金正恩氏の「美人妻利権」に手を出した軍幹部の運命

金正恩氏の「美人妻利権」に手を出した軍幹部の運命

金正恩夫妻とモランボン楽団。右端が玄松月氏(朝鮮中央テレビより)

朝鮮人民軍(北朝鮮軍)では、幹部の私的な商行為を厳しく禁じている。政治的な問題に繋がりかねない上に、軍の規律を見出し、メンツも潰すという理由からだ。

そんな規制をくぐり抜けて、タクシービジネスを行ってきた準軍事組織の幹部夫婦が当局に摘発された。お咎めは夫婦だけにとどまらず、組織全体に広がる様相を見せているという。また、平壌のタクシービジネスは、権力者の利権に直結しているという背景もある。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、この夫婦は人民内務軍8総局の所属だ。人民内務軍とは、準軍事組織で現在は人民保安省(警察庁)の所管だが、有事の際には正規軍に組み込まれる、中国の武装警察に近い存在だ。8総局は、平壌市内の建設事業を行う建設部隊だ。

妻は平壌市郊外の寺洞(サドン)区域にある8総局軍医所で軍医として、夫は8総局の高級軍官(将校)だったが、2014年からタクシー2台を購入し、ドライバーを雇い入れて5年間にわたりタクシー業を営んできた。

タクシー業を営むには、タクシー事業所への登録が必要だ。しかし軍人の身分である夫婦の名前では登録ができないため、別のタクシー会社にワイロを掴ませ、ナンバープレートを譲り受け、営業を行ってきた。

ちなみに、北朝鮮では普通の人がタクシー業を営むのは非常に難しい。手続きが非常に面倒で、カネとコネが必要だからだ。まず、営業用の車両は中国から取り寄せなければならないが、関税が高いため、朝鮮労働党系列の貿易会社にワイロを渡して密輸してもらう。購入費用と密輸費用と合わせると新車なら一台1万2000ドル(約127万円)、中古でもその半分だ。

現在、平壌市内で営業しているタクシーの台数は約6000台(韓国の統一研究院の推定)。ほとんどが高麗航空、大同江旅客運輸事業所等の国家機関に所属しているが、個人が経営するタクシーも一部存在する。

次に必要になるのはドライバーだ。車を購入した本人が運転する場合もあれば、ドライバーを雇うこともある。手軽に儲けられる上に、成分(身分)の調査や書類審査もなく面接で決まるため、30〜40代の男性に人気の職種となっている。ちなみに女性はタクシードライバーになれないとのことだ。

摘発のきっかけは些細な交通違反だった。

所属するタクシーが営業中に交通違反を起こし、ドライバーが交通指揮隊に呼び出された。取り調べを受ける過程で、夫婦の名前が出たというのだ。それで部隊の政治部が大々的な検閲(監査)に乗り出した。平壌市内のタクシー料金は初乗りが2ドル(約212円)、後は4キロごとに5ドル(約531円)が加算される。夫婦は相当儲けていたことだろう。

夫婦だけでは済まされず、組織全体の不正蓄財の問題にも飛び火する様相を見せている。

「祖国保衛に忠実であるべき軍幹部が、金儲けのためにタクシー会社を営んでいたことを指揮部も厳しく叱責している。夫婦が不正行為で処罰されるのはもちろんだが、8総局全体の幹部の検閲問題に拡大する雰囲気だ」(情報筋)

平壌のタクシービジネスには、常に権力と利権の影がついてまわる。

かつて、平壌市内最大手のタクシー会社を営んでいたのは、張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長の姪の夫で、元俳優のチェ・ウンチョル氏だ。事実上、市内のタクシー事業を牛耳っていたが、張成沢氏が2013年12月に処刑された後、チェ氏も粛清された。

チェ氏のタクシー会社は朝鮮労働党に所属が移ったが、その会社の裏にいるのは、金正恩党委員長氏の美貌の妻、李雪主(リ・ソルチュ)氏の一派と言われている。ということは、件の軍幹部夫婦は金正恩氏の「美人妻利権」に手を出して摘発されたとも言えるだろう。

関連記事(外部サイト)