激動のベネズエラ。斜陽国家の独裁者を支持すべく、暗躍するネット世論操作の実態

激動のベネズエラ。斜陽国家の独裁者を支持すべく、暗躍するネット世論操作の実態

lightsource / PIXTA(ピクスタ)

◆絶頂期から転げ落ち、ネット世論操作大国となったベネズエラ

 1900年代後半、治安が良く政治的にも安定し高いGDPを誇っていた国が、2000年代に入り一転して経済的に衰退しGDPが下がり不正や汚職が蔓延するようになった。そして現政権では元首に取り入ることで利益を得、保身を図る者ばかりになってしまった。

 日本の話ではない。ベネズエラのことである。世界では似たようなことが起きている。

 今の日本でベネズエラと聞くと、「なんかヤバいことになっている国」というイメージを持つ人が多いと思うが、1900年代後半は黄金時代だった。ベネズエラの歴史を紐解くことは本稿の趣旨ではないので詳細は割愛するが、絶頂期から一気に転がり落ちたことと、その原因が社会主義を信奉する元首ウゴ・チャベス大統領の経済政策にあったことだけ覚えておいていただきたい。

 ベネズエラは元は親米路線だったが、チャベスが大統領になってから反米になり、社会主義路線となった。以後、ベネズエラはキューバとロシアに近い国となった。チャベス大統領の死後にマドゥロが大統領となったが、事態は変わらず悪化するばかりだった。

 ますます経済は悪化しハイパーインフレを引き起こした。治安も悪化の一途である。すでに国民の支持も失われており、国際社会からの批判も厳しくなる一方だ。数百万人の国民が国外へ脱出した。

 また、2018年2月にはペトロという、同国の石油(ロイターなどのレポートによると、石油が埋蔵されているとされている地域に石油がある様子はないらしいが)に裏打ちされた仮想通貨を立ち上げた(参照:HBOL)

 しかしアメリカで取引禁止にされ、ほとんどの取引所でも扱われていない状況だが、ベネズエラ政府は年金などを強制的にペトロに変えている。昔の第二次世界大戦時の日本の軍票を彷彿させる状況だ。

 2019年1月23日には、国会議長のグアイドーが暫定大統領を宣言し、すぐにアメリカ、カナダ、ブラジル、およびコロンビアなどのラテンアメリカの多くの国が承認した。

 国際社会のグアイドー暫定大統領への支持は広がっており、マドゥロ政権は危機的状況に陥り、激しい抵抗を試みているようだ。グアイドー暫定大統領はブラジルからの援助を取り付けたが、物資がベネズエラ国内に入るのを防ぐためにマドゥロ大統領はブラジルとの国境を閉鎖した。

 ちなみに、同国とキューバとの関係は深く、2013年10月16日のフォーブス誌(”U.S-Style Personal Data Gathering Is Spreading Worldwide”)ではベネズエラ国民の個人情報がキューバに送られ、解析されていることが暴露されている。

 興味ある方は調べて見るとこの国の変遷に驚くだろう。

◆ハッカーが暗躍するラテンアメリカ

 あまりご存じのない方もいらっしゃるかもしれないが、ラテンアメリカにはハッカーもたくさんいる。

 2016年3月31日のBloomberg Businessweekは、ラテンアメリカを股にかけて活躍したハッカーグループのリーダーAndr?s Sep?lvedaの記事“How to Hack an Election”を掲載した。

 2005年から活動を開始し、ハッカーのチームを率いて選挙戦略を盗み、SNSを操作し、敵対候補にスパイウェアを仕込み、依頼者を当選させるサポートを行う。2012年のメキシコ大統領選の時の報酬は60万ドルだったという。この記事によれば彼はベネズエラの大統領選にも関与していた。

 2018年8月にフランス政府が公開した“INFORMATION MANIPULATION A Challenge for Our Democracies”によれば、そもそも西側諸国のラテンアメリカ諸国への関心が比較的低かったことから、2000年代半ばから中国、イラン、シリア、ロシアなどが政治、経済、メディアを使って干渉を開始していた。ロシアはエネルギー、軍事、貿易、メディアで干渉があったという。

