韓国産業界「日本頼み」からの脱却が絶対にできない理由

韓国産業界「日本頼み」からの脱却が絶対にできない理由

「日本頼み」は実現するか(イラスト/井川泰年)

 コロナウイルス騒動ですっかり過去のことのように思われているかも知れないが、韓国への輸出規制を強化したことによる日韓関係の悪化は改善されていない。韓国の産業界で“脱「日本頼み」”が進んでいるという報道もあるが、そんなことが可能なのか。経営コンサルタントの大前研一氏が考察する。

 * * *
 韓国大法院(最高裁)が日本企業に賠償を命じた「元徴用工」訴訟に対抗し、日本が半導体やディスプレイの製造に必要な化学材料3品目(フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素)の韓国への輸出規制を強化したことで過去最悪の状況になった日韓関係は、今なお凍てついたままである。

『朝日新聞』(1月21日付朝刊)によると、日本の対抗措置で輸出総額の2割を占める半導体産業が深刻なダメージを受けた韓国は、素材や部品、製造装置の脱「日本頼み」対策(ジャパンフリー)を官民挙げて猛スピードで推し進め、成果を出し始めているという。

 では、これから韓国は「日本頼み」から脱却することができるのか? 経営コンサルタントの仕事や講演などで韓国を200回以上訪れ、韓国の全財閥と付き合ってきた私に言わせれば、絶対にできないと思う。

 なぜなら、日本の素材の力は3年や4年で追いつけるような底の浅いものではないからだ。化学メーカーだけでなく、半導体の基板メーカーや電子線描画装置メーカー、ガラスメーカーなどが信頼関係に基づいて連携しながら、何十年もコツコツと研究開発を続けなければならないのである。

 しかし、韓国の産業界にそういうカルチャーはない。今回の輸出規制で「寝た子を起こした」と見る向きもあるようだが、象徴的な言い方をすれば、3人くらいは起きたとしても、300人は寝ているだろう。なぜか? その理由は韓国産業界のメンタリティにある。

 もともと韓国人の多くは、自分たちのほうが“先輩”であり、あらゆる面で日本よりも進んでいたと考えている。たしかに、それも一理ある。明仁天皇(現・上皇)も「桓武天皇の生母が百済の武寧王の子孫であると続日本紀に記されていることに韓国とのゆかりを感じています」と述べている。

 ところが、日本による植民地化と圧政で抑えつけられ、さらに戦後は南北に分断された。その結果、日本の後塵を拝することになった。だから韓国の悲哀は「すべて日本のせいだ」──。韓国の政治家や年配者は、自分たちのだらしなさを棚に上げ、伝統的にそう説明してきたのである。

 そもそも韓国で戦後に財閥が誕生して繁栄したのは、役人の許認可権限が強いからである。政治家と癒着して役人とつるんだ財閥が、儲かる産業や不動産などの利権を独占してしまうのだ。このため役人と財閥企業の正社員以外は「ヘルコリア」(※地獄の朝鮮。韓国人が就職率・就労率の低さや労働環境の劣悪さなどを念頭に置いて自国を自虐的に呼ぶ言い方)で、夢も希望もない状況になっている。

 そして財閥は、日本や欧米に追いつき追い越すためにかなり無理をしている。韓国の中小企業によれば、彼らが品質改善や生産性向上、コストダウンなどで良いアイデアを出したり新しい技術や製品を開発したりしても、財閥に全部吸い上げられてしまい、自分たちは割を食って細るだけなので無駄な努力はしないという。だから韓国では中小企業が育たず、産業の裾野が広がらないのだ。

 前出の『朝日新聞』の記事によると、今回の局面では、財閥の大企業が率先して脱「日本頼み」に動き出し、素材や部品の開発を目指す中堅・中小企業に多くの大企業が生産ラインを開放しているという。

 だが、前述したように、素材などの開発には多業種の企業が連携して何十年もかかる。韓国の産業界にそれができるメンタリティと研究基盤はなく、財閥のトップが号令をかけたらその間は進むかもしれないが、長続きはしないだろう。

 しかも、限られたエリートが役所や財閥企業に就職し、そこから落ちこぼれた人たちは中小企業に入って、いくら努力をしても財閥に土足で踏みにじられるという歪んだ構造がある限り、脱「日本頼み」を達成するのは無理だと思う。

 また、韓国ではエンジニアが冷遇されている。象徴的なのは社屋や工場だ。財閥企業の文系ホワイトカラーは高層ビルの本社オフィスにいるが、エンジニアは工場の天井から吊り下げた中二階のような環境が悪い一画に押し込められていることが多い。韓国でエンジニアになるということは、文系ホワイトカラーの“しもべ”になるのと同義と言っても過言ではない。

 インドや台湾などの場合は文系ホワイトカラーよりエンジニアのほうが優遇されているし、日本では文系も理系も現場勤務からスタートするケースが多いが、韓国では稀だろう。エンジニアを下に見る韓国のメンタリティの“伝統”は、今後も変わらないと思う。

 輸出規制強化の対象になった3品目をはじめとする日本製の素材や部品の中には、韓国が日本に頼らずに製造できるものもある。ホワイト国(※輸出管理制度上の優遇措置の対象国。現在は「グループA」。以下、グループB、C、Dと呼ばれる)や台湾経由で迂回輸入するという方法もすでに使われている。実際、サムスン電子は輸出規制が強化された直後に副会長が来日し、迂回輸入で調達できるように奔走していた。韓国に工場を建設する日本企業もあるかもしれない。だから、もちろん油断は禁物だが、本質的な意味で韓国に脱「日本頼み」はできない、と私は見ている。

※週刊ポスト2020年2月28日・3月6日号

関連記事(外部サイト)