日本の大学生、北朝鮮観光で酔って暴れて一部弁償も帰国後はダンマリ

日本の大学生、北朝鮮観光で酔って暴れて一部弁償も帰国後はダンマリ

週刊新潮2月28日号

 『週刊新潮』2月28日号に慶應義塾大学の学生らが昨年8月に起こした騒動についての直筆の誓約書つきの記事が掲載された。

 昨年8月に訪朝した慶應義塾大学商学部と東海大学政治経済学部政治学科のともに3年生の男子学生が泥酔してホテル内の模型や備品など破損させる騒動を起こしていたというものだ。

 学生らは、8月4日から4泊5日で訪朝しており、出国前日に宿泊した高麗ホテル内のカラオケへ行き泥酔し記憶をすっ飛ばし、同ホテルの模型や植木鉢を破損させ(加えて嘔吐)、さらには客室内の灰皿も割ったとのこと。しかし、いずれも泥酔して記憶がないと話したという。

 出国日である翌8日朝、ガイドに叩き起こされて、1階でホテル支配人から大目玉をくらい、部屋へ連れ戻されて持ち金4万円と500元(当時のレートで約8100円)を「強制的に」巻き上げられたと彼らは主張する。

 このときの状況は、当の学生からは旅行を手配した中国の旅行会社へも一切入っておらず、拘束されたのか、駆けつけたのがホテルのガードマンだったのか、公安や軍隊だったのかも一切不明。旅行会社が学生らに問いかけても返答なしだったという。

 彼らは、帰国後に修繕費を支払うと直筆の誓約書を書いて運よく日程通りに出国することができている。しかし、これも下書きが最初からあり強制的に書かされたと学生らは主張する。

◆「体制が違う国」という認識の欠如

 学生が羽目を外すのは珍しいことではないが、場所が場所だけに北朝鮮に詳しい人物の間では驚きをもってこの事件が認知されたようだ。

「そもそも北朝鮮で泥酔した日本人なんて聞いたことない」と話すのは、北朝鮮事情に詳しいテレビ局関係者。

「特殊な国である北朝鮮は滞在中、常に緊張状態になるので煽るほど酒を飲んでも泥酔せず、ましてや記憶を飛ばして暴れるなんて…。先輩や上司がいる飲み会ではシラフでいられるのと同じです」

 筆者の周りでは中国出張でも酔わないという人も多い。北朝鮮どころか中国でも、日本とはまったく違う体制の国であり、日本ではセーフなことでも悪くすれば拘束されかねない。「そんな国」で泥酔していることがまったく信じられないのだ。

 当の大学生にとっては、ちょっと変わった国へ行こうくらいで旅したのかもしれない。

 平壌で彼らと錦繍山太陽宮殿で遭遇した教育関係者一団がいる。話によると、慶応の学生は長髪金髪、東海の学生は長髪赤髪で、「そんなので太陽宮殿へ入れるのか?」とグループ内で話題となったので印象に残っているとのこと。

 昨年は一昨年比3倍の300人ほどの日本人観光客が北朝鮮を訪れたと見られ、訪朝者に比例して北朝鮮が特殊な国であることを忘れた彼らのような旅行者が増えると今年も同じような騒動が起こる可能性が十分にある。

 しかも、彼らが壊したとされる模型が問題だ(翌朝には模型は撤去されていて壊した現物を彼らは確認していないという)。1985年オープンの高麗ホテルの創業記念日である8月9日に合わせて、指導者像や肖像画などを一手に制作する万寿台創作社へ依頼し、中国から材料を輸入して制作された特注模型で、破壊された翌日にお披露目イベントが予定されていたようで、その前日に破壊されたのだから怒り心頭というわけだ。担当者は何かしらの重い処分を受けた可能性もある。

 当の学生らはひどい被害を受けたと思っているだろうが、実際にところ、北朝鮮に詳しい人物からすれば彼らは非常にラッキーだったのではないかという声さえ聞こえてくる。

◆大学生らが出国した2日後に日本人が拘束

 なぜなら、高麗ホテルは、アントニオ猪木氏やデヴィ夫人などが定宿とする北朝鮮を代表する特級ホテルなので、模型完成後に金正恩党委員長が現地指導する可能性は高い。北朝鮮では、最高指導者が現地指導した場所には記念プレートやそのときの写真などが目立つように飾られる。

 もし、彼らが泥酔して、現地指導の後で写真を傷つけてしまったものなら、帰国直後に亡くなった第2のアメリカ人大学生オットー・ワームビア氏になっていた可能性もあり得るからだ。脅されようと何だろうと予定通りに出国できただけでも超がつく幸運で、北朝鮮にしては驚きの寛大な処置だったと言える。

 覚えているだろうか、彼らが出国した2日後の8月11日は、杉本倫孝氏拘束が速報で報じられた日なのである。(参照:HBOL)

 北朝鮮側が手配した旅行会社へ彼らが残した誓約書と騒動を伝えてきたのは8日の夕方で、「問題学生らは予定通り出国済み」の一文以外は伝えられなかったそうだ。

 そのため、旅行会社は事実確認のために、その晩から彼らへ複数回メールを送るも返信はまったくなかったという。拘束されていた杉本氏との関連やもしや出国できていないのではと心配を募らせていたところ、16日になりようやく返信があった。

 文面を見ると旅行会社への謝罪の言葉はなく、

・8日の朝、2人で支配人に誠心誠意謝罪し弁償もしてたのでこの件は終わっている。

・我々は十分に謝罪と弁償をした。朝鮮の物価を考えれば十分過ぎる。

・具体的な証拠も提示されず自分たちの過失の確証がない。

・これ以上弁償するつもりはない。

・誓約書は帰国させないと脅されて書かされたものだから無効。

 などと書かれているだけだったという。

 それに対して、北朝鮮から詳細が伝えられていない旅行会社から詳細を尋ねるメールを送るもこの1通のみで返信は途絶えたそうだ。

 修繕費1500ドル(約16万円)は手配した中国の代理店が肩代わりした。北朝鮮の代理店はオーナーシップ制になっているからだ。年が明けた今年1月、東海大学の学生の入国審査時の住所へ請求書などを送るも住所が存在せず返送、本人と保護者(兄)の携帯電話へかけるも番号自体が存在しない状態。申請自体も虚偽だったのだろうか。

 東海大学へ在学確認と1月末に送った学生課宛の手紙を受け取ったのかと確認するも個人情報のため回答できないとの返答だった。そのため慶應義塾の学生は在学するが、東海大学の学生は在学実態ははっきりしない。

 サブカル的に北朝鮮を茶化して楽しむ風潮はあるが、許されない一線というのもあるだろう。場合によっては拘束され、多くの人を心配させる事態にだって発展しかねない。

 また、下手をすれば外交上のカードを握られて、日朝関係に大きく影響しかねないことだ。

 週刊新潮の記事を読むとさも武勇伝のように語られているが、大学生の旅行先での羽目外し、だけでは済まないのはどこの国でも同じだが、とりわけ北朝鮮や中国は体制が日本とまったく異なることを、もう少し認識するべきではないだろうか。

<取材・文/中野鷹 Twitter:@you_nakano2017>

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