 2009年に始まったロシアのプロパガンダ媒体であるRTのスペイン語版のオフィスは、アルゼンチン、ベネズエラ、キューバ、ニカラグア、マドリッド、マイアミ、ロサンゼルスに設置された。RTスペイン語版のフェイスブックには580万人が登録している(英語版490万人よりも多い)。同じくロシアのプロパガンダ媒体のスプートニクのスペイン語版は2014年に開始された。RTはベネズエラに本社を置く中南米向け放送TeleSURと提携している。

◆ボットでネット世論操作を仕掛け合う

 日本ではほとんど報道されていないが、ベネズエラはネット世論操作においても有名である。

 直近では2019年1月31日にツイッター社がベネズエラ国内のアカウントをネット世論操作の疑いがあるとして削除している(参照:Empowering further research of potential information operations )。

 政権支援のアカウントが国内に対するネット世論操作に使われていたのと、海外への干渉に使われていたのだ。ワシントンポスト紙もこのことを“Twitter removed some accounts originating in Iran, Russia and Venezuela that targeted U.S. midterm election”と題した記事で取り上げていた。

 削除されたアカウントは764で、ロシアのIRAが行っているネット世論操作を真似た活動を行っていたとされている。これらのアカウントの多くは2017年11月に作られており、自国の国内をターゲットにしたネット世論操作を中心に仕掛けていた。マドゥロ大統領のツイートを自動的にリツイートするアプリまで存在している。

 フリーダムハウスの『インターネットの自由2013』によればベネズエラのインターネットは検閲されており、政府はSNSを利用して政権の見解を流布し、敵対する政党などを攻撃することに利用しようとしている。Twiplomacy調査(SNSの政治利用についてのレポート)によればマドゥロ大統領のRT比率は世界3番目の著名人となっている(これはリツイートされたツイートの比率の平均を尺度にしたもの)。

 日本のBLOGOSで田中善一郎が紹介した記事もある(参照:「独裁大統領もソーシャルメディアをフル活用」、2011年7月30日)。

 2018年7月20日に公開された世界のネット世論操作を一覧するレポート、“Challenging Truth and Trust: A Global Inventory of Organized Social Media Manipulation”(参照:Samantha Bradshaw & Philip N. Howard, Working Paper 2018.1. Oxford, UK: Project on Computational Propaganda. comprop.oii.ox.ac.uk. 26 pp.)には、ベネズエラは中規模の情報操作部隊を保有し、推定人数は500人である。選挙への干渉もあるとされている。

 しかしこれらはベネズエラで行われているネット世論操作のほんの一部でしかない。同国のネット世論操作は2010年から始まっており、世界的に見てもかなり早い。2011年にツイッターを始めた当時のチャベス大統領(@ChavezCandanga)は400万番目のフォロワーに家をプレゼントすると約束し、実際に400万番目のフォロワーとなった大学生にプレゼントした。その後、特定のハッシュタグをプロパガンダに用いる作戦などが長年にわたって行ってきた。

 2015年にはすでに同国のネット世論操作に関する論文も発表されている。

“Political Bots and the Manipulation of Public Opinion in Venezuela”(Michelle Forelle 南カリフォルニア大学アネンバーグ, Phil Howard ワシントン大学, Andr?s Monroy-Hern?ndez マイクロソフト・リサーチ ワシントン大学, Saiph Savage メキシコ国立自治大学)と題された論文によると、ベネズエラではボットの規模は小さいものの、政治シーンにおいて戦略的な役割を果たしているという。ラテンアメリカの政府や政治リーダーたちはデジタルメディアとデータを急速に活用するようになってきている。同国もそのひとつだ。

 論文が書かれた時点ではベネズエラでのインターネット普及率は低く、ツイッター利用者も少なかった。しかし、インターネット利用者の14%がツイッターを利用しており、この比率は世界的に見ても高かった。

 前述の大統領が世界第3位のRT比率だったことについて、この論文ではリツイートのほとんどはボットであろうとし、キューバの反政府活動家によってマドゥロ大統領のツイートをリツイートしていた2500アカウントがボットである可能性が高いことを指摘している。なお、この件に関しては専用アプリを使用していたと指摘するレポートもある(後述)。

