かつらは国連制裁に抵触しない? 北朝鮮かつらや布ビジネスが盛り上がる

かつらは国連制裁に抵触しない? 北朝鮮かつらや布ビジネスが盛り上がる

中国と国境を接する新義州青年駅

◆国連制裁アピールをする中国だが中朝関係は改善傾向

 中国税関が発表した中朝貿易統計によれば、2018年の中朝貿易総額は、10年前水準の24億3000ドル(約2570億円・前年比51.2%減)と激減している。

 以前触れたように、中朝国境エリアで密貿易なども横行しているため、中国政府発表の数値には信憑性が微妙という向きもあるが、表向きは中国政府は繰り返し責任ある大国として国連制裁に従い着実に履行していることをアピールしている。

 公的な中朝貿易は縮小する一方で、中朝指導者の関係は劇的に改善し、交流を深める状態になっている。それも影響してか、一時期あまり聞かれなかった中朝交易の話がちらほら聞こえてくるようになった。

◆いま盛り上がってるのは「かつら」貿易!?

 今、盛り上がっている交易の1つが「かつら」ビジネスである。3年ほど前から始めたという中国朝鮮族の女性経営者の薛氏は、月産数百個のかつらを北朝鮮で製造し、中国へハンドキャリーで持ち込み中国国内だけではなく、東南アジアや欧州へも輸出しているという。

 主に生産しているかつらは、いわゆる全かつら(全頭かつら・フルウィッグ)と呼ばれるものだ。アジア人向けだけでなく、白人や黒人向けも作っており非常に好評だと胸を張る。しかも、かつらは国際制裁の対象外なので問題ないと薛氏は主張するも、後に説明するが実際は国連制裁に抵触している可能性は高いと思われる。

 薛氏がこのビジネスを始めたのは10年ほど前からかつらビジネスをやっている朝鮮族男性を親戚から紹介され、そのビジネスモデルを習ったためだ。この男性は月産数千個を委託生産しているらしく、かつら界のカリスマと呼ばれている。

 製造されている実際のかつらを触った人に聞くと、薛氏は人工毛だと主張するが、人毛かと思う感触で驚いたという。今後、もっと生産数を増やしたいと意気込んでいるが、ハンドキャリーとはいえ本当にこれだけの量を旅具通関(手荷物扱いの簡易通関)で通せるのであろうか。

◆衣料用生地産業も再び活況

 さらに関係者へ話を聞いていくと、これも一時期、聞かなかった布生地ビジネスが再び活気づいていることが分かった。北朝鮮は、縫製技術が高いことで知られる。日本の大手アパレルメーカーが下請けを通して日本向けスーツの袖口などが北朝鮮で縫製されていたいことは有名な話だ。

 現在、監視が厳しくなり日本向けの布や生地はないようだが、昨年の春から韓国向けが増えているという。ある別の朝鮮族経営者は、中国から生地を北朝鮮へ持ち込み、韓国向けのチマチョゴリの生地を手縫いで生産し、再び中国へ戻し、韓国へ輸出し、チマチョゴリへ加工し、「Made in Korea」、韓国製として韓国人向けに国内販売している。

 北朝鮮の工場で担当しているのは、布の大まかな裁断と朝鮮半島伝統の刺繍「ポジャギ」を施し、出荷している。この段階ではまだ製品ではなくただの素材、布なので、国連制裁をすり抜けられるという。そして、最終的には韓国製へと姿を変えて韓国人が買っていくという流れだ。しかし、「国際連合安全保障理事会決議第2375号」には、輸入禁止対象に、繊維製品(生地および部分的にまたは完全に完成された衣類を含む)となっており、生地のみでも抵触すると思われる。

 裁断や刺繍をしているのは、主に北朝鮮人の普通の主婦たちで、訓練し、韓国人が好むデザインレベルまで品質を向上させたという。

◆「ダサい」と不評だったがデザインを改善

 「韓国人と(北)朝鮮人のポジャギの価値観1つとってもまったく違うので、当初は、韓国人に“ダサい”と大不評でした。そこで韓国人の好みをヒアリングして改良を重ねました。朝鮮の女性たちは手先が器用でよく働くので、1年ほどで韓国人が喜ぶような『韓国的な』製品を作ることができるようなりました」(朝鮮族経営者)

 チマチョゴリ以外にも刺繍を取り入れたポーチやハンドバックのような製品の生地も北朝鮮で作られているようだ。韓国人はこの刺繍や布が北朝鮮で作られたものを知らずに韓国製と思って使っているのだ。

◆「かつらは国連制裁に抵触しない」は本当なのか?

 2019年1月31日に北朝鮮の原材料を使った「つけまつげセット」をアメリカで販売していたとして米カリフォルニア州の「エルフコスメティクス」という企業が、核、弾道ミサイル開発に対する国連制裁に違反したとして100万ドル(約1億1500万円)の制裁金を支払うと、『AFPBB News』が報じている。

  エルフコスメティクスは、原材料を中国企業から輸入したので北朝鮮製が混ざっているとは認識していなかったとコメントしている。この例からすると、かつらも国連制裁に抵触する可能性は高い。

◆「人毛のほうがコストが安い」の噂

 かつら貿易商の薛氏は、人工毛を使ったかつらだと主張するが、「北朝鮮では人工毛よりも人毛のほうがコストが安いのでは?」という恐ろしげな声も聞こえてくる。

 かつらや布ビジネスを手がける両経営者は、まだ大した利益は稼げていないが、近い将来の北朝鮮への国連制裁緩和を見越しての先行投資と人脈、人材の確保のために動いていると話す。

<取材・文・撮影/中野鷹 Twitter ID:@you_nakano2017>

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