政権交代で食文化が変わる 文在寅政権はオデン・ブームか

政権交代で食文化が変わる 文在寅政権はオデン・ブームか

文在寅大統領は慶尚南道巨済市の出身

 韓国では、トップの大統領が変わると、経済政策から外交政策までガラリと変わる。さらに、在韓歴40年の黒田勝弘氏によれば、「韓国の食文化は、時の大統領の影響を大きく受けてきた」という。

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 韓国では昔は牛肉や豚肉を1斤(600グラム)単位の塊で売っていた。鶏も1羽まるまるだった。これは、肉食が基本的には皆で食べる贅沢なイベント食であったことを意味する。

 塊だから肉切り包丁がいる。古老から聞いた話では、以前、ソウルのそれなりの家庭には刃が三日月風に丸く湾曲した肉切り包丁があったという。それを見かけなくなったのは1970年代以降で、これは政権の交代と大いに関係がある。

 1960年代までのソウルは初代大統領の李承晩をはじめ北朝鮮出身の要人が多く、魚食より肉食が中心だった。ところが1963年に慶尚北道出身の朴正熙が大統領になり、高度経済成長が始まった。

 1970年代以降、韓国南部の慶尚道出身者がソウルで羽振りをきかすようになり、首都の食文化に魚食が広がったのだ。政権とともに食文化も変わる!

 この魚食拡大の流れはその後も続き、とくに1990年代以降、ソウルでは“肉離れ”が進んだ。これは朴正熙、全斗煥、盧泰愚という慶尚道系の軍人政権の後、いわゆる民主化時代以降も金泳三(慶尚南道)、金大中(全羅南道)、盧武鉉(慶尚南道)、李明博(慶尚北道)、朴槿恵(同)と、保革、左右に関係なく南部の魚食文化圏の出身者が政権の中枢に座ったからだ。

 最も思い出深いのが金泳三。彼の実家は煮干用のイワシ漁の網元で、在任中には盆暮れに外国人記者にも煮干がよく贈られた。

 それまでソウルではうどんをはじめ汁物は伝統的には肉ダシだったが、金泳三以降、煮干ダシが広がった。彼の好物は煮干ダシの「カルククス(煮込みうどん)」で、日本人記者も大統領官邸で昼食によばれた。ただ、韓国人は「カルククス」だけでは文字通り(?)「軽く」て食った気がせず、帰りに焼き肉屋に立ち寄っていた。

 金大中の故郷(木浦)は韓国を代表する“嫌悪食品”の「ホンオフェ」が名物である。魚のエイ(ホンオ)を腐らせ醗酵させたもので、汲み取り式トイレのような強烈なアンモニア臭がする。地元では冠婚葬祭の祝い食の定番だが、それが金大中政権以降、首都で需要が広がり全国区になった。

 しかし、本人は「食は補薬(体力を補う漢方の一種)」がモットーの健啖家で、日本人記者へのおごりはいつも大好きな中華料理だった。

 盧武鉉の場合、水産王国の釜山が選挙区だったから、彼が好んでいたという釜山名物の「アナゴ・フェ(刺身)」の知名度が上がり、首都圏でも大いに食されるようになった。

 李明博の故郷(浦項)の名物は「クァメギ」。身欠きニシンのようなサンマの浜干しをぶつ切りにし、分葱やニンニクと一緒にワカメでくるんでコチュジャンをつけて食べる。料理というほどのものでもないが、焼酎によく合う。まったくローカルだったのに李明博政権のおかげで全国銘柄になった。

◆“給食メシ”のパフォーマンス

 ここでも残念なのが朴槿恵。秘密主義だったためその好みの食もベールに包まれている。父の朴正熙は酒はドブロクの「マッコリ」で「素うどん」を好んだという話は聞いたことがあるが、娘は“姫育ち”の独身で、料理は人任せのせいか彼女に食の話題はとんとなかった。

 さて文在寅・新大統領だが、盧武鉉と同じく釜山が地盤だから、食の好みはもっぱら「海産物」と答えている。ソウルでの行きつけの店にも「海草料理屋」が入っている。

 しかし釜山名物といえば何といっても「オデン」。日本語そのままだが、韓国ではチクワやハンペンなど魚の練り物一般をそう呼んでいる。だから韓国のオデンには他の具材は入っていない。日本の関西の影響だろうか、釜山ではオデンのことを「カントウ(関東炊き)」ともいう。屋台食だったのが今や一般料理になり、全国化し家庭でも食している。

 文在寅は朴槿恵との差別化のため、庶民風で「国民と共に」が最大のウリだ。大統領就任直後のパフォーマンスとして大統領官邸の職員食堂で”給食メシ”まで食って見せている。その意味では庶民イメージの「オデン」こそ釜山を地盤とする彼にふさわしいのではないか。参謀たちは彼に対し、好みは「海産物」ではなく「オデン」といわせるべきである。

 オデン・ブームで文在寅の大衆人気はさらに高まり、合わせて日本での事前の“反日疑念”も一掃できる。「オデン」は日韓交流・協力の偉大な産物なのだから。

●くろだ・かつひろ/1941年生まれ。京都大学卒業。共同通信ソウル支局長、産経新聞ソウル支局長を経て産経新聞ソウル駐在客員論説委員。著書に『決定版どうしても“日本離れ”できない韓国』(文春新書)、『韓国はどこへ?』(海竜社刊)など多数。

※SAPIO2017年7月号

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