イタリアの「一帯一路」参加。そののっぴきならない背景と波紋

イタリアの「一帯一路」参加。そののっぴきならない背景と波紋

Image by Kerstin Riemer via Pixabay

 イタリアが中国の一帯一路のプロジェクトに参加することになった。このことについて、欧州連合(EU)そして米国は、中国がこれを契機にヨーロッパを支配するようになるのではないかと警戒感を表明している。

◆イタリアが「一帯一路」参加に踏み切った背景

 しかし、イタリアにして見れば事情もあるようだ。

 例えば、イランとの核問題を発端に米国がロシアに制裁を科し、それに協力してEUもロシアに制裁を科した件だ。イタリアはそれまで積極的にロシアと貿易取引を伸展させていたのだが、この制裁によって、ご破算になってしまったのだ。

 また、EUに対する反感も育ちつつある。ユーロの導入によって、イタリアのリラは弱い通貨となり、しかもイタリア政府が輸出奨励金を支給していたことなどがユーロの導入で廃止せざるを得なくなってイタリアはそれまで半世紀以上イタリア経済を支えて来た輸出立国から後退してしまった。現在長期に亘って景気が低迷している事態を前にポピュリズム政府は財政赤字を幾分か増やしても景気回復に政府は公共投資を進めて行きたいと望んでいる。ところが、それに対してもEUは財政緊縮策の適用を連立政権のイタリア政府に要求している。

 現状のイタリアは失業率10.5%、国の負債はGDPの132%にまで及んでおり、非常に厳しい経済環境にある。それ故、外国からの投資は是が非でも必要とされているのである。外国からの投資といってもEU加盟国も経済は低迷しており、そこからの投資は期待できない。そのようなことからポピュリズム連立政権の「五つ星運動」が視線を向けたのが中国なのである。

◆中国在住の政府次官が橋渡し

 五つ星運動のリーダーで副首相ルイジ・ディマイオ(Luigi Di Maio)の手足となって中国との関係強化に動いたのが経済省次官のミケレ・ジェラシ(Michele Geraci)であった。ジェラシーは中国で生活していたという経験もあり、より中国との関係強化の必要性を感じていたようである。

 ジェラシは「イタリアは中国のヨーロッパへの投資相手国の中でしっぽに位置することから脱却せねばならない」と述べ、英国にはこれまで800億ユーロ(10兆4000億円)、スイスには400億ユーロ(5兆2000億円)を投資しておりながら、イタリアには僅か220億ユーロ(2兆8600億円)しか投資していないことを明らかにしたのである。(参照:「La Vanguardia」)

 一方でディマイオは「両国の貿易バランスを均衡にすることから始めることだ」「イタリアには『Made in China』が多すぎる、中国には『Made in Italy』が僅かだ。合意はこの傾向の是正に向けたい」と述べた。(参照:「El Pais」)

◆イタリア政府の目算どおりに行くか……

 ディマイオのこの発言から察せられるように、イタリア政府は中国との関係づくりはあくまで商業取引の発展を図るレベルで考えているようであるが、それに警戒心を抱いているのは、イタリアの国際政治研究所(ISPI)のアレシア・アミジニ(Alessia Amighini)所長だ。彼女は「単に経済面の繋がりという以上に、中国の公営企業との商活動は彼らが政治目的を含んでいるためにイタリアが弱体国家になってしまう可能性がある」と指摘している。

 また米国の安全保障会議のギャレット・マリキス(Garrett Marquis)報道官は「中国が計画した一帯一路は中国の為のものだ。イタリア政府のそれへの支援がイタリアの市民にとって本質的に利益をもたらすようになることには懐疑的だ。長期的にはイタリアの世界における名声を傷つけることになるであろう」と語った。(参照:「La Vanguardia」)

 同様に、今回のイタリアと中国の合意を前に米国の今後の動きを警戒しているのは、ジオポリティクス誌『Limes』の創刊者ルチオ・カラチオロ(Lucio Caracciolo)である。彼は「米国はこの合意からイタリアを経済的に苦しめる可能性がある。米国の格付け企業がイタリアの負債のレーティングを下げて来るようになるかもしれない。あるいは米国との防衛についての見直しを迫るようになることも考えられる」と述べた。(参照:「La Razon」)

◆連立政権内でも意見の相違

 五つ星運動と連立政権を組む北部同盟のマテオ・サルビニ(Matteo Salvini)も中国とのこの合意には反対はしていなが、一定の距離を置いているという。そして党として同盟は、覚書によって中国が(イタリアを)植民地化するようになることはさせないと促した。またサルビニは覚書の署名にも出席しなかった。(参照:「El Pais」)

 当初50の合意が予定されていたが、EUそして米国からの圧力もあって結局29の合意に縮小されて署名が訪問中の習主席とコンテ首相との間で交わされた。第五世代通信G5については合意から外されている。ディマイオはEUからの警戒心を緩める意味で「イタリアは先に到着したが、EUの他の加盟国を蹂躙するものではない。ヨーロッパにおいて一緒にできることは実行する意向である」と表明した。(参照:「El Pais」)

 今回のような覚書は中国は対ヨーロッパでは既にクロアチア、チェコ、ハンガリー、ギリシャ、マルタ、ポーランド、ポルトガル言った国々と交わしている。ところが、今回より注目されたのはイタリアがG7の加盟国であるということからである。

<文/白石和幸>

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

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