話題の「北京ビキニ」 発祥の地は北京ではなかった

話題の「北京ビキニ」 発祥の地は北京ではなかった

「上半身裸」も北京ビキニのスタイルの一つ(Imaginechina/アフロ)

 衝撃的なニュースが世界を駆け巡った。中国は北京の夏を彩る男性の定番ファッション「北京ビキニ」が、当局の規制対象になったというのだ。インパクトのあるネーミングだが、中国の歴史に詳しい作家の島崎晋氏によると、発祥の地は「北京」ではないという。島崎氏が解説する。

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〈中国各地で「北京ビキニ」に規制、罰金科す都市も〉──これは今年の7月30日にAFP通信が配信した記事の見出しだが、夏の中国を訪れたことのない人には何が何だかわからないに違いない。ともに掲載されている写真が上半身裸で街中を歩く壮年男性と道端で将棋を楽しむ老人の姿だからなおさらである。これのどこがビキニなのかと。

 しかし。その謎は記事の冒頭を読めばすぐに解消される。「北京ビキニ」が〈夏に公共の場で男性が上着を着ないか、まくり上げて上半身を露出する〉ことを指す、と明記されているからだ。たしかに、上着をたくしあげた腹出し姿であればビキニと命名されたのも納得がいく。

 それでは「北京」のほうはどうかといえば、実のところ「北京ビキニ」発祥の地は北京ではなく、古くから中国の広い範囲で見られた。上着をたくしあげるスタイルは洋服が普及してからだが、それ以前からも、肉体労働者であれば上半身裸は当たり前だった。

 北京生まれでないのに「北京ビキニ」と命名された理由としては、北京が中国の首都であることに尽きるであろう。ビジネスマンや観光客だけでなく外交関係の外国人も多いところだから、外国人の目に見苦しく映る光景を撲滅したい。そのためどこよりも早く公序良俗に則した服装をするようキャンペーンがはられた関係上、「北京ビキニ」の名がつけられたのではなかろうか。

 北京市当局は違反者に対して「指導や氏名の公表」に留めているが、天津市や山東省済南市、遼寧省瀋陽市などでは50元(約790円)から200元(約3150円)の罰金が科せられるだけでなく、裸足にサンダルさえもが規制の対象となったという。当局がここまで踏み込んだ措置に出た背景としては、ネット世論の動向が関係する。中国のSNSのアンケートでは7割弱の人が何らかの規制に賛成しているから、当局も強い反発は起きないものと見越して、罰金刑の導入に踏み切れたのだろう。

 ところで、中国で水着のビキニが広く知られるようになったのは1980年代前半のことで、当時は「三点式游泳衣」、略して「三点式」と呼ばれていた。日本的発想では「二点式」とするほうがよさそうに思えるが、右胸、左胸、股間を隠す三点からなるということで、「三点式」となったようである。ちなみに、トップレスは「露二点」、オールヌードは「露三点」とも呼ばれる。

 1990年代以降は「三点式」の呼び名は廃れ、現在ではビキニをそのまま音訳した「比基尼」の名が定着している。中国でも夏の海水浴場に行けば、ビキニ姿の若い女性を見かけられるはずなのだが、近年はどこの海水浴場も行楽客が多すぎて完全にイモ洗い状態。誰がどんな水着を着用しているか観察する余裕もない状態が続いている。

【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『春秋戦国の英傑たち』(双葉社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』(日本文芸社)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など多数。

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