北朝鮮で始まった「農業不振の犯人探し」討論会

北朝鮮で始まった「農業不振の犯人探し」討論会

軍傘下の農場を現地視察した金正恩氏(2019年10月9日付朝鮮中央通信より)

国際社会の制裁に加え、相次ぐ自然災害に苦しめられている北朝鮮。国連世界食糧計画(WFP)の報告書によると、今年の小麦、ジャガイモ、トウモロコシ、コメなどの作物の収穫量は平均以下だった。不足する食糧の量は136万トンに上ると見られている。

そして、今年もまたその「犯人探し」が始まった。

デイリーNK内部情報筋は、咸鏡北道(ハムギョンブクト)延社(ヨンサ)郡の三浦(サムポ)共同農場では今年の農作業の経験について発表する会が開かれたと伝えた。「方式上学」と呼ばれる行事で、「各農場の責任者が、収穫量の多かった単位(作業班)を紹介し、彼らの得た経験を知らせる討論会と発表会」(情報筋)で、優秀と評価された農場員には平壌旅行の特典が与えられる。

テーマが「同じ土地、同じ種、同じ肥料を使って農業をしているのに、なぜ土地によって収穫が多い、少ないに分かれるのか」になったところで、三浦協同農場の優秀農場員に選ばれたある農民が次のように指摘した。

「種、肥料、農薬など政府からもらえた分だけでも正直に使えば、農業がうまくいかないはずがない」

つまり、農民が供給された種、肥料、農薬を横流ししているとのストレートな批判だ。そんな批判を聞きながら内心怯えていた農民も少なかったのではないだろうか。

私腹を肥やしている者もいるだろうが、のっぴきならない事情を抱えた人も少なくないだろう。北朝鮮の農民は、毎年春に高利貸しからトウモロコシなどの食糧をカネの代わりに借りる。秋の収穫後に利子を付けて返すという条件だが、返済に行き詰まる人も多いと言われている。そんな借金を返すために、供給された肥料や種などを売っている農民もいると思われる。

それをフォローするかのように、農場幹部の討論では、農業用具の窃盗が深刻であるとの指摘とともに、農業がうまくいくには農民の生活保障が必要との話も出た。また、個人の畑の作物があまり育っていないのに、協同農場での農作業に打ち込めというのは現実的に難しいとの指摘をした幹部もいたとのことだ。

この「個人の畑」とは、圃田担当制に基づき、農場が農民個人に貸し与えた土地のことを指す。家族単位で畑の世話をして、得た収穫の一部を農場に納めれば、後は自由に処分できるというインセンティブ制度で、農民のモチベーションを高めるために一部で導入されているが、成功と失敗の両方の事例があり、その評価は定まっていない。

収穫が多いと称賛された農場の幹部は、農民の暮らしの安定にもかなり気を使っている。

農地を増やすために農民に土地(の耕作権)を与え、個人の畑にも気を使う(余裕ができるように)したことが、モチベーションの上昇につながったというのが、情報筋の評価だ。圃田担当制がうまく行った事例だ。

現場レベルでの模索が続けられているが、国の農業政策を司る省庁にも変化が生じている。

内閣は、今年10月に発した政令で、穀物生産を総括する農業省と、穀物を国が定めた価格で買い取る収売糧政省を統合・再編成し、後者の機能を農業省農村経営委員会に移した。

平壌の幹部が米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に対してこのように語った上で、「これで内閣農業省は、党の農業と畜産政策を司り、食糧と食肉の生産を管轄するにとどまらず、わが国の食料需要と供給をすべて責任を持ち、管掌する力のある機関として浮上した」と述べた。また、今回の措置は、圃田担当責任制で協同農場の自主的な農業を後押しする政策で、農場幹部や農民から好評だと伝えた。

また、平安北道(ピョンアンブクト)の農場幹部も、RFAの取材に、今回の統合で、不正行為を相互監視できるようになれば、軍糧米の調達にも役立つだろうと農場幹部は見ている。

収売糧政省内部では不正行為が横行し、軍糧米が計画通りに調達できない状態だった。

「収穫した稲を脱穀する前に、各農場の収穫高を判定し、収売計画量を割り当てる権限を持った収売糧政員が、穀物の水分量を2〜3%低くして、数十トン単位で着服する事態が頻発している」(農場幹部)

また、軍に供給する軍糧米の徴発を巡って、農民、農場と軍の間でトラブルが頻発している。

新義州市の場合、糧政事業所がコメを供給し、国定価格で販売する食糧配給所はほとんど姿を消し、市場価格で販売する食糧販売所に取って代わられたが、収売糧政省がなくなったことで、食糧配給所もなくなり、食糧販売所だけが増える、というのがこの幹部の見方だ。

一連の措置によって改善はあるだろうが、北朝鮮農業の抱える根本的な解決には至らないだろう。

内閣の国家計画委員会は、工業生産と同じように農業生産にも年間生産計画量を割り当てる。計画経済の枠組みを無理やり当てはめたことによるものだ。その計画量は、前年の収穫量を元にして決めるのだが、虚偽報告が横行しており、そもそも現実に合っていない。

計画量を達成できなければ農場の幹部が処罰されるため、虚偽報告を虚偽報告で覆い隠すことが繰り返されている。そもそも水増しされた計画量に基づいて策定されたノルマに応じて、農民から収穫物を集めるため、農民の手元に何も残らず、やる気を削いでしまう。

また、明確な科学的根拠に基づかないチュチェ(主体)農法も、農業生産の阻害の一員となっているなど、解決すべき問題は山積みだ。

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