飢えから逃れたどり着いた韓国で…ある脱北者母子の悲劇

飢えから逃れたどり着いた韓国で…ある脱北者母子の悲劇

デイリーNKジャパン

北朝鮮を脱北し、韓国に入国した脱北者の数は今年6月末の時点で3万3022人。毎年の統計が始まった2002年には1142人だったのが、2009年には2914人に達したものの、その後減少し、2018年には1137人まで落ち込んだ。

北朝鮮が国境警備を強化したこと、米朝、南北間の対話が進んだことなどが理由に挙げられるが、脱北後の韓国での暮らしが決して豊かなものではないことが脱北予備軍に知られるようになったことも一因と思われる。

そんな中、韓国のソウルで脱北者の母子が遺体で発見される事件が発生した。

ソウル冠岳警察署によると、先月31日に区内のマンションに住む脱北者のハンさん(42歳)と息子(6歳)が遺体で発見された。料金の未納で水道を止めたが連絡がなかったため、確認に訪れた水道検針員が、家の中から悪臭がするとマンションの管理者に連絡した。窓をこじ開けて家の中に入り、倒れている2人を発見したという。死後数ヶ月経っており、遺体は腐敗が進んでいた。

警察は「司法解剖の結果が出ておらず、正確な死因はわからない」としつつも「発見当時、家の中に食べるものが一つもなかった」として、2人が餓死した可能性を考え、捜査を進めている。

遺品整理業者のオム・シヨンさんは、東亜日報系のチャンネルAのインタビューに、冷蔵庫の中には水もジュースもなく、あったのはトウガラシの粉だけだったと述べた。

脱北者は、韓国入国後、統一省の北韓離脱住民定着支援事務所(ハナ院)で、韓国生活についての教育を受ける。その後、定着金とマンションを受け取って社会に出て、その後各地のハナ院の支援を受けつつ、5年間は所轄の警察署の担当者や地域のハナ院の担当者が身辺の保護と韓国定着の支援を行う。

ハンさんは2009年に中国、タイを経て韓国にやって来て生活に溶け込みつつあったが、昨年10月に今のマンションに引っ越して以降、警察署の担当者と連絡が取れなくなったとのことだ。韓国政府は、捜査が終結し次第、報告に基づいて追加の対策を行う方針だ。

複数の脱北者は、ハンさんは就職に必要な資格を取るため勉強に励むなど韓国での暮らしに馴染もうと努力していたが、中国朝鮮族の夫との離婚後、急に生活が成り立たなくなった模様だと語った。

チャンネルAは、息子が満5歳になって、政府の子ども手当がなくなり、養育手当の10万ウォン(約8800円)が収入の全てで、ネットも携帯もなく家賃は1年以上滞納、手元の現金は3858ウォン(約340円)しかなかったと報じた。

2012年に脱北したある脱北者は「今回亡くなった方は、引っ込み思案で他の人との付き合いがほとんどなかった。そのせいで、生活が苦しくても誰からの助けも受けられなかったようだ」と語った。

さらに、「ひもじさから逃れるために韓国に来たのに、餓死しただなんてとても胸が痛い」として、支援の手が届かない脱北者にもきめ細やかな支援ができるように制度の補完が必要だと述べた。

韓国に亡命した元駐英北朝鮮公使の太永浩(テ・ヨンホ)氏は、脱北者コミュニティに宛てた文章で「ひもじさから逃れ命をかけて北朝鮮を発ってこの国に来た脱北民が、大韓民国においてひもじさでこの世を去ったということが信じられない」とし、その最大の責任は母子が北朝鮮を去るしかない状況に追い込んだ金正恩政権にあるとした。

また、「米韓同盟を分裂、瓦解させ、日韓協調を崩壊させ、韓国の保守と進歩(リベラル)、与党と野党を毎日争わさせ」て、漁夫の利を得ようとしているのは金正恩政権だとしつつも、脱北者の組織を作り、韓国政府に再発防止のための政策提言をしようと呼びかけた。

一方、野党・正しい未来党の国会議員で北朝鮮人権運動を行ってきた河泰慶(ハ・テギョン)氏は自身のFacebookで、脱北者と北朝鮮の人権問題を文在寅大統領が迷惑に考えているとし、謝罪と弔問を求めた。

韓国では、貧しい暮らしを強いられている脱北者が、極右団体からカネを受け取って政治集会などに参加する事例が後を絶たない。そんな人は一部に過ぎないのに、あたかも多くの脱北者が極右思想の持ち主で朴槿恵前大統領の支持者であるかもようなイメージを生み、韓国社会から冷遇される結果をもたらしている。

一方、脱北者で全州紀全大学のチェ・スンヒョン教授は、韓国社会における脱北者への偏見と差別のひどさを語り、その解消を求めている。

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