日本の放射能汚染水海洋流出を危惧する韓国の「脱核運動」。コロラド博士、韓国をゆく

日本の放射能汚染水海洋流出を危惧する韓国の「脱核運動」。コロラド博士、韓国をゆく

送られてきたポスター

◆Twitter DMから始まった予想外の展開

 去る2018年9月4日に、当ハーバービジネスオンラインにて「東京電力『トリチウム水海洋放出問題』は何がまずいのか? その論点を整理する」 と題した記事を私が執筆したことを覚えておいでの方は多いと思います。

 このとき、河北新報のすっぱ抜きに始まった「トリチウム水」には基準値を超える「放射性多核種」が含まれていることの指摘によって、昨年8月で嘘の情報をもとに市民の同意を取り付け、目的を達成する=多核種放射能汚染水を海洋放出するという国や東電の常套手段があえなく崩壊しました。

 私は、これを「ヒノマルゲンパツPA」(Japan’s Voo-doo Nuclear Public Acceptance, JVNPA)の一典型事例と見なし、見守ってきました。

 日本政府や東電、与党政治業者の愚かしい点は、このヒノマルゲンパツPA(JVNPA)というものが唯一日本でのみ通用する物であって、諸外国、周辺国がこのような詭弁に受け容れるわけが無いと言うことを理解できていないことです。その一典型事例が、WTO裁定における日本の完全な敗北*です。

<*参照:政府説明、WTO判断と乖離 「日本産食品は科学的に安全」記載なし:朝日新聞2019/04/23

*参照:日本は韓国にWTOで敗訴したのか? - 山下一仁|論座 - 朝日新聞社2019/05/07>

 国内でのみ通用してきたヒノマルゲンパツPA(JVNPA)によって好き放題してきた日本政府、東電、財界、政治業者は、国際社会から強烈パンチ一発の“こうかはばつぐんだ!””(It’s Super Effective!)を食らった形で、国内向けには勝利宣言(「実は勝っているんだ」という負け犬の遠吠え)をしますが、国際社会はこの裁定によって日本への対応を大幅に厳しくすることは自明であり、日本政府は「転進」を模索し始めています*。

<*参照:"福島第1原発処理水、長期保管も選択肢 政府、処分法検討 - 毎日新聞2019/05/13">

 さて、そのような大きな動きが福島核災害を巡って始まる直前に、HBOL編集長から私へTwitter DMが転送されてきました。(要約)

”韓国の「生命脱核シルクロード」という脱核運動をしている団体からの問い合わせです。

貴社に投稿していらっしゃる牧田寛氏の連絡先を教えて頂けないでしょうか。

実は、牧田寛氏宛に5月24日(ソウル)のセミナーへのご招待のメールを送りましたが、連絡がつきません。

申し訳ございませんが、どうか、牧田寛氏への連絡が取れるようご協力お願い致します!

S.L. Ph.D.”

 メールはともかく、フェイスブックのメッセンジャーは、アダルト関連の迷惑メッセージが多く、余り見ていませんでしたので見落としていました。

 S.L.さんは、水原大学の若手教授ということがわかり、「生命脱核シルクロード」*というのは、韓国の反核団体で、仏教系のようです。とても面白そうですので、すぐに招聘受諾の返事をしました。

<*参照:『生命・脱核シルクロード行進』の紹介>

 この時点で私は、大学教官が関与している仏教系のおだやかな市民団体と考えて、簡単な英語での発表で良いだろうと考えていました。しばらくすると、「ポスター作ったよ」と言うメールに、ポスターが添付されてきました。

 それが冒頭に掲げた写真です。

「えっ!?!? 専門家?いや、僕は専門家ではないと言っていたはずだけど……」

「えっ! 後藤政志さん? あ、CV(原子炉格納容器)設計のバリッバリの専門家だ。よかった」

「それよりも、会場が民弁会館とあるよ。えっ!?えっ!?」

「共同主催が民弁(民主社会のための弁護士会)だよ。というかこれ、主催者民弁じゃんよ!!!!」

 民弁と言えば、全斗煥政権当時から軍事政権と大激闘してきた闘う弁護士集団です。光州事件の真相究明でもしられており、おそらく極東最強の民主弁護士集団で、盧武鉉元大統領、文在寅大統領を輩出しています。

