「幹部の妻」につき合わされた北朝鮮軍少尉の悲惨な運命

「幹部の妻」につき合わされた北朝鮮軍少尉の悲惨な運命

金正恩夫妻とモランボン楽団。右端が玄松月氏(朝鮮中央テレビより)

北朝鮮は非常に道路事情が悪い上に、ドライバーの運転マナーもいいとは言えず、各地では凄惨な交通事故が多発している。

昨年11月、平壌郊外の上次(サンチャ)峠では、母親の還暦祝いに向かっていた一家12人の乗った三輪バイクが崖から転落、5人が死亡するする事故が起きている。

そんな状況に業を煮やした金正恩党委員長は、交通ルールを厳守せよとの指示を出しているとされるが、一向に交通事故が減る気配はない。咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNKの軍内部の情報筋によると、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)総参謀部作戦局も今月10日、各部隊に対して「自動車を運転するときに守るべき規則」を発布した。

「死刑に」vs「理不尽だ」

デイリーNKはその内容を入手したが、内容はいずれもごくごく基本的なものばかりだ。一部を抜粋すると「運転すには免許証とナンバープレートがなければならない」、「運転手は運転免許の級数に該当する車しか運転できない」、「前後をよく見ること」、「喫煙や雑談をしないこと」、「(運転中に)物を食べないこと」などと言った具合だ。

また、ステアリングや制動装置が備わっていない車、照明や信号装置が備わっていない車、オンボロ車など、運転してはならない車も列記されている。この内容は、2010年6月11日付け朝鮮人民軍の新聞「朝鮮人民軍報」が掲載した規則と同じだ。つまり、全く同じ内容の規則が繰り返し出されている模様だ。

このような規則は、各部隊の参謀部や自動車部のイルクン(幹部)に伝えられ、実際に起きた事故の実例を挙げつつ、学習が進められているという。運転兵には、規則の丸暗記が命じられている。

このような規則が下された背景として、幹部の間ではある出来事がきっかけになったのでは、と囁かれているという。

事故が起きたのは今月初め、首都平壌の北に位置する西城(ソソン)区域石峯洞(ソクポンドン)でのことだ。

人民武力省の幹部の車の運転を担当していた30代のリャン少尉は、幹部の妻を乗せて統一通り、光復通りなどを運転していた。いずれも、富裕層が足繁く通う豪華百貨店もある地域だ。

「仕事」を終えたリャン少尉は、人民武力省幹部の家で酒を飲み、夜10時ごろに東大院(トンデウォン)区域にある自宅に向かった。喫煙しながらハンドルを握っていたが、人民武力省の裏門付近で、人民武力省庁舎警務部(憲兵隊)所属の警務官の取り締まりに引っかかってしまった。

停止命令を無視して全速力で逃げ切ろうとしたが、急カーブで歩道に乗り上げ、ちょうど通りかかった朝鮮人民軍総参謀部所属の将校(45歳)を轢いてしまった。将校はその場で亡くなり、リャン少尉は逮捕され、現在取り調べを受けている。

遺族の怒りは凄まじく、リャン少尉に対して「朝鮮労働党からの除名、軍では更迭、生活除隊(不名誉除隊)させた上で死刑にせよ、人を死なせたのなら自分の命で償え」と厳罰を要求している。

この事故に対して、運転兵の間では、酒を飲んだリャン少尉を批判する声が上がる一方で、「理不尽だ」とする声も上がっている。

「軍の幹部や家族を私用で乗せるのが9割以上というのが、幹部の車の運転兵、そもそも私用で運転させるべきではない」(情報筋)

幹部の車を運転している運転兵たちは「幹部の覚えをよくしてこそ、党や学校にも入れるというのに、私的な利用を拒否できるのか。こんな現実なのに、規則だけ守れというのか」とぼやいているという。

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