 この論文の調査結果によると、もっとも活動的なボットはベネズエラの革新的な野党のものだった。

 ボットは一般市民よりは政治家や政府関係者や政党を装っており、最終的にボットは敵対者を攻撃したり、フェイクニュースを撒き散らしたりするようなことはなく、害を及ぼしてはいないことが確認された。

 2015年8月4日には、ツイッター社によって6000以上のマドゥロ大統領のフォロワーアカウントが削除された。Pew Research Centerによると、ベネズエラはもっともツイッターがアクティブな国のひとつで特に政治に関する話題が多いという。(参照:「The Merccury News」 ”Venezuela government uses fake Twitter accounts for political gain”)

◆政府によってコントロールされるソーシャルメディア

 先述したように、マドゥロ大統領のツイートを自動的にリツイートするアプリまで登場しているおかげで、マドゥロ大統領は世界の著名人で3番目にリツイート率の高いアカウントとなっている。

 同時に、政府関係者の発言に関するリツイートの速度は非常に早く、拡散にボットが使われているのは間違いないと考えられている。

 しかし、ベネズエラのソーシャルメディア省は、「反対派が支持者はボットだと言って自分たちを慰めているだけ」と否定している。

 ただ、その一方で政府を批判する側のリーダー(現在、拘禁中)のツイートも少なくとも7%が自動的にリツイートされている。

 つまり政権側と反政府側のどちらもボットを利用しているわけだ。とはいえ、圧倒的に政権側が有利なのは否めない。

 ベネズエラのソーシャルメディアは政府によってコントロールされており、組織的に運用されている。たとえば通信省は政府支持のツイッター軍団にツイート内容を指示するテキストメッセージを送っており、ハッシュタグは政府のメディア関係者はもちろんその他の部局のアカウントもツイートしている。

 2018年7月19日に公開された"STATE-SPONSORED TROLLING"(INSTITUTE OF FUTURE、Carly Nyst、Nicholas Monaco)によるとベネズエラ政府は敵対する者たちをネットで激しく攻撃している(もちろん、リアルに拷問も行っている)。また政府関係者などにデジタル・ゲリラになるためのトレーニングも行っており、ツイッターやフェイスブックやインスタグラムを武器として戦うデジタル軍隊なのだという。

◆ロシアと連携して海外の世論操作も行うベネズエラ

 ベネズエラは国内でネット世論操作を行っているだけではない。2017年10月、スペインで行われたカタルーニャ独立に関する住民投票の際にロシアの干渉があったことはよく知られているが、実はベネズエラからの干渉も検知されていた。住民投票の後にスペインの外務大臣が記者会見で、ネット世論操作に使われたアカウントの30%はベネズエラからだったことを明らかにしている( 参照:”Spain sees Russian interference in Catalonia separatist vote”ロイター、2017年11月13日 )。

 ネット世論操作においてベネズエラとロシアは協調しており、ベネズエラがロシアに協力する一方でロシアは積極的にベネズエラを支援している。

 アメリカのシンクタンク大西洋評議会のデジタル・フォレンジックラボによれば(参照:”Same Script: RT and Maduro on Migration” 2018年11月18日)、ロシアがベネズエラの主張(強引に事実をねじ曲げたもの)の拡散に協力していることを指摘している。

 ベネズエラから230万人が海外に脱出したことについて、国際的社会では同国の経済政策の失敗による経済悪化、治安悪化によるものと考えられているが、ベネズエラ政府はそれを否定している。ロシアのプロパガンダ媒体として有名なRTのスペイン語版はベネズエラ政府の主張を拡散するために20の記事と動画を公開した。このサイトは1カ月3,900万訪問者があり、そのうち13.3%はベネズエラからだった。

 またベネズエラはアメリカを中心とした西側の干渉についてさまざまな反論を繰り返している。たとえば、「海外脱出について西側のメディアは誇張しており他の国に比べて特段悪い状況ではなく、国連の公表している数字に疑問がある」、「アメリカやEUによる制裁措置がベネズエラの経済と人権の危機に拍車を掛けている」、「ベネズエラに対する不当な批判はアメリカからの干渉を正当化するためである」、「西側のメディアは公正中立ではなく、ベネズエラへの軍事的干渉を正当化しようとしている」などがある。

◆ハッシュタグ拡散で「謝礼」!?