 これにはさすがに驚きました。部屋に通されたら中に大きな虎が居たようなものです。正直、肝を潰しました。しかしこれはたいへんに名誉なことです。やるしかないでしょう。

 聴衆の想定を大学生程度に再設定し、発表は英語、質疑応答は通訳を介した日韓語と設定してもらいました。しかしこれは最大の間違いでした。

◆Day1 韓国へ

 私は、91年初訪韓、93年に再訪韓して以来、26年ぶりの訪韓となります。松山空港からはLCCのチェジュ航空が週3回の仁川直行便を運行しており、総費用1万円から1万8千円で往復できます。飛行時間は1時間半弱、LCCの割に定時就航率が高いので関空経由で8〜10時間、7〜10万円に比べれば優位は明らかです。

 可愛らしいみかん色がコーポレートカラーのB737で仁川へ発ちました。

 韓国に着くと、公共の場所で大概、中国語、台湾語、日本語、英語表記がなされており、たいへんに楽です。勿論、音声案内も各言語対応です。おそらく、東京よりも外国人に対して配慮されています。国際都市として、日本の立ち後れがやや感じられます。近年、「東京や大阪の電車などでの韓国語、中国語表記をやめろ、ここは日本だ」などと言う主張がやたら目につきますが、極東と世界の成長中心である韓国や中国ではこのような身の回りでの国際化を急速に進めています。

 入管では指紋採取の上ですぐに入国許可、私は免税品を買っていませんので、通関もすぐにでき、到着ゲートを通過するとすぐ目の前でプリペイドSIM 5日間無制限で27000ウォン(2700円弱)を購入できました。これでポケモンGOができます。

 ちなみに、テザリングが制限されており、一系統の通信しか通りませんので、SIMをモバイルWiFi端末に入れ替えることで多端末化しました。APN情報は、手打ちです。ソウル都心で下り100Mbps以上でていますので、凄く快適です。私が購入したのは、LG U+というキャリアでした。4G LTE通信で常時100Mbps以上でていて容量無制限は、とてもうれしいです。

 両替は空港で行いましたが、実はホテルでのレートが僅かですが良かったです。空港の到着ゲート直前内側にある両替窓口が二番目にレートが良かったのですが、差は微々たるものですので、気にする必要は無いでしょう。

 松山空港でのレートは25%も悪いので、日本国内での両替はやめた方が良いです。

 空港ビル外にあるバス切符売り場で目的地までのバス切符15000ウォン(1500円弱)を買い、ソウル中心部のホテルに向かいました。約100分でホテル前につきましたが、1時間ほどはソウル市内でお客を降ろすためにウロウロしているためで、急ぐ方は鉄道かタクシーなら1時間かからないでしょう。

 ここまで、私は韓国語を全く読めませんし、会話もできません。精々、挨拶言葉を知るくらいです。それでも一人で事前情報無しにここまでできました。91年に関釜フェリーで釜山港に着いたら、もはやどうすれば良いか全く分からない状態だったことと比して格段の進歩です。極簡単な英語さえできれば、あとは先方が「日本人ですか?」と聞いてきますので、日本語が通じることも多いです。

 もっとも、ハングルを読めるだけで飛躍的に快適性が向上しますので、もう年ですが、韓国語を学ぼうかという動機になりました。

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◆Day2 12:00 講演当日 京郷新聞による取材

 翌日、午前中は発表練習に費やし、お昼に後藤政志さん、通訳さんと合流しました。そのまま地下鉄乗り継ぎで会場近くまで移動しましたが、韓国は公共交通の運賃がたいへんに安いです。地下鉄車内には、ごちゃごちゃした吊り広告がなく、阪急電車よりもスッキリしています。表示も日本語対応ですし、たいへんに楽です。

