険な旅をしている自国の船を自ら守るべきだ〉と綴って物議を醸していた。

◆「ブラフ」ではなく「本音」

 とはいえ、日米安保条約はアジアにおける米国の軍事戦略の要でもある。日米同盟が危うくなれば米国にとってもデメリットは大きい。そこにわざわざ踏み込む理由は何なのか。

 産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏は、トランプ発言を「6月28、29日に大阪で開かれたG20に向けた揺さぶりの意味もあった」と見る。

「米国の安全保障にとっても、日米同盟は大きな役割を持っている。もちろん即座に破棄するつもりはないが、トランプ大統領がより互恵的な関係を望んでいることは確かです。また、一番の“親米国”である日本への揺さぶりを通して、アメリカが同盟を結ぶ他の国々についても牽制する狙いがあったのではないか」

 これまでにも、トランプ大統領は時に暴論にも思える発言を繰り返してきた。しかし、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は、今回の一連の発言は「トランプの暴走」にとどまらないと分析する。

「トランプ大統領の発言が、アメリカの多数派の考えを代弁しているということです。それは、発端となったブルームバーグの記事が、“またトランプがおかしなことを言い出した”という懐疑的な論調ではないところからも感じ取れる。大統領自ら“日本はタダ乗りしている。もっと金を出せ”と音頭を取ればトランプ支持層からの賛同の声はもっと大きくなるでしょう。

 日米安保はトランプ大統領があれこれ言ってもすぐに変えられるような脆弱なシステムではない。ですが、そうした『アメリカ人の民意』が膨張すれば、日米同盟が岐路に立たされる可能性は十分あります」

※週刊ポスト2019年7月12日号

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