ついに文在寅大統領が北「太陽政策」の復活を“宣言”した

ついに文在寅大統領が北「太陽政策」の復活を“宣言”した

文大統領には盧武鉉元大統領の影がつきまとう 共同通信社

 半年前までは朴槿恵前大統領の弾劾を叫ぶデモが連日開かれたソウル中心部の光化門広場。政権移行後、風景は一変。北朝鮮への“ラブコール”を発信するかのような集会は、北への警戒感を強める国際社会とのギャップを感じる。ジャーナリストの竹中明洋氏がレポートする。

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 参加者の多くは、白地に青色で描いた統一朝鮮半島の地図をあしらったTシャツを着ている。6月15日、光化門広場の一角で「6・15共同宣言発表17周年記念大会」が開かれていた。歌や踊りのショーの合間には参加者の代表らが登壇し、口々に北朝鮮との関係改善を唱えた。

「6・15共同宣言の精神に立ち戻るべきだ!」

 韓国二大労組のひとつ、民主労総の副委員長に至っては、8月15日にソウルで南北労働者統一サッカー大会を開くから成功させよう、と呼びかけていた。

 この大会を開いたのは、「6・15共同宣言実践南側委員会(以下、南側委員会)」である。ちょうど17年前のこの日に韓国の金大中大統領と北朝鮮の金正日総書記が平壌で行った南北首脳会談で締結した「6・15南北共同宣言」の履行を求め、北朝鮮と共同で宣言を記念する行事を毎年開いてきた。だが、李明博・朴槿恵元大統領らの保守政権下では、これら行事の開催が認可されなかった。政権交代後、満を持しての開催だけに余計に熱を帯びる。

 民主化運動の闘士だった李昌馥氏を常任代表に、韓国の労働団体や宗教団体、市民団体等から構成され、数多くの訪朝を重ね、中国の瀋陽でたびたび北朝鮮側と接触。韓国を代表する親北団体で、日韓の情報当局は対南工作を担う朝鮮労働党統一戦線部の強い影響下にあるとみている。

 北朝鮮の工作活動といえば、工作員を使った拉致やテロばかりではない。平和的な統一運動に名を借りて韓国国内の団体に世論誘導を行わせ自らに有利な状況を作り出すのも常套手段だ。まさにそうした団体のひとつがソウル中心部で堂々と集会を開いていたのだ。

 会場の大型モニターに、平壌の空港に降り立った金大中氏を金正日氏が迎える映像が流されると拍手が沸き起こった。一方、開城工業団地の閉鎖を発表する朴槿恵大統領の映像にはブーイングが浴びせられる。会場にみなぎる親北的な空気に違和感を覚えた。

 北朝鮮やその影響下にある南側委員会がこの宣言を高く評価するのはなぜか。

 宣言は、南北が統一問題を「自主的に解決していく」とした上で、南北の政治体制をそのまま据え置き、二つの政府の代表からなる連邦政府をつくるという統一案を事実上認める内容となっている。これは、北朝鮮側の主張に沿ったものだ。

 つまり米国等の周辺国の統一問題への関与を排するとともに北朝鮮の体制の延命を確認したといえる。さらにこの宣言で韓国による経済協力を約束。これが後に始まる開城工業団地や金剛山観光の根拠となった。これらの事業こそが北朝鮮に多額の外貨をもたらし、核ミサイル開発を促すことにつながったとされる。

◆南北交流は8月15日以降

 集会を前にして、ソウルのプレスセンターで主催者らが記者会見を開いていた。

「李明博や朴槿恵の政権の対北政策はあまりに愚かで、この9年間、南北関係は暗鬱そのものでした。韓半島の主人である我々民族同士が力をあわせて南北間の合意を忠実に守っていれば、今のような緊張状態にはならなかったはずです」

 会場で、南側委員会の顧問である金英周氏を掴まえると、二代続いた韓国の保守政権をそうこき下ろしてみせた。

 金氏は、会見で「それ(南北の平和協定)を邪魔しているのが、在韓米軍司令官が持つ韓国軍の戦時作戦統制権。米国は韓国の首根っこをひねるかのように星州にTHAADを配備したが、これは屈辱的なものだ。米国が主導する国連による北への制裁は中断すべきだ」と、反米・親北感情を露わにしたスピーチもしている。筆者は、ミサイル実験を繰り返す北朝鮮と協力関係を築くことができるのか、そう尋ねた。

「緊張関係を口実に全ての交流を中止する考え方は良くありません。統一のためにまずはたやすいことから始め、次に政治や軍事の問題を解決すべき。開城工業団地や金剛山観光は平和に向けた優れた事業だったのに朴槿恵が自分の政権維持のため南北分断を図り、止めてしまいました」

 こうした主張は韓国内では珍しくない。いや、集会のあった15日、文在寅大統領自ら、ソウル市内の別の行事でこう発言している。

「北が核やミサイルによる追加挑発を中断すれば、無条件で対話に臨むことを明言する」「膝を突き合わせ、これまでの南北間の合意をどのように履行するか協議するつもりだ」

 韓国の通信社が速報したこの発言は、日本ではさほど注目されていない。しかし韓国メディアでは、対北融和を掲げた金大中・盧武鉉政権のもとで進められた「太陽政策」の復活を明らかにしたものと受け止められている。

 韓国では民間団体が北と接触し訪朝するには、統一部の許可を得なくてはならない。保守政権の李明博政権以降、民間団体の渡航は厳しく制限されてきた。

 大統領就任前から南北統一経済圏構想を掲げていた文政権は、青瓦台(大統領府)に北朝鮮に融和的なスタッフを招集し、さらには6月4日に民間団体の渡航に許可を出した。このため南側委員会は100人もの訪朝団で参加する計画を立てたが、開催場所を開城とするか平壌とするかで事前協議が難航した。そのため、準備が間に合わず南北合同での開催は見送り、次善の策として南側委員会単独で開かれたのが冒頭の集会である。

 韓国紙記者はこの間の舞台裏をこう説明する。

「6月末の韓米首脳会談を前に平壌で南北合同の行事を開けば、国際的な対北圧力の足並みを乱したと米国から責められるのは必至でした。それを避けるため青瓦台が南側委員会に働きかけて訪朝を断念させました」

 裏を返せば、首脳会談が終われば、一気に舵を切るであろうということ。南側委員会をはじめ親北団体は、文大統領の有力な支持基盤だ。新政権への影響力も強いゆえ、米国の横やりがあろうとも方向転換は困難だ。

 南側委員会の会見に出席していた与党「共に民主党」の実力者・禹相虎前院内代表も「南北の交流が本格化するのは首脳会談後。目に見えてくるのは8月15日以降だろう」と発言していた。共同宣言の記念行事も改めて10月に平壌で開催される予定だという。

 国際社会の非難を無視して核ミサイル開発を続ける北朝鮮に、各国が一致して制裁圧力をかけている。

 もしも朝鮮有事が起きた場合、“当事者”となる文在寅政権がそれとかけ離れた動きを見せ始めているのには、違和感を覚える。その対北政策に警戒が必要だ。

【PROFILE】たけなか・あきひろ/1973年山口県生まれ。北海道大学卒業、東京大学大学院修士課程中退、ロシア・サンクトペテルブルク大学留学。在ウズベキスタン日本大使館専門調査員、NHK記者、衆議院議員秘書、「週刊文春」記者などを経てフリーランスに。近著に『沖縄を売った男』。

※SAPIO2017年8月号

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