金正恩氏の愚策を「拝金主義」が相殺

金正恩氏の愚策を「拝金主義」が相殺

平壌の市場

北朝鮮当局が、南北和解ムードに浮かれ気味の国民に対する引き締め策として、「非社会主義現象」の取り締まりキャンペーンを行っている。厳罰をちらつかせながらの取り締まりに、国内では恐怖が広がっている。

しかし、金正恩党委員長がいかに強行方針を示しても、北朝鮮に蔓延する拝金主義が取り締まりを骨抜きにしている。その実態を、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、各地域に派遣された非社会主義グルパ(取り締まり班)は、品物を大量に買い付けて車や列車で他地域に運ぶ行為、つまり行商や卸売りを「社会主義の原則に反する」として、取り締まりを行った。

取締官は大量の品物を発見するや、「検閲(検査)を行う」と称して多額のワイロを要求する。情報筋は額について触れていないが、住民の間から「非社会主義グルパは強盗集団」との強い反発が出ていることを考えると、利益が出ないほどの額を要求しているものと思われる。

そればかりか、「国は何も配給してくれないくせして、庶民の商売の邪魔をするのか」と取締官に食って掛かる様子が頻繁に目撃されている。

両江道(リャンガンド)の情報筋は「生活が苦しくなっているのは、取締官も同じ」として、多額のワイロを要求する行為の原因は国の無策にあると指摘した。

「政府が何の目的で非社会主義グルパに取り締まりをやらせているかわからないが、住民の間からは政府に対する強い批判の声が上がっている」(情報筋)

おりからの国際社会の制裁強化に加えて、昨年の凶作により「住民の生活指数を10点満点で考えると、今は4点で最低記録」(情報筋)というほど、食糧事情が切迫した状態にある北朝鮮。平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、朝鮮労働党中央委員会が各貿易会社に対してすべての力量を動員して食糧を調達せよとの指示を下し、珍しく購入資金も支給した。

そんな状況下、商売を奨励するどころか「商売を禁止したため、市場で物を売ってその日暮らしをしている人々は生活を脅かされている」(情報筋)ような状況だ。これは、金正日総書記による経済政策が国を大混乱に陥れた過去を想起させる。

金正日氏は、計画経済の崩壊で国が失った経済の主導権を取り戻すため、国内最大だった平城(ピョンソン)市場を閉鎖するなどの措置を取ったが奏功せず、2009年には貨幣単位を100分の1に切り下げるデノミネーション「貨幣改革」を断行した。

旧紙幣から新紙幣への交換では、一世帯あたりわずか10万北朝鮮ウォン(当時のレートで約30米ドル)の上限額が設定された。これを超える分はは銀行に預けさせられたが、事実上の没収だった。

多額の北朝鮮ウォンのタンス預金を抱えた人々は、財産を失うまいと、米ドルや中国人民元を求めて市場に殺到した。「どうせ国に奪われるのだから」と、大量の旧紙幣を泣きながら燃やす人々の姿も見られたという。

ハイパーインフレが起こり、市場からは売り惜しみで物資が消え、餓死者が続出し、暴動が起きるなど、国は大混乱に陥った。



金正日総書記は、責任者の朴南基(パク・ナムギ)前朝鮮労働党計画財政部長を銃殺するなどして事態の収拾を図ったが、北朝鮮ウォン、銀行、国の信用は完全に失われてしまった。

これ以降、北朝鮮の通貨は、中国人民元などの外貨に事実上取って代わられた。また、人々はおカネを預けると国に奪われかねないとの恐怖心から銀行を利用しないため、国全体の通貨流通量は最高指導者ですら把握できない状況だ。

金正恩氏は、父・金正日氏の失政から学んだのか市場に対する統制をさほど強化せず、むしろ市場を利用する政策を取ってきたが、最近になり国の手に経済の主導権を取り戻そうとする動きを見せている。

北朝鮮国民の75%が、市場から収入を得ている状況で商売を規制すれば、国内が混乱するのは避けられない。しかし、官僚の「拝金主義」によって取り締まりが骨抜きになり、かろうじて混乱を免れる皮肉な状況にあるわけだ。

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