生真面目な北朝鮮労働者を転落の道へと追い込んだ経済難

生真面目な北朝鮮労働者を転落の道へと追い込んだ経済難

平壌市民の日常(2018年9月19日、平壌写真共同取材団)

北朝鮮有数の肥料工場に務めていた男性が、肥料を盗み出そうとして摘発された。飢えに苦しんだ末の犯行だったが、男性の家族は一家離散の危機に追い込まれている。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋の伝えた事件の顛末は次のようなものだ。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)の咸興(ハムン)にある興南(フンナム)肥料工場で働くA氏は、夜陰に乗じて工場から肥料を盗み出した。広大な敷地の正門にたどり着いたところで、保安員(警察官)に見つかってしまった。

A氏は、肥料を抱えたまま逃げ出したがあえなく捕まり、「電気棍棒」で激しく殴打され重傷を負った。この「電気棍棒」がどのようなものかは不明だが、おそらく強力な電流で相手の抵抗力を奪う「スタンガン」タイプの警棒と思われる。

通報されたA氏は翌日工場を解雇された。ただし、北朝鮮の社会主義労働法は第5条で「朝鮮民主主義人民共和国では失業が永遠になくなった。すべての勤労者は希望と才能に応じて職業を選択し、国家から安定した職場と労働条件を保証される」と定めているので、行政処罰法に規定されている降職(降格)、解任、撤職(更迭)などの処分を受け、別の工場に追い出されたものと思われる。

仕事を失ったA氏は傷の治療も受けられずにいる。子どもたちも飢えに苦しみ、妻は金の無心をすると言って親戚の家に行ったきり帰ってこない。

「この過程はコチェビ(ストリート・チルドレン、ホームレス)直前にまで追い込まれている。面倒を見ようとする人もおらず、あと1ヶ月も持たないのではないかと思うと心配だ」(情報筋)

A氏一家はなぜこのような状況に追い込まれたのか。

この肥料工場は、咸興市内で唯一、国からの食料配給が得られる職場だったが、近年、生産量が低下し、規定量の配給がもらえなくなってしまった。生きていくために肥料や備品を盗んだり市場に横流ししたりして現金収入を得るしか方法がない。

A氏は盗みなど一度もしたことのない生真面目な人だった。そんな彼も、日々の糧に事欠き、子どもたちが学校に行けないほどの生活苦に追い込まれ、ついに肥料に手を出してしまったわけだが、生真面目さが災いしたのか、要領よく盗み出せず、捕まってしまったということだ。まさに「正直者がバカを見る」を地で行くような人だ。

このように、北朝鮮では工場の備品、生産品の窃盗、横領が日常茶飯事だ。咸南肥料工場では今年1月にも大規模な肥料横流し事件が摘発されているが、窃盗、横領、横流しの類が多発している。情報筋によると、年間生産量(70万トン〜100万トン)の約1割が被害に遭うほどの深刻さだ。

あまりのひどさに頭を抱えた工場は、1.5メートルの壁を2メートルにして、上部にはガラスの破片を敷き詰めるなど、様々な対策を取っている。

しかし、国際社会の制裁、工場の操業停止、農業生産の不振など、根本的な原因が解決されない限りは、第2、第3のA氏一家はこれからも現れるだろう。

関連記事(外部サイト)