 後藤さんとは実は初対面です。穏やか且つ信念の方だと思います。3.11当日は都内で帰宅難民と化し、12日午前中に帰宅したとき、格納容器(CV)が耐圧の二倍まで達している様をTVで目の当たりにし、世界が変わったとのことでした。CV設計者の生の声は貴重です。

 私は、3/11の17時半頃に全電源喪失、復旧の見込み無しと報じられたときに、原子炉の崩壊を覚悟しましたが、何より驚いたのは、専門家が明白な嘘をつきはじめ、しかも原子炉について無知、行政は市民を守ろうともせず、東電は当事者能力無し。これが私の価値観を激変させました。

 後藤さんは、3/11後にカミングアウトし、言論活動を開始されたとのことでした。私はもっと前からと勘違いしていました。

 当日は、ソウル市内32℃で真夏の暑さですが、日本と異なり蒸し暑さは軽い方です。それでもたいへんに暑く、外を歩くのは難儀でした。

 京郷新聞(The Kyunghyang Shinmun)による取材があり、写真撮影ののち、昼食と喫茶店でのインタビューでした。

 インタビューでは、ハンビッ原子力発電所における反応度重大インシデント*、次いで福島第一汚染水問題と質問が続きました。

<*参照:"原発ハンビッ1号機の熱出力計算・判断ミスは危険極まりない「ヒューマンエラー」 : hankyoreh japan(ハンギョレ新聞日本語版)2011/5/22" >

 これは制御棒過引抜という初歩的なヒューマン・エラーによる重大インシデントでしたが、インタビュー当時、このことは知られておらず、とにかく情報開示が第一であること、この重大インシデントで原子炉が壊れることは無いと思うが、反応度事故は原子炉事故では最も恐ろしいもので、合衆国を中心に散々研究し尽くされている。このような事故を起こしたことは、運用などのソフトウェア面を含めてシステムに重大な欠陥があることを示していると答えました。

◆韓国原子力学会で講演した日本人物理学者とは……

 最後に日本人物理学者による5/21韓国原子力学会における講演についての質問となりました。これは全く知らなかったことで、質問途中で嫌な予感がしましたが、日本人発表者の名前は、Ryugo Hayano氏であるということで、心底驚きました。そりゃあきませんわ。

 私からは、当該研究は、対象者全員からのデータ利用の承諾を受けていなかった、倫理委員会決定前に研究を開始してしまった事から不正研究である疑いがきわめて強く、研究そのものの存在が許されないことになっている。また、多くのガラスバッチの扱いが悪く、終日家屋に放置されていた物が多いために測定の体をなしていない。データ解析がずさんであり結論の意味が無い。それらを査読で見抜けなかった問題も大きい。などと言った理由で、現在東京大学で調査中である。故に、韓国原子力学会が早野氏を招聘したこと自体が学問的にはきわめて不誠実な誤りである。

 勿論、早野氏には抗弁する機会と権利があるし、そもそもこのようなきわめて初歩的な研究不正を地位も名誉もある優れた学者の早野氏がおこなう動機が全く分からない、あり得ないことだとコメントしました。

 加えて本件については、黒川眞一博士らによる一般向けの寄稿記事*を読むことが望ましいと伝えました。

<*参照:"黒川名誉教授緊急寄稿。疑惑の被ばく線量論文著者、早野氏による「見解」の嘘と作為を正す | ハーバービジネスオンライン 黒川眞一 2019/02/11"

"疑惑の宮崎早野論文を報じた朝日新聞に看過できない「改ざん」。不誠実な「訂正」は許されない | ハーバービジネスオンライン 黒川眞一2019/02/21">

 また牧野淳一郎博士による批判も公開されている。

・"データ不正提供疑惑・計算ミス発覚の個人被曝線量論文。早野教授は研究者として真摯な対応を | ハーバービジネスオンライン 牧野淳一郎2019/01/11"

