ウィル・スミスの平手打ち騒動、同情の声は日本だけ? クリスの過激ジョークに批判が少ないワケ

ウィル・スミスの平手打ち騒動、アメリカでクリス・ロックに批判が少ない理由

記事まとめ

  • 第94回アカデミー賞・授賞式の壇上で、ウィル・スミスがクリス・ロックを平手打ちした
  • ウィルの妻・ジェイダの髪型を、ロックがネタにしたジョークを言ったことがことの発端
  • 日本ではウィルに同情する人の方が圧倒的に多く、アメリカやヨーロッパと異なる

ウィル・スミスの平手打ち騒動、同情の声は日本だけ? クリスの過激ジョークに批判が少ないワケ

ウィル・スミスの平手打ち騒動、同情の声は日本だけ? クリスの過激ジョークに批判が少ないワケ

ウィル・スミス

ウィル・スミスが「第94回アカデミー賞」授賞式の壇上でコメディアンのクリス・ロックを平手打ちした騒動は世界中で話題になっている。ことの発端は、ロックが脱毛症であるウィルの妻・ジェイダの髪型をネタにしたジョークを言ったこと。このジョークを聞いてウィルはその場から立ち上がってロックに近づき、平手打ちをしたのだ。

 暴力は許されないことであるが、日本ではウィルに同情する人の方が圧倒的に多く、「ウィル・スミスはかっこいい。正しい行動だと思う!」「私はウィルよくやった!って気持ち。あんなすてきな場で司会者は奥さんもウィルもどちらもひどく傷付けたんだから仕方ない」などの声が挙がり、中には「こんな旦那だったらいいな」という声まで出ていた。日本の報道でもウィルに同情する報道がほとんどだ。

 しかし現地アメリカでの反応は異なるようだ。アメリカのSNSを見ると「手を出すのは問題」「みんなの目の前でたたかれたロックは不憫」という意見が多数で、ロックに同情する人がほとんど。暴力は決して許されないというのがアメリカ人の大意のようだ。

 一方で、アメリカ人がロックに同情する背景にはアメリカの文化も関係しているようだ。アメリカでは今回のロックの発言を“ブラックジョーク”と捉えており、ブラックジョークは悪いこととは思われていない。

 例えば2016年、当時アメリカ大統領だったオバマ氏が記者会夕食会で、次期大統領のドナルド・トランプ氏について「(彼は今日の夕食会に来なかったが)何をしているのだろう。アンゲラ・メルケルの悪口でもツイートしてるのかな」と発言した。

 2020年の第77回ゴールデン・グローブ賞授賞式では、司会のリッキー・ジャーヴェイスが、若い恋人がいるレオナルド・ディカプリオを「(未成年買春疑惑のある)アンドルー王子でさえ、『レオ、何やってるんだ』と言うよ。『レオ、もう50歳だろ』ってね」と紹介。かん高い声の俳優、ジョー・ペシを「ベイビー・ヨーダ…あ、違った! ジョー・ペシさんだ!」と紹介し笑いを誘っていた。現場では笑いが起き、騒動になることはなかった。

 アメリカ在住の日本人は、今回のロックの発言がそこまで問題視されなかったことに対し「アメリカでは特にセレブに対するブラックジョークは日常茶飯事。悪口や皮肉を直接言うより、ジョークに置き換えることで、相手も周りの人も傷つきにくいと思われています」と説明。「またブラックジョークを言うには相手のことをよく知っていないと言えないので、ブラックジョークを言うことはある意味、礼儀のような面もあると思います」と分析した。

 とはいえ、アメリカでもSNS上では「ロックの発言はジョークではなくヘイトスピーチだ。このジョークは身体的な暴力よりひどいものだった」「テレビを観ていた人も含め、何百万人もの人の前で病気について言うことは間違っている」「コメディアン(クリス・ロック)ならなんでも言っていいという風潮自体が嫌だ」とロックに対する非難の声も出てきている。

 アメリカのニュースサイト『USA TODAY』は、今回の騒動について「ロックの冗談はいじめのようだった」「ウィル・スミスを気の毒に思う人はほとんどいないが、病気についてのジョークはエッジの利いたジョークでは済まされない」と指摘している。

 なお、ヨーロッパもアメリカと同様の反応だ。ドイツやフランス、スペインでも「ロックがかわいそう」「ウィルの暴力は許されない」との声が多く、ロックに対する同情の声が多くを占めている。

 「ヨーロッパでロックに同情が集まるのは、暴力は悪いことだと幼い頃から徹底的に教育されているからだと思う」。そう語るのは、ドイツに住む日本人だ。EUでは暴力にかなり敏感で、特に子どもに対する影響を恐れている。その歴史は深く、フランスでは1987年に「ドラゴンボール」、「北斗の拳」、「キン肉マン」などの日本のアニメが放映されたが、暴力シーンが多く世間から批判の声が多く出たため少しずつ放映されなくなった。現在でも、暴力シーンのレベルによって視聴できる推奨年齢が定められており、暴力が多いアニメを含めた番組は精神を傷つける可能性があるとして、10歳以下の子どもの視聴が推奨されない。

 またドイツでも日本のアニメが放映される際は流血シーンがカットされることも多い。アニメの『NARUTO』は鼻血も含めた流血シーンがカットされている。日本で旋風を巻き起こした『鬼滅の刃』はドイツで上映され一部のアニメファンの間では注目されたが、全体的な盛り上がりには欠け、日本とは異なり子どもの間であまり話題にならなかった。その理由は、映画自体が16歳以上しか見られなかったことと、暴力的な映画を子どもに見せることに抵抗がある人がほとんどだったため、情報自体があまり広まらなかったのだ。

 海外ではウィルに対しては批判の方が多いようだが、理由をひも解けば日本人が納得する面もあるかもしれない。

記事内の引用について
「As a Black man, I hate to see what happened with Will Smith and Chris Rock. But it can be a teachable moment」(USA TODAY)より
https://www.usatoday.com/story/opinion/columnists/2022/03/28/smith-and-chris-rock-another-reason-focus-mental-health/7190731001

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