 2019年2月3日、ネット世論操作を暴いているデジタル・フォレンジックラボが”#InfluenceForSale: Venezuela’s Twitter Propaganda Mill”と題するレポートを公開した。このレポートではベネズエラにおけるネット世論操作とロシアとの連携の詳細が書かれていた。

 ベネズエラ政府は、政府関係者とそのフォロワーにソーシャルメディアへの協力を要請し、毎日ハッシュタグを投稿させており、そのハブのひとつである@Tuiteros_Vzlaは約6万人のフォロワーを持ち、10万超のツイートを投稿していた。

 ツイートする内容は政権の支持やキューバ支持などである。Hootsuite社のレポートによればこの国の44%はアクティブなソーシャルメディア利用者であり、影響力は大きい。このアカウントがプロモートしたハッシュタグのほとんどはベネズエラでツイッターのトレンドに入り、中には世界のトレンドに入ったものもあるというから、その影響力の大きさがわかる。

 @Tuiteros_Vzlaはハッシュタグ拡散に協力してくれた謝礼を、ベネズエラ政府が発行するIDカード(マザーランドカード)とデジタルワレットおよび専用アプリを介して支払っている。カネを受けとるために国民は自らの情報を登録している。このアカウントは1週間で5800人に謝礼を支払ったとツイートしている。カネで世論を買う、売るという行為が日常的に行われているのだ。2018年5月のツイートによると一人当たりの謝礼の金額はベネズエラの平均月収の3分の1に達していたという。

 こうした方法で支持者を増加させると同時に、ボットもしくはボットに似た行動をとるアカウントによってトピックスを押し上げる仕掛けを用意していた。デジタル・フォレンジックラボはアカウントのツイートを分析し、そう結論している。

 @Tuiteros_Vzlaはベネズエラ政府のアカウントではないが、政府広報と連動するなど明らかにつながっている。

 同レポートでは、ロシアとの連携についての事例も紹介されている。2017年7月にマドゥロ大統領が西側のメディアがベネズエラに対する”フェイクニュース”(※マドゥロを批判する記事)にあふれていることを訴えると、ロシアのプロパガンダ媒体スプートニクはすぐにそれを紹介している。(参照:Maduro Accuses World Media of Spreading Fake News on Venezuela)

 2019年2月7日、EUの対ロシアネット世論操作組織であるEast StratCom Task Force によると、ロシアのプロパガンダ媒体であるスプートニクとRTは全ての言語でベネズエラに関する記事を掲載しており、特にスペイン語版の影響が大きいとしている。これらの記事へのリンクを含むツイートは2018年12月1日から記事掲載の日までに31万ツイートにものぼった。

 フランス大統領がマドゥロと敵対するグアイドー暫定大統領の支持を表明した際には、ロシアが操作している疑いのあるアカウントが批判的なツイートを行った。このアカウントはシリアに関してもロシアの意向に沿ったツイートを行っていた。(参照:Venezuela, e-voting and Western money)

◆ベネズエラの歴史を変えた1月23日

 前述のように2019年1月23日にグアイド暫定大統領が誕生した。この日、大規模な反政府デモが行われ、ネット上ではベネズエラに関するさまざまな情報と意見が飛び交った。2019年1月25日にデジタル・フォレンジックラボが詳しいレポートを公開している。

●Protests Go Viral in Venezuela

 このレポートによれば、政府の関与するインターネットプロバイダーは政権支持派の多さによって、地域的にネットをブロックしたり、速度を上げたり、下げたりしていたという。

 以前からベネズエラでは政府によるこうしたネット対策が行われており、TOR(匿名通信ツール)の通信をプロバイダがブロックすることもあった。Wikipediaへのアクセスをブロックしたこともあった。

 ベネズエラに関するネット上の情報の動きをデジタル・フォレンジックラボが調査したところ、グアイドー支持や反政府に関するものはボット使用の痕跡は認められず、マドゥロ政権支持ではボット使用が認められた。

 危機感を募らせたマドゥロ大統領はメディアへの圧力を強めているようである。(参照:”Maduro Fights Back With Targeted Killings and Media Blackout”2019年1月29日、Bloomberg)

◆シリーズ連載「ネット世論操作と民主主義」

<取材・文/一田和樹>

いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。近著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている

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