・"宮崎早野論文を、「削除はするが問題はない」とした放射線審議会の異常さ | ハーバービジネスオンライン 牧野淳一郎2019/02/04" >

 そのほか、岩波書店の「科学」誌などで厳しく批判されているので、これらと早野氏の主張を共に見るべきだと答えました。

 日韓間には密接且つ重層的な交流があります。言語による障壁こそありますが、日本語話者である韓国人はたいへんに多く、しかも日本人より日本語を巧みに操り、解する韓国人すらいます。日本での出来事、韓国での出来事は相互に筒抜けなのです。

 インタビューは当初、英語で行われましたが、あいにく当方の応対能力が限られるので、同時通訳者に入ってもらい、韓日語での取材となりました。

 そうです。我々のホスト側通訳者は恐ろしく、素晴らしく有能だったのです。私は「しまった〜」と後悔し始めていました。

◆Day2 14:30〜 講演前

 いよいよビルの二階、民弁事務所の会場へと向かいました。

 なかなか良い会場ですが、聴衆が想定と全然違います。やっても〜た〜!感が強いです。サイマル(同時通訳)をお願いすべきでした。こちらの英語が完璧ならなんとかなりますが、14年使っていない錆サビのボロ英語です。大学内でのコロキウムと同じと思っていたのに!

 右手に立派な予稿集があります。なんと、全韓国語訳した分厚い冊子です。リソグラフで印刷した即興の冊子と違います。私は勘違いして直前に予稿を送っていました。えらい迷惑をかけています。日本の大学の貧しさをこういうところで実感できました。

 ずいぶん立派な冊子です。

 なんと、HBOL 2018/09/04掲載記事が全文韓国語訳されています!

 思うのですが、韓国側は本気でこの福島核災害問題に取りかかろうとしているようです。なにしろ、共同主催者は、韓国脱核エネルギー学会準備会です。民弁と大学のタッグで、これは凄い戦力になりそうです。しかも今は、新・化石資源革命と再生可能エネ革命のまっただ中です。今日では、かつて唄われた原子力の経済性、供給安定性、安全性、信頼性すべてが吹き飛んでいるという環境があります。

 一方で、韓国はハンビッ1号炉の重大インシデントのような危うさがありますが、第三世代プラス炉(APR-1400 3G+)*の輸出を行う、サウジアラビアとの小型モジュール炉(SMR)建設の協定を結ぶ**など、たいへんに優れた面も持ちます。また、核燃料サイクルを行っていない、WH系CE系フラマトム系と言った多様なPWR技術を導入できただけでなく、CANDUというたいへんに優れた柔軟性の高い炉も実用炉として導入しています。

<*"NRC: Design Certification Application Review - Advanced Power Reactor 1400 (APR1400)"

**"サウジアラビア:「SMART」炉の技術で韓国と協力契約締結 | 一般社団法人 日本原子力産業協会" 2015/09/07>

 実は、韓国の商用原子力産業そのものは日本より優れている、日本が核燃料サイクルの底なし沼でもがく間に追いつき追い越した側面もあります。

 その一方で、ハンビッ1号(WH系 PWR)炉反応度重大インシデントをおこしたり、ハンビッ4号炉(CE系System80 PWR)格納容器に大穴が見つかる*など、思わず“ケンチャナヨー“**とつぶやいてしまいそうな間抜けな面もあります。

<*:"ハンビッ原発4号機の防護壁に大きさ2メートルの超大型の穴 : 政治?社会 : hankyoreh japan 2018/11/12 ">

**:???? 沖縄弁の「テーゲー」 宮崎北部弁の「てげてげ」に類する言葉。「大丈夫ですよ」という意味だが、実は根拠がなかったりする。原子力で「てげてげ」や「ケンチャナヨ」は困ります>

 今回はここまでとし、次回、私の講演を、次いで後藤政志さんの講演、その後総合質疑について、帰国編と覚えている範囲で執筆します。

『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』"東京電力「トリチウム水海洋放出問題」は何がまずいのか?”第二部・韓国講演編1

<取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:@BB45_Colorado >

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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