なぜ日本人はフリーメイソン陰謀論にハマるのか?

なぜ日本人はフリーメイソン陰謀論にハマるのか?

首都・東京にメイソンのマークが隠されているとの主張も

 名前はよく聞くものの、その実態は謎に包まれているのがフリーメイソンだ。東日本大震災発生時も、「フリーメイソンが“地震兵器”で災害を引き起こした」との陰謀論が飛び交ったが、なぜ日本人はフリーメイソン陰謀説にハマるのか。宗教学者・辻隆太郎氏が分析する。

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 表向きの事実の裏側には、必ず「何者か」による隠された「計画」や「真実」がある。私たちは、その何者かによって騙され、操られているこれが陰謀論だ。

 陰謀論を唱える者は基本的に政府、権威、現状などに対する強い不満を持ち、「今の世界は間違っている」と考える。同時に自らの価値観や考えを無条件に「正しい」と信じ、その正しい考えが世に受け入れられないのは、世界を操る邪悪で強大な「何者か」が妨害するからだと主張する。

 このブラックボックス化した「何者か」に入る格好の団体がフリーメイソンである。フリーメイソン陰謀論によれば、世界中で発生する重大な事件や大災害などはすべてメイソンの仕業とされる。なぜ、そんな突拍子もない言説を多くの日本人が信じるのか。

 そもそも秘密結社のフリーメイソンが誕生した18世紀は自由主義的潮流が勢いに乗る時代だった。旧来の秩序を維持したい保守層からすれば、秘密結社は自らの権威に対抗する危険な存在であり、限定的とはいえ、フランス革命に実際のメイソンが関わったことから、「彼らが革命を主導した」との神話が生まれた。 

 結果、18~19世紀の欧州では、あらゆる社会変革がメイソンを始めとする秘密結社の陰謀と結びつけられた。そうした時代背景のなか、大正期に日本に広まったフリーメイソン陰謀論はユダヤ陰謀論とセットになり、「ユダヤ=メイソン陰謀論」として流通した。この時期、ユダヤ・メイソンは、日本の旧来秩序を脅かす「西洋」そのものの象徴であり、西洋コンプレックスの裏返しとして定着した。

 戦後、日本が再び「一等国」として欧米と肩を並べんとした1980年代に陰謀論が再流行したことを考えると、その構図は今も同じと言える。国内にメイソンが少ないため一般になじみがなく、“謎の組織”感が強いことも、日本でフリーメイソン陰謀論が根強いことの一因だろう。

 陰謀論者にとって、この世界で起こるすべての出来事は陰謀勢力の策略のうちにある。東日本大震災は地中深くに埋められた「地震兵器」の仕業であるし、プッシュホンの「*」は「ダビデの星」を指す。夫婦別姓やジェンダーフリーの推進は「日本転覆を目論むリベラル派の陰謀」とされる。

 これらは一見すると荒唐無稽な主張だが、厄介なことに陰謀を証明する証拠が見つからないことは、陰謀が存在する証拠にされる。すなわち、「絶対にあるはずの証拠が見つからない」→「証拠が残らないくらい巨大な勢力の陰謀」→「そんな大それたことができるのはフリーメイソンくらいだ」と論理が飛躍するのだ。

 このレベルになると、仮に実在するメイソンが「全然、危険じゃないよ」と組織の内情を明かしても、陰謀論者は「あの程度のレベルの人間は真実を知らされていない」と無視する。まさに陰謀論は「虚構」なのだが、この虚構を守ろうとすればするほど主張が壮大になる。嘘を隠すために嘘をつき、傷口がどんどん拡大するようなものだ。

※SAPIO2016年10月号

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