千葉の国道沿いに実在する「怪しすぎる中華料理店」の正体

千葉の国道沿いに実在する「怪しすぎる中華料理店」の正体

メニューの日本語が怪しい中華料理店(写真はイメージ)

 中国の人口は14億人。海外で暮らす華僑や華人は6000万人。中国人旅行者は全世界で年間延べ1.5億人。──世界のどこにでも、中国人はいる。『もっとさいはての中国』著者の安田峰俊氏が、現代中国のディープな一端を探るべく、関東郊外のとある中華料理店を訪れた。

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 千葉県S市の町外れ。畑の牛糞の匂いをたっぷりと吸い込んで九十九里平野を吹き抜ける強風に「営業中」と書かれた赤いのぼり旗がバタバタと翻っていた。

 私の目の前にあるのは、濃い緑色の看板に赤文字で「中華料理」と書かれた店舗だ。近年、地方の国道沿いなどで増加している中国人経営の格安中華料理店である。なぜか屋根がモダンな三角形なのは、もともと喫茶店か洋食屋だった建物に居抜きで入居したからに違いない。

「塩台湾ラメン」、「桜エヒ飯」、「カレ炒飯」──。中国人が経営する店舗にもかかわらず、黒板になぐり書かれたメニュー名は、なぜかカタカナのみならず漢字まで下手だった。

 他に客はいない。中国東北地方(旧満洲)の出身らしき発音の中国語を話すおばちゃん店長がイスに座ってスマホをいじり、彼女の子どもらしき3歳くらいの男児が走り回って遊んでいる。実にゆるい雰囲気だ。

──この日、私はなぜ千葉県の微妙な中華料理店に来ていたのか。それは、中国人の不法就労者(黒工=ヘイゴンという)事情を追いかけていたからだ。2018年6月現在、在日中国人の総数は74万人。うち不法滞在者は9500人ほどで、多くが不法就労状態にある。もっとも一昔前とは違い最初から不法就労を目的に来日する中国人はほとんどおらず、逃亡した技能実習生やオーバーステイ状態の留学生が大部分だ。

 不法滞在者といえば外国人犯罪のイメージも強いが、実際はささいな理由(職務質問に遭う、重病で入院する、交通事故の被害者になるなど)で不法滞在がバレるだけで入管への収容や強制帰国に遭うため、一般の在日中国人以上に目立たずおとなしく暮らす人も多い。

 ゆえに、黒工たちがどこで何をしているかは、日本人はもちろん正規の在留資格を持つ在日中国人たちもほとんど知らない。

 ただ、彼らの日常をうかがい知る手段はある。中国のチャットアプリ『QQ』の技能実習生コミュニティや黒工コミュニティをのぞいてみればいいのだ。そこには、たとえばこんな投稿があふれている。

〈東京周辺、工事現場、日給1万〜1.8万、黒工OK。〉〈偽造身分証制作、在留カード、保険証、運転免許ほか。格安、高技術。〉

 ほかに携帯電話の加入や住居の賃貸契約の偽装代行、中国人向けのヤミ金情報なども多い。

 そして、私が訪れた中華料理店も、このコミュニティに求人を投稿していた。投稿の内容の真偽を確認したいと考えて、私たちは千葉県の畑の真ん中までやってきたのである。

「ああー。たしかに黒工コミュニティに求人投稿を出したよ。ここは田舎だし、働いてくれる中国人がいないから、コックでもホールスタッフでもいいから人手が欲しくてね」

 勘定のときに中国語でおばちゃんに尋ねると、気さくな様子であっさりと事実を認めた。

「でも、募集に誰も応じてこなかった。うちの店は実際には黒工を雇っていないよ」

 言葉通りに信じていいかは微妙なところだ。ただ、黒工をあえて雇うような中国人の側も、中華料理店を経営しているのに「ラーメン」をカタカナで正確に書けないくらい、日本ナイズされていない人たちであることはわかった。

 おばちゃんに尋ねたところ、こうした格安系の中華料理店には在日華人の元締めがおり、フランチャイズの形で出店しているという。千葉県S市というマイナーな場所に店を出したのも、元締めから紹介されたためだという。

 日本の田舎ならどこにでもあるような、国道沿いの中華料理店。その裏側にも、濃厚なチャイニーズ・コミュニティの深い穴が口を開けていたのだ。

*『もっとさいはての中国』(小学館新書)を一部抜粋のうえ再構成。同書刊行イベント「中国ワンダーランドに魅せられて」(安田峰俊氏×星野博美氏対談)が10月13日に旭屋書店池袋店にて行われます。(詳細→https://www.asahiya.com/shopnews/)

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