日本人12人が中国で拘束、習政権の基盤強化の生贄か

スパイ容疑などで計12人の日本人が中国で拘束 習近平政権の基盤強化の「生贄」か

記事まとめ

  • 中国では「スパイ容疑」や「国家安全危害罪」などで計12人の日本人が拘束されている
  • 2012年の習近平政権発足後、「スパイ防止・反特務情報連絡員」制度を創設した
  • 日本人を狙い撃ちにして、軍事機密漏えい防止の「人民戦争」を展開しているという

日本人12人が中国で拘束、習政権の基盤強化の生贄か

日本人12人が中国で拘束、習政権の基盤強化の生贄か

12人の日本人が中国に拘束されている

 中国では一昨年からこれまで「スパイ容疑」や「国家安全危害罪」などで計12人もの日本人が拘束されている。これは世界各国の中でも最多だ。実は2012年の習近平政権発足後、中国の中央軍事委員会は「スパイ防止・反特務情報連絡員」制度を創設し、日本人を狙い撃ちにして、軍事機密漏えい防止の「人民戦争」を展開していることが明らかになった。

 中国人民解放軍総参謀部傘下の軍機関紙「中国国防報」は日本人スパイについて触れた記事を掲載している。それは昨年の終戦記念日である8月15日付同紙第1面の「合法というコートを羽織ったスパイに警戒せよ」と題した署名記事だ。

「7月下旬、1人の民間交流機構の理事長として招かれた外国人が中国内でスパイ活動を行ったという嫌疑で、我が国(中国)のある国家部門の法に基づく調査を受けている」との書き出しで始まっている。

 昨年7月下旬には、日中友好団体の男性理事長が北京で行われる日中友好イベントに参加するため訪中し、公安当局にスパイ容疑で逮捕された。記事の中の「民間交流機構の理事長として招かれた外国人」とは、この日本人男性を指しているのは明らかだ。

 さらに、記事は「ここ数年来、中国と外国との交流が日増しに増え、外国の情報機関員が各種各様の合法的なコートを羽織って、我が国の政治、軍事、経済情報を探る案件が発生しており、我が国の国家安全、軍事安全、経済安全に対して、極めて重大な危害を与えている」と述べたうえで、「とりわけ、昨年(2015年)5月以降、4人の日本人が我が国でスパイ活動にかかわったとして逮捕されている」と強調して、「日本」を名指しで批判している。

 実は、この時点で、実際に逮捕されている日本人は4人ではなくて5人なのだが、それはともかく、同紙は次のように続ける。

「新たな形勢下、水面下における戦線の闘争は先鋭化、複雑化しており、反中勢力やいくつかの国家・地域は自ら利益を得るために、我が国の政治、軍事、経済情報の収集を絶えず強化しているのである。

 近年来、ある国や組織はわが国で秘密裏に諜報活動を行うと同時に、中国内での公的な活動を通じて、合法的なコートをまとって非合法な情報収集工作を展開。それは極めて狡猾であり、危険性が大きく、われわれ(軍)は彼らの非合法な行動を高度に重視せざるを得ないのである」

 このあと、同紙は新たな事実を明らかにしている。それは「われわれは国家安全機関による厳重な取り締まりだけでなく全社会の力を動員して、ことに当たらなければならない。あらゆる国民が国家安全のための陣列を整えて、スパイ防止・反特務のための『人民戦争』を開始しなければならないのである」としたうえで、「『スパイ防止・反特務情報連絡員制度』を確立し、スパイ密告の道筋を整えて、あらゆる都市の党・政府・軍の事務所などで定期的に情報保持のための訓練を実施しなければならない」と強調する。

 すでに全国各地でスパイを密告する情報員制度が発足しており、外国のスパイ組織との「人民戦争」が始まっていることを明かしているのである。

◆スケープゴートにされる日本人

 この「スパイ防止・反特務情報連絡員制度」については、今年の5月24日付「中国国防報」が1面トップで掲載した署名記事で詳しく触れている。記事は「実体の保護だけでなく効能的な保護への転換─地上の施設だけでなく海や空、さらにインターネット上の領域への拡大展開─軍事施設:多面的で、立体的な保護姿勢を形成せよ」との長い見出しがついているが、要点は、これまでの目に見える軍事施設だけでなく、これからは海上や空中、あるいはネット空間における包括的な軍事情報の保護が必要だと訴えたものだ。

 記事は冒頭、2015年5月に日本人男性がスパイ容疑で逮捕された浙江省の海軍や中国海警の基地がある舟山警備区では、軍民が協力しての軍事施設保護活動やスパイ摘発の先進地域であると強調。「スパイ防止・反特務情報連絡員制度」の模範地区であることを示唆している。

 同制度が創設されたのは、中国内では近年、軍艦や潜水艦、戦闘機などが盗撮される事件が多発しているためだ。中央軍事委は昨年3月の「中国軍事施設保護法」(1990年施行)の改正案公表後、同委の国防動員部が主導する形で、中国全土の軍事施設や関連施設が存在する自治体組織の内部に「軍事保護委員会」を創設し、同連絡員制度を設置したという。

 軍事情報に詳しい北京の外交筋によると、すでに、連絡員制度は90%の都市に設置済みで、その発足式には軍事委国防動員部の係官が出席し、「1894年に勃発した日清戦争では、日本のスパイが盗んだ軍事機密によって清軍が敗れる原因の一つにもなった」などとの具体例を提示。いまも、中国初の国産空母が盗撮されて、日本のメディアに掲載されたことや日本の民間人が旅行を装って軍事情報を収集しているとして、「軍事機密保持のために、人民戦争に乗り出さなければならない。とくに日本人への軍事機密漏えいには警戒しなければならない」などと強調しているという。

 注目すべきは連絡委員制度など軍事機密保護や日本人など外国人スパイの摘発が強化されたのが、2012年11月の習近平政権の発足後であり、それ以降の5年足らずで、軍事施設保護法の改正のほか、反スパイ法や反テロ法、国家安全法などの軍事情報を含む機密情報の保護やスパイ摘発、治安維持に関する法令が軒並み制定されたことだ。

「これは、習近平が最高指導者に就任後、最初に行ったことが腐敗摘発と軍事力強化の二つだったことと密接に関連しており、双方とも自身の権力基盤強化につながっている。特に後者においては、2012年は尖閣諸島問題で日中関係が大荒れになったことからも分かるように、日本が党内の権力闘争に利用されており、その後、12人もの日本人がスパイ容疑などで拘束されているのも、その流れから考えれば納得できる。今後も日本人がスケープゴートにされる可能性は否定できない」と同筋は結論づけている。

●文/相馬勝(ジャーナリスト)

※SAPIO2017年8月号

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