北朝鮮のニューリッチ、最近のトレンドは「郊外の豪邸に住む」

北朝鮮のニューリッチ、最近のトレンドは「郊外の豪邸に住む」

平壌にある未来科学者通りの高層住宅(2015年10月21日付労働新聞より)

北朝鮮にはかつて、住宅を国からタダでもらえた時代があった。今でもそのような建前は残っていて、選ばれたごく一部の人はその恩恵に預かることができるが、実際は他の国と同じように金銭で取引されるケースがほとんどだ。

当局は住宅建設を行うに当たり、トンジュ(金主、新興富裕層)から投資を募り、見返りとして完成した住宅の一部を譲渡する。トンジュはそれを転売して儲けるという仕組みで、不動産市場が形成されている。もちろん、中古の住宅の売買も行われている。

そんなトンジュの最新のトレンドは「郊外移住」だと、デイリーNKの内部情報筋が伝えてきた。その舞台は、首都平壌の郊外にある物流の拠点、人口28万人の平安南道(ピョンアンナムド)の平城(ピョンソン)市だ。

平城では鉄道駅、国の機関、学校が密集している市内中心部の駅前洞(ヨクチョンドン)、平城洞(ピョンソンドン)、徳性洞(トクソンドン)、中徳洞(チュンドクトン)などが高級住宅地と言われている。このエリアの最高級マンションの相場は10万ドル(約1100万円)前後と、庶民には天文学的な数字だ。

そんなマンションに住んでいたトンジュ5人が、今年4月から8月までの間に、市内から北東に7キロほど離れた厚灘里(フタンリ)という農村に移住した。それも、2階建ての一戸建て住宅を建ててのことだ。市街地が5キロ四方に収まる平城では、都心からかなり離れたところで、車でも10〜15分かかる。

なぜ、そんな遠いところに移住したのだろうか。それは、この地域の地形と関係している。

村の前には大同江(テドンガン)の支流が流れ、背後には山が迫っている。風水で言うところの「背山臨水」、つまり山を背にして水を臨む地形だ。山から流れてきた「気」が川でせき止められ、住宅を建てるには理想的な土地だというのだ。

これは北朝鮮に置いて、占いや宗教と共に、迷信として排撃されてきた風水が、復活しつつあることを示す。

家を建てるにはまず人民委員会(市役所)の担当部署に500ドル(約5万5000円)を払って許可を得る。家の建設には2〜3万ドル(約220万円〜330万円)、内装やインテリアに1〜2万ドル(約110万円〜220万円)ほどかかるが、最高級マンションを売り払って、豪邸を建ててもお釣りが来る計算だ。

平城のみならず、北朝鮮の中小都市は公共交通機関が発達しておらず、郊外に住むとなると非常に不便だ。また「ご近所さん」だった権力層から離れることで、疎遠になる可能性すらある。

さらに、住宅を富と権力の象徴として見る北朝鮮において、市内中心部の最高級マンションから出ていくことは「都落ち」との悪評も立ちかねない、リスキーな行為だ。しかし、情報筋は違う見方をする。

まず、トンジュは自家用車を所有しているため、多少離れた地域でも行き来に問題はない。市場から遠くても、最近は携帯電話一本で何でも配達してくれるサービスがある。また、家政婦を雇っているので、簡単な用事なら自分が出向く必要もないのだ。つまり、郊外に住んでいても何ら不便を感じないのだという。

また彼らの間では、ゴミゴミした中心部に住むより落ち着いた郊外を好むといった、生活の質を優先するトレンドができつつある。以前ほどはガツガツ商売しなくて済むほど、社会的地位が安定したという意味でもあるだろう。

さらにこの現象は、北朝鮮の住宅私有化という流れがもはや後戻りできないところまで来ていることも示す。

私有財産制が明確に定義されていない状況とは言え、以前のように役人がイチャモンをつけて家や土地を奪ったり、強制的に特定の人物への譲渡を強いたりすることは、もはや難しくなっている。トンジュはもはやそのようなことは起きないという確信を持つに至り、移住したとも言える。

慶南大極東問題研究所の林乙出(イム・ウルチュル)教授はデイリーNKの取材に、「今まで当局が行ってきた不動産関連の政策をトンジュが概ね信頼している現れだろう」との分析を示した。また「ゴミゴミしていない郊外で、自分の望むとおりに家を建てて暮らしたいという意志も感じられる」とし、「北朝鮮にも個人の生活向上への欲求を満たす環境が少しずつできつつあると見るべき」と述べた。

トンジュが優雅な郊外豪邸暮らしを満喫する一方で、まともに住む家が得られず、ジメジメした半地下の住宅で住む人々も増えている。北朝鮮は、市場経済化の進展で、皆が等しく貧しかった時代から、極端な格差社会へと移行しつつある。

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