経済封鎖でだぶついた覚醒剤が北朝鮮人民に蔓延している

北朝鮮に覚せい剤などの麻薬汚染が蔓延 麻薬使用者の増加で北朝鮮が滅亡も

記事まとめ

  • 北朝鮮に麻薬汚染が蔓延し、当局が金正恩体制維持への悪影響を懸念しているという
  • 北では中国調達の商品が迅速に届くというが、背景に覚醒剤を使った運転手がいるという
  • 中国への密輸が難しくなった麻薬が北の国内に販売され、汚染が拡大しているらしい

経済封鎖でだぶついた覚醒剤が北朝鮮人民に蔓延している

経済封鎖でだぶついた覚醒剤が北朝鮮人民に蔓延している

快楽に身を委ねるしかない!?(写真はイメージ) AP/AFLO

 北朝鮮当局が、国内に蔓延する麻薬汚染に対し、金正恩体制の維持に悪影響を及ぼしかねない、と危機感を抱いている。近年、そんな情報が北朝鮮ウォッチャーにもたらされるようになった。ジャーナリスト・城内康伸氏は、それを裏付ける驚愕の事実を掴んだ。

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 北朝鮮では今、全国の公式・非公式の市場に中国製品を中心とした様々な商品が豊富に並んでいる。あるシンクタンクの調査によると、隣接した中国の都市で調達した商品は早ければ、2日後には、北朝鮮の地方市場に届くという。

 諸外国との交流が著しく制限されるなか、北朝鮮国内の流通網の整備が進んだのか。いや、「迅速な物流には、覚醒剤が絡んでいる」とは、中国と国境を接する平安北道の貿易商の解説だ。「物品を運ぶ運転手の多くが、オルム(覚醒剤)を使っている。そうすれば、二晩程度は眠気を催さずに、目的地までまっしぐらだ」

  本気とも冗談ともとれぬ言葉だが、北朝鮮当局が違法薬物の蔓延に、業を煮やしているのは事実だ。

 筆者は、北朝鮮中西部・平安南道のある都市で昨年5月、秘密警察・国家安全保衛部(現国家保衛省)の地方組織が、違法薬物の取り締まり強化を目的に、地元住民の一部を対象に行った秘密集会の詳細な記録を入手した。そこには、麻薬犯罪の摘発事例が生々しく報告されている。

「この女は『カネは殺される覚悟で、稼がなければいけない』と抜かし、麻薬狂信者として策動して逮捕された逆賊だ」

 集会で演壇に立った地方の保衛部幹部の報告によると、「この女」とは、下宿生活をしていた元女子大学生。卒業を目前に控え、麻薬に手を染めた。

「優秀な成績で卒業したい」と勉学に励むのを見た、下宿の女主人の「この薬を鼻に当てて吸えば、不眠不休で頑張れる」との甘言につられて使い出し、常用するようになったという。

 元女子学生は、覚醒剤を1か月半使い続けていたのが発覚、退学になった。女主人は捕まったが、元女子学生はこの時はどういう訳か、逮捕を免れた。北朝鮮で横行する賄賂が効いた可能性もある。

「退学になった女は、カネをたくさん稼いで、快楽に浸って生きて行こうと決めた。下宿に居座り、食堂を運営した」(保衛部幹部)

 そして元女子学生は、覚醒剤を「売る側」に回るのだ。客を店に連れ込むと、まず酒を提供する。客に酔いが回ってくると、「肌を大胆に露出した姿で」客の隣に座り、薬を鼻に当てて吸う。そして、その様子を眺める客にも勧める。

「客の気分が高揚してくると、女はまた吸う。さらに客には、錠剤(覚醒剤)も服用させる。客はここまで来ると、すでに我慢の限界だ。女と2人で午後8時から翌朝8時まで性行為にふけった。男はその後、3日間は起きることができなかった。目が覚めると、薬を求めて、再び女を訪ねていた」(同)

  元女子学生はこのようにして、多くの男を薬漬けにして一晩に30万、40万ウォンを稼いでいたという。30万ウォンと言えば、北朝鮮市民の月給の40倍前後に当たる高額だ。北朝鮮で製造される覚醒剤などの麻薬は2000年代後半まで、中国への密輸を経由して世界に売りさばかれた。しかし、中国は近年、国境を通じた密輸に厳しく目を光らせている。

  朝鮮中央通信は2011年2月、中国の公安国境警備隊が、その前年に麻薬の密輸阻止を強化し、国境地域で計2153件の事件を調査・処理し、2883人を逮捕、各種の麻薬約4tを押収したと報じた。

  自国の恥ともいえる内容を、北朝鮮が報道するのは極めて珍しい。中国側の強い発表要請があったのだろう。それだけ、取り締まり強化を求める中国の圧力が厳しいということだ。

  中国への密輸が難しくなったために、北朝鮮の密売組織は、だぶついた麻薬を売りさばこうと、販路を国内に求める。人々は厳しい監視社会の中で、一時の慰みを得ようとし、薬物汚染は広がっていく。報告からは、そんな実態が浮かび上がる。

 保衛部幹部は集会で、次のように深刻な懸念を吐露し、報告を結んでいる。

「個人が社会的生命を失うことは、何でもない。しかし、このような(麻薬使用者の)隊列が増えていけば、最後には、祖国という大きな家が崩れ、国が滅びてしまう」

【PROFILE】しろうち・やすのぶ/北朝鮮事情に精通するジャーナリスト。主な著書に『猛牛(ファンソ)と呼ばれた男』『昭和二十五年 最後の戦死者』『朝鮮半島で迎えた敗戦』など。

※SAPIO2017年8月号

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