ベネズエラ、マドゥロ政権と反対派が協議を開始。仲介したのはノルウェーの何故?

ベネズエラ、マドゥロ政権と反対派が協議を開始。仲介したのはノルウェーの何故?

協議が開始されたノルウェーのオスロ photo by Alexandra von Gutthenbach-Lindau via Pixabay

◆マドゥロ政権と反対派が協議を開始

 ベネズエラのマドゥロ大統領政権と反対派のグアイドー暫定大統領の間でそれぞれ代表がノルウェーのオスロで協議を始めたということがつい最近明らかにされた。

 マドゥロ政権から協議に臨んだ代表にはホルヘ・ロドリゲス(通信相)とヘクトル・ロドリゲス(ミランダ州知事)、一方の反対派からはヘラルド・ブライレ(元議員)、フェルナンド・マルティネス・モトラ(アンドレス・ペレス元大統領時の大臣)それにスタリン・ゴンサレス(国民議会副議長)が加わった。(参照:「ALNAVIO」)

 ノルウェーがベネズエラ紛争に仲介役をするのではないかという噂は今年2月中旬にあったという。マドゥロの対欧州連合担当のイヴァン・ヒル副外相がノルウェーの外交高官ダグ・ネイランダーと会談を持ったことが明らかになった時からである。(参照:「ALNAVIO」)

◆なぜに「ノルウェー」が仲介?

 もともとノルウェーとマドゥロ政権の接点は以前から存在していた。コロンビア政府がコロンビア革命軍(FARC)との和平交渉にノルウェーが仲介した特に、先ずチャベス、その後マドゥロがこの交渉に第三者的な立場から参加していたからである。この和平交渉が成立した実績をマドゥロ政権は評価していたというのが、前述ヒル副外相がネイランダーと接点を持った起因であった。それ以後、ノルウェーはマドゥロとグアイドーの双方の動きに注視していたというわけである。

 コロンビアのサントス前大統領は彼の著書『La batalla por la paz(平和の為の戦い)』の中で、「僅か500万人余りの人口のノルウェーには人類に尽くす為の豊富な経験が集積され、交渉で信頼を勝ち取るための方法論まで備えて敵対する双方を接近させることを容易させている。コロンビアがそれに感謝しているように、世界もそれに感謝すべきだ」と述べている。

 更に、サントスは、当時彼の政権とFARCの最初の接点では仲介役のノルウェーは非公式の会合の場を設けて地元のサーモンに白ワインを用意し、正式に協議が開始される前に双方の全権代表と他の参加メンバーとが面識を持つようにさせて冷たい氷を打ち砕く場を設けたことにも言及している。

◆ノルウェーの稀有な存在感

 また、ノルウェーのベルゲン大学のレイブ・マーステイントゥレデット(Leiv Marsteintredet)政治学教授は「仲介役を務めるノルウェーは常に中立的な姿勢から双方が少しづつ歩み寄ることを心がけているということ」に触れ、「彼らが交渉役ではなく飽くまで双方の交渉を容易にする為の役目に徹する」ことを指摘している。更に同教授は「ノルウェーは国として誰にも好かれるという特恵を持っている」ということも挙げた。

 ノルウェーはNATO(北大西洋条約機構)の加盟国ということから米国とも良好な関係を持っているということと、ノルウェーの政権は伝統的に社会民主国ということからベネズエラやラテンアメリカの左派政党にも受け入れられていることも同教授は指摘している。これに関係して。ベネズエラの反政府派はこの協議に米国政府も了解していることを明らかにした。(参照:「ALNAVIO」)

◆過去2回は失敗に終わった協議だが……

 マドゥロ政権と反対派の協議はこれまで2回行われているが何れも失敗している。

 最初は2016年にバチカンが主導、また2回目は2018年初頭にサントドミンゴで協議がもたれたが、いずれも成果はもたらされていない。しかも、反対派からはこれまで3議員が拘束され、11議員が亡命、8議員が身を隠し、5議員が外国の大使館に逃避しているといった状態で、マドゥロ政権からの弾圧が続いている。(参照:「La Nacion」)

 このような事情下で双方がオスロで協議を始めたというのも理由がある。双方の行き詰まりである。

 グアイドーは4月30日に軍事蜂起を主導したが失敗に終わった。新たな打開策はない。彼が訴える抗議に参加する市民も減少している。策がないから、国民議会は米国の軍事介入を承認することも可能だと言い始めている。彼を支持している50か国余りもその後の具体策がない。

 そして、一方のマドゥロも抜き差しならない事情があるのだ。

◆是が非でもマドゥロ政権延命を願ったある男の存在

 この軍事蜂起を機に、マドゥロは政権を放棄してキューバに向かう予定であった。その後、グアイドーをマドゥロ大統領政権下の国防大臣ヴラディミル・パドゥリノ、最高裁長官マイケル・モレノ、国家警備隊名誉会長イヴァン・ラファエル・エルナンデス・ダラらが迎い入れる予定であった。ところが、その計画に待ったをかけた人物がいた。制憲議会の議長で軍人出身のディオスダド・カベーリョである。

 なぜなら、マドゥロの政権が崩壊すればカベーリョは最終的には米国に送られて裁判を受けることになるのを知っているからである。彼はベネズエラの軍部が支配するカルテルのリーダーで、米国の麻薬取締局(DEA)は彼を逮捕して米国で裁くことを強く望んでいるからである。それを避けるためには、マドゥロ政権をこのまま継続させることが必要なのである。

 しかも、カベーリョはチャベスがクーデターを遂行した時に一緒に参加した一人で彼を信望する軍人は今も多くいる。特に麻薬に関与している将軍連中の間では彼は今もリーダーである。彼は軍事蜂起が起きていた隙間に彼の配下の軍人を動かして米国、ロシアそしてマドゥロの側近がプラニングしていたことを潰しにかかったのである。それを感知したロシアは当初の米国との合意プランから手を引いたのである。

 カベーリョが政権に関与している間はベネズエラから負債の返済を受けることは不可能と判断したのが理由だ。

 この出来事に関係させて、ジャーナリストでベネズエラ電子紙『El Nuevo Pa?s』の副社長フランシスコ・ポレオ は「ロシアはクリミアの併合を米国のトランプが黙認するとし、その交換条件としてロシアのプーチンはベネズエラの民主化を容易にさせることに合意した」と述べている。ところが、カベーリョの干渉でそれが実現できなくなったのである。

◆マドゥロ政権内部の対立、そして行き詰まり

 しかも、カベーリョはベネズエラの諜報組織Sebin の長官にグスタボ・ゴンサレス・ロペス将軍を就かせて反対派の議員を徹底して逮捕する動きを積極的に展開するようになっている。ということから、ベネズエラの政権内部はマドゥロとカベーリョの対立が起きているということなのである。(参照:「El Nuevo Pa?s」)

 そこでマドゥロはその打開策としてオスロの協議への参加を決めたのである。グアイドーも米国CIAからの指示は受けているが、当面は米国からの軍事介入は期待できないということで同じく一つの打開策としてオスロの協議に関心を示したというわけである。

また、反政府派にも内部で分裂が起きている。国民議会のフリオ・ボルヘスがツイートでオスロの協議についてメディアで初めて知ったと述べて、事前に知らされなかったことを皮肉った。彼は現在コロンビアに亡命している。(参照「El Pais」)

 マドゥロ政権はいずれ資金的に行き詰まって崩壊するはずだ。それまでにどのように展開して行くか未知数である。

<文/白石和幸>

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

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