日本はポピュリズムに陥らず世界に連携呼びかける先達になれ

日本はポピュリズムに陥らず世界に連携呼びかける先達になれ

自国第一主義にどう立ち向かう?(写真/AFP=時事)

 ツイッターのつぶやきで株価が乱高下し、爆弾を抱えたドローンが世界を攪乱する──。米トランプ政権を筆頭に「自国第一主義」が広がる中で、ますます世界の「不確実性」が増し、国際協調体制は崩壊しつつある。新刊『「国家の衰退」からいかに脱するか』も話題の経営コンサルタント・大前研一氏が最新の国際情勢を総括する。

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 いま世界で何が起きているのか? 「自国第一主義」と「ポピュリズム(大衆迎合主義)」の台頭による衆愚政治の拡大だ。

「アメリカ・ファースト」を掲げるドナルド・トランプ米大統領の制裁関税や移民規制、ボリス・ジョンソン英首相の「ブレグジット(EU離脱)」強行、韓国の文在寅大統領の反日政策、中国の習近平国家主席の現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」、「ブラジルのトランプ」と呼ばれるジャイル・ボルソナロ大統領のアマゾン森林火災放置、そして安倍晋三首相の教育無償化や消費税の軽減税率……などである。

 もともと第二次世界大戦後の世界は、「二度と愚かな戦争はしない」という固い決意の下、過度なナショナリズムにつながる自国第一主義を避けて連携や協調を模索してきた。その動きの中で、国際連合をはじめ、EU、ASEAN(東南アジア諸国連合)、NAFTA(北米自由貿易協定)、AU(アフリカ連合)などが誕生したという歴史がある。

 だが、いま起きている動きは逆だ。自国第一主義とポピュリズムの台頭によって世界は一つではなく、国民国家、さらには民族単位でバラバラになりつつある。

 なぜか? その一因はネット社会になり、スマートフォンで個人個人がフェイスブックやツイッターなどのSNSでダイレクトにコミュニケーションをとって意見を主張し、仲間を見つけることができるようになったことにあると思う。

 典型はフランスのエマニュエル・マクロン大統領の誕生だ。既存政党の基盤がない彼は個人で政治団体「前進!」(現在の「共和国前進!」)を結成し、2017年の大統領選挙に独立系候補として出馬し、いわば徒手空拳で当選した。当初は泡沫候補扱いだったマクロン氏が勝利できたのは、SNSでネット社会の支持を得たからである。その後の総選挙では全選挙区に候補者を擁立し、一気に政権与党になってしまった。

 ことほどさようにSNSなどのネット社会は世界を急速に不安定化させ、大衆が自国(あるいは自説)第一主義に走ってしまう要因になっているのだ。

 もう一つ、技術の進化が世界を変えつつあるのがドローン兵器である。9月に起きたサウジアラビアの石油施設2か所に対する攻撃は、爆弾を抱えた18機の「神風ドローン」と7発の巡航ミサイルによるものとされるが、これは軍事的には衝撃的な“事件”である。

 今回の場合、犯行がイエメンの親イラン反政府武装組織フーシ派であれイランであれ、ドローンはこれまで想定されていた航続距離を大幅に上回る1000km以上の距離を飛行し、極めて精密にピンポイントで目標を破壊しているからだ。

 しかも、ドローンは低空を飛んでくるのでレーダーに捕捉されにくく、イージス艦や迎撃ミサイルでは撃墜できないと思われる。INF(中距離核戦力)全廃条約を破棄したアメリカやロシア、あるいは北朝鮮などはミサイルの開発競争を繰り広げ、日本は陸上配備型弾道ミサイル防衛システム「イージス・アショア」やステルス戦闘機「F-35」の導入を進めているが、安価なドローンで今回のような攻撃ができるのであれば、それらはほとんど意味をなさなくなる。

 ちなみに、いまドローン技術は中国が圧倒的に先行している。1000機のドローンをプログラミング通りに動かして空中に複雑な文字を作ることも可能になっている。このドローンに爆弾を搭載すれば、中国人民軍の台湾侵攻は容易になる。北朝鮮は低空を飛ぶロケット砲を実験しているが、ドローンを使えば、その必要はなくなるかもしれない。「神風ドローン」は、世界の安全保障を一変させる“貧者の戦略兵器”になる可能性もあるだろう。つまり、今や地球上に安全な場所はなくなったのである。

◆「分断」から「連携」へ

 もはや世界は後戻りできない袋小路に迷い込んでいるかのようだ。しかし私は、だからこそ、これ以上、世界の分断は進まないと見ている。トランプ大統領らの自国第一主義の限界や神風ドローンの脅威を考えれば、世界はここで改めて「連携」「協調」への道を模索せざるを得ないと思う。

 アメリカは制裁の強化によってイランの孤立化を狙っているが、それは無謀なことだ。イスラエルを守るためなら、ヨーロッパを巻き込んで交渉していくことは十分可能である。同様に、シリアやロシアも封じ込めずに抱き込んでいくほうが賢明だろう。というのは、疎外されたアルカイダやIS(イスラム国)の動向を見れば、結果は明らかだからである。いわゆる“第三項(他者)”を力で抑えつけて排除しようとすれば、逆に世界は不安定化するのだ。

 あるいは、なぜ国連の常任理事国にロシアと中国が入っているのか? なぜ国連の事務総長は初代のトリグブ・リー(ノルウェー)から現職の(第9代)アントニオ・グテーレス(ポルトガル)まで、すべて大国以外から選出されているのか? あるいは、なぜEUの本部はベルギーのブリュッセルに置かれ、EU議会がドイツとフランスが領土を奪い合ったアルザス・ロレーヌ地方のストラスブールにあるのか? それが「United」や「Union」、すなわち「連合」を象徴するからだ。こうした戦後の歴史に今こそ世界は学ばねばならない。

 そして日本はこれ以上、偏狭な自国第一主義やポピュリズムに陥ることなく、世界に「連携」を呼びかける先達となるべきである。

●おおまえ・けんいち/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。『日本の論点2019〜20』『50代からの「稼ぐ力」』等、著書多数。最新刊は『「国家の衰退」からいかに脱するか』。HPはhttp://www.kohmae.com

※週刊ポスト2019年10月18・25日号

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