窮地のトランプ大統領 ウクライナ疑惑での弾劾、辞任あるか

窮地のトランプ大統領 ウクライナ疑惑での弾劾、辞任あるか

お騒がせトランプ氏の辞任はあるのか(イラスト/井川泰年)

 10月にCNNが行った、ドナルド・トランプ米大統領への弾劾調査に対する世論調査で、50%の人が弾劾を支持していることがわかった。ウクライナ疑惑をめぐり、トランプ政権はどうなるのか。経営コンサルタントの大前研一氏が考察する。

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 アメリカ連邦議会の下院で、ドナルド・トランプ大統領の「ウクライナ疑惑」に対する弾劾調査が進んでいる。トランプ大統領については、就任当初からロシア疑惑や資産粉飾・脱税、ポルノ女優らへの口止め料支払いなど数々の問題が取り沙汰されてきたが、今回の疑惑では最も窮地に追い込まれているようだ。

 ウクライナ疑惑は、トランプ大統領が7月、来年の大統領選挙で民主党の有力候補になっているジョー・バイデン前副大統領に関する2016年当時のスキャンダルの調査を、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に軍事支援の停止をちらつかせて依頼したとされる問題だ。

 そもそも、今回の疑惑が明るみに出た発端は「ホイッスル・ブローワー(内部告発者)」の存在である。その人物はCIA(中央情報局)職員で、ホワイトハウスに前述の電話記録をコーディングして(プログラム言語に置き換えて)隠蔽するよう命じられたが、それは許されることではないと考え、一部の新聞に情報を提供したのである。

 これに対しトランプ大統領はツイッターで告発者を脅かすような発言を繰り返し、内部告発の内容についても「二次的情報」「間違っている」などと主張している。だが、すでに直接的な情報を持っている2人目の告発者も現われたと報じられ、危機感を強めるトランプ大統領はバイデン前副大統領の「中国疑惑」も持ち出して反撃している。

 しかし、いくらトランプ大統領が抵抗しても、下院は民主党が多数を占めているので、過半数で可能な弾劾訴追の発議は避けられないだろう。過去にアメリカで弾劾訴追のプロセスに入った大統領は1868年のアンドリュー・ジョンソン、1974年のリチャード・ニクソン、1999年のビル・クリントンの3人だ。このうち「ウォーターゲート事件」(民主党本部で起きた盗聴・侵入事件)のニクソンは、上院の弾劾裁判が始まる前に自ら辞任した。

 ただし、ニクソン元大統領の場合は下院でも上院でも与党・共和党が少数だった上、共和党内部の支持も少なかったため、上院で3分の2の賛成が必要な弾劾決議の可決が確実な状況だった。一方、トランプ大統領の場合は、仮に下院で弾劾訴追が発議されたとしても、上院は共和党が多数を握っているので、20人くらいの共和党議員が寝返らない限り、弾劾決議の可決は難しい。

 とはいえ、今回はトランプ大統領が直接、ゼレンスキー大統領に圧力をかけていることが明らかなため、アメリカ国民はロシア疑惑の時よりも批判的だ。たとえば『ワシントン・ポスト』が10月8日に発表した世論調査によると、弾劾調査に対する賛成は58%に達している。

 それでも、彼の辞書に「辞任」という文字はないので、仮に共和党内から対抗馬が出てきても得意のツイッターでこき下ろし、最後まで徹底抗戦すると予想される。結局、トランプ大統領が自ら辞任しない限り、共和党内から他の候補者が擁立される可能性は低いと思う。となると、トランプ大統領再選路線しか当面の選択肢はないだろうが、対する民主党も大統領候補選びで迷走を続けている。

 これまでトップを走っていたバイデン前副大統領はウクライナ疑惑で自身の不正行為を問われ、トランプ大統領と共倒れする“ダブルノックアウト状態”になりつつある。息子のハンター氏も、不正はしてないが親が副大統領でなかったらウクライナでの高給優遇はなかっただろう、と認めている。

 また、2位争いを続けていたバーニー・サンダース上院議員は、心筋梗塞で倒れて健康状態が不安視されている。

 代わって急浮上したのがハーバード大学教授まで務めたエリザベス・ウォーレン上院議員だが、大企業への課税強化や富裕層の課税率を高くして貧困層に富を配分する格差是正などを公約に掲げるリベラル左派なのでウォール街の拒否反応が強く、アメリカ先住民のチェロキー族出身だとして優遇措置を受けてきた出自が虚偽だったという弱みもある。

 今後の大統領選を左右する大きなカギになりそうなのはトランプ大統領の納税申告をめぐる問題だ。トランプ大統領は納税申告書の開示を拒否して訴訟まで起こしているが、この問題が長引けば、プア・ホワイト層からの支持を一気に失うことも考えられる。さらに、申告が公開されれば、今度はやっかみや不正申告への怒りで支持層から見放される。

 そうなれば、民主党に追い風が吹く。同党の大統領候補者選びは来年2月3日のアイオワ州党員集会からスタートするが、歴史を振り返ると、今は泡沫扱いされている候補者がビル・クリントンやバラク・オバマのように急台頭して新大統領になる可能性も十分あるだろうし、トランプ大統領の劣勢が見えてくれば、共和党からも反乱分子が出てくるだろう。

※週刊ポスト2019年11月8・15日号

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