失敗に終わりそうなベネズエラ軍事蜂起。背景にはグアイドーの焦り

失敗に終わりそうなベネズエラ軍事蜂起。背景にはグアイドーの焦り

Jonathan Alvarez C via Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

 4月30日に暫定大統領グアイドーと一部軍人が起こした軍事蜂起は失敗に終わりそうだ。軍事蜂起が計画されていたのは5月1、2日であった。カリブ海のある島でこの軍事蜂起についての交渉の仲介していた一人の軍人がスペイン電子紙『El Confidencial』にそれを明らかにしたそうだ。

◆計画を揺らがせたグアイドーの焦り

 当初、米国トランプ政権は、ベネズエラのモレノ最高裁裁判長、エルナンデス・ダラ国家警備隊名誉会長、パドゥリーノ国防相といったマドゥロ側の面々、そしてグアイドーをリーダーとする反政府派との間で合意を交わしていたそうだ。この軍事蜂起を合法化させるためだったという。

 自宅に軟禁させられていたレオポルド・ロペスが恩赦となったのも、国家諜報局SEBINのマヌエル・クリストファー・フィゲラ長官が彼を釈放して今回の軍事蜂起の拠点になる軍事基地ラ・カルロッタにグアイドーとロペスが一緒に現れて蜂起を正当化させるのに都合が良いと判断したからだという。また、ジョン・ボルトン米大統領補佐官はモレノ最高裁裁判長、エルナンデス・ダラ国家警備隊名誉会長、パドゥリーノ国防相の3人と数か月前から密かに交渉してこの軍事蜂起の合意が交わされていたのは、マドゥロをキューバに亡命させるためだった。

 ところが、グアイドーはその合意内容を守らず、一日早めて4月30日に蜂起を決行してしまったのである。階級の低い一部軍人らを伴っての軍事蜂起だった。

 グアイドーとロペスが決行を一日早めたことによって、前述3人を始め、それに軍事参加を予定していたホセ・アデリノ・オルネーリャ・フェレイラ将軍も手を引いたという。彼は1992年にチャベスが軍事クーデターを起こした時に一緒に参加したひとりで、チャベス政権時には指令本部の本部長の責務を担い、2017年からは第二コマンドの司令官である。(参照:「El Pais」)

◆グアイドー、焦りの要因

 なぜグアイドーは5月1日まで軍事蜂起を待つことができなかったのか? 理由はある。もともとグアイドーは、5月1日に大統領官邸までの抗議行進を実行する予定だった。しかし、その実行直前に司法関係当局はグアイドーを逮捕するという情報が彼の手元に届いたからだという。

 もしここで逮捕されてしまったら、5月1日の「本番」である軍事蜂起に参加できなくなる。そのため、蜂起の実行を早めたというのである。(参照:「El Confidencial」)

 El Confidencial紙にこの裏事情を伝えたその軍人は「ベネズエラの言葉で言えば、グアイドーもロペスも『光を食べてしまった」。二人共アマチュアだ」「ニコラス・マドゥロの反対勢力である二人は相手方側近らと事前に合意していたことを守らず、主人公になりたくて焦ったのだ」と述べた。

 更に、「グアイドーとロペスは米国政府そしてマドゥロ政権を支える軍人と交渉していた我々を驚かせてしまった」「米国はグアイドーに裏切られたと感じている。これからどのようになるか私には分からない」と語ったのである。(参照:「El Confidencial」)

◆大きくなりそうな焦りの代償

 グアイドーはこれまでも反政府派の主要メンバーに事前の相談もなく突発的に物事を決める傾向にあったという。また、反政府派の間では彼の決定に反対でも反マドゥロ派の結束を乱さないために沈黙した時もあったそうだ。反政府派でグアイドーより以前から戦って来たエンリケ・カプリレス はそのひとりだ。

 米国政府内ではグアイドーに憤慨しているという。せっかくマドゥロ政権の重鎮にインセンティブを与えるという戦術でマドゥロ大統領の倒壊を手中に収める寸前にあったのに、功を焦ったグアイドーが無駄にしてしまったからである。このグアイドーの焦りの背景には、ロペスが影響していたはずだ。(参照:「El Confidencial」)

 マドゥロはキューバに亡命する準備をしていたが、軍事蜂起が彼の政権を揺るがすものでないと判断したロシアがマドゥロにそれをとどまるように説得したらしい。ポンペオ国務長官がそれを明らかにした。(参照:「El Pais」)

 ただ、このポンペオ国務長官についても、ロシアがマドゥロにキューバへの亡命を留まらせたというのは米国の今回のプランが失敗したことを隠すために見繕った嘘であるという憶測が飛んでいる。

◆もうひとりいた、マドゥロ側のキーパーソン

 さらに、この軍事蜂起失敗の要因について、もう一つの憶測が飛んでいる。

 それは、マドゥロ側のキーパーソンである前述の3人以外の「もうひとり」の存在だ。その人物とはディオスダド・カベーリョである。

 カベーリョは国民議会の元議長で、現在反政府派の支配下にある国民議会に対抗してマドゥロは制憲議会を設立し、その議長に就任しているの人物である。チャベスが病気で政権を放棄せねばならなくなった時に、憲法の規定によれば、暫定大統領になるのは当時国民議会の議長であったカベーリョであった。ところが、チャベスはマドゥロを後継者にしたという経緯がある。また、カベーリョには軍部でも彼に忠実な軍人も多くいるとされている。

 そのカベーリョがマドゥロの政権交代に反対して、彼の配下を動かしてこの軍事蜂起を潰したという憶測もされている。というのは、トランプ政権はカベーリョはベネズエラの軍部の支配によるカルテルのリーダーで、米国の麻薬取締局(DEA)は彼を逮捕して米国で裁くことを強く望んでいる。それを知っているカベーリョは、マドゥロ政権が倒壊すれば彼が身を隠せる場所がなくなると考えて、マドゥロをキューバに亡命させようとするプランを潰す為に工作したと憶測されている。(参照:「El Espanol」)

 今回の軍事蜂起が当初のプラン通り進んでいたならば、蜂起を起こすその同じ日にミケル・モレノ最高裁長官が最高裁を特別に開廷して制憲議会が違法であるという判決を下して、その議長であるカベーリョを拘束し、そのあとパドゥリーノが軍の最高指揮者であり国防大臣という地位から彼を逮捕するというシナリオだったというのだ。しかし、カベーリョに忠実な軍部の一部がそれに従う可能性はなく、寧ろカベーリョを拘束すれば軍部内でパドゥリーノ国防大臣らに背く軍事蜂起が発生して内戦に発展する可能性もあったことが懸念されたという。(参照:「El Espanol」)

◆軍事放棄は有耶無耶に終わるのか……

 一方のロペスは今回の軍事蜂起が成功する可能性はないと見切りをつけたのか、家族と一緒に先ずチリ大使館に向かい、そのあとスペイン大使館に保護を求めて現在そこに滞留している。それがスペイン政府にとって重荷となって来ている。なぜならロペスがそこで記者会見をしたからである。スペイン政府はマドゥロ政権に配慮して今後はスペイン大使館をロペスの政治活動の舞台にされることを一切禁じた。(参照:「La Vanguardia」、「El Confidencial」)

 今後は、米国がどのように駒を動かすかということに注目が集まるであろう。しかし、打てる手は今回の失敗で可なり狭められたことになる。

 先ずはベネズエラで活動しているマドゥロに忠実なキューバの軍人およそ2万5000人を帰国させることであろう。そうすることによってマドゥロをさらに孤立させて行くことである。その為にトランプ大統領はキューバの軍人がベネズエラから撤退すれば制裁を緩めるという誘いをしている。(参照:「El Periodico」)

<文/白石和幸 photo by Jonathan Alvarez C via Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)>

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

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