在ベトナムの邦人起業家、差別発言で大炎上。現地日本人社会も困惑

在ベトナムの邦人起業家、差別発言で大炎上。現地日本人社会も困惑

問題となったツイート(削除済み)

◆かつては良かった東南アジアでの「日本人の評判」だが……

 タイの首都バンコクでタクシーに乗ると、ときどき運転手から「日本人か」と訊かれる。年配の運転手にかつて日系企業の運転手をしていたという人がよくいて、たとえば「優しくていい人だった。中村さんって言うんだが、知っているか」と言われる。

 よく日本人は「海外に行ったら、ひとりひとりが日本代表」と言うが、タイのタクシー運転手の言葉がその答えである気がする。彼らにとっては「日本人」は一括り、みんな「同じ日本人」だと思うわけだ。そう考えれば、確かに我々日本人は「日本」そして「日本人」が持つ本来の魅力を損なわないように振る舞うべきだろう。

 近年は海外が身近になり、その分、世界中で日本人の評判を押し下げるどうしようもない同胞が増えた。東南アジアを2019年だけで見ても、タイで振り込め詐欺の集団が捕まり、カンボジアでは若者2人による強盗殺人まで起きている。

 そんな中、今(2019年6月)の時点で東南アジア内で大絶賛炎上中なのは、ベトナムの首都ハノイで起業した若い日本人のツイートであろう。ベトナム人の目に留まってしまい、ベトナム最大のサイトでもニュースになって話題になっている。(参照:kenh14.vn)

 発端は、今月11日にその日本人がアメリカ発のカフェにスマートフォン・アプリで受発注するデリバリーサービスのベトナム人従事者が店内にいたことに対し、「小汚い格好で店内におり、その店のサードプレイスの世界観が崩れる」といったことを呟いたことだ。(参照:Web魚拓)

◆本当に「炎上」したのか? 現地の人に聞いてみた

 ただ、タイ在住の筆者はこの「炎上」に関してやや慎重にならざるを得ない。というのは、日本のサイトでタイで「人気」あるいは「炎上」といったニュースが見られても、実際にはそうでもないということがよくあるからだ。そこで、筆者はベトナムに住む、かつて取材などで知り合った人々に一斉にメールを送ってみた。まず最初に返ってきたのは、ベトナム南部に住む人物だった。

「いや、ベトナム人はツイッターをあまりしないから、そんなに騒ぎになっていないのでは?」

 やはり温度差があるのだろうか。ベトナム人もさすがに同じ日本人である筆者には直接は言いづらいのか、返信がない。ところが、ハノイ在住日本人たちから返ってきた内容はまったく違うもので、むしろネットで「炎上中」どころの話ではなかった。

◆ハノイでは、まさしく「大炎上」だった……

 この起業家にとってはちょっとした発言だったのかもしれない。いわゆる「意識高い系」を自負し、日本人ハノイ在住者も賛同してくれると思ったのだろう。この人物のアカウントをフォローしていた人は当初、これに賛同する日本人がいたという。しかし、炎上が発覚するとコメントは削除され、ついには起業家本人もアカウントを非公開にしてしまった。フェアではないので入手できた当人の携帯電話にかけてみたものの、呼び出し音が鳴るばかりで、電話を取ってくれなかった。

 ベトナム語になった記事に反応し、ベトナム人からは下記のような反応がある。

「何ガ小汚いって!仕事中の制服だよー」

「何の仕事をしても 自分の力で お金稼げたら 良い仕事です。どんな服を着ても 自分で 合うと思ったら 良い服です。人間は 様々なんですが 他人差別する事は 最低な人間の事です。」

(いずれも「ベトナム日本交流 On Facebook」を参照)

 ネット上ではこの日本人のフェイスブックも出回っており、どの投稿に対しても罵声の嵐で、まさしく「炎上中」である。

◆日本人全体の評価を落とす行為

 問題はハノイの日本人社会にもかなりの影響があることだ。ハノイ在住日本人たちは今後どうなるのかとひやひやしているという。飲食店で働く人物は次のように筆者のメールに返信している。

「本件はベトナム人コミュニティでもかなりバズってますね。私の友人でベトナム人女性と結婚した人は本件でかなり責められたとのこと。日本人ってヒドイ! って」

 理解し合っている夫婦でもこのようなことになっているし、批判の一部はそのカフェがそもそも高級じゃないしおいしくないといった議論まであり、とばっちりも広がる。

 さらに別の自営業者はこのように言った。

「ベトナムで悪口を言ったら、ここまで炎上して袋叩きに遭うのかとビビってます」

 この人物によれば、本人はなんら反応を示しておらず、SNSなどから顔も知られてしまった以上、ベトナムで事業を継続することは不可能だろうということだった。

◆好景気だけに惹かれてきた「意識高い系新移住者」

 ベトナムの日本人社会は20年近く前のタイの邦人者数と同じくらいの規模で、特にハノイ市内の日本人たちは助け合いの精神で、ベトナム南部のホーチミン市の日本人社会より友好的な関係だそうだ。それなのに、その中でも以前からあまり芳しくない評価だったという。この炎上は起こるべくして起こったとも思えてくる。

「新興勢力」というのは、最近移住をしてきた若い人たちを指す。筆者の住むタイにもそういった人たちが少なくない。近年の東南アジアは景気がよく、企業による進出も多いし、個人で移住して起業する人もいて、その中には30代、あるいは20代といった若い人も多い。そして、残念ながら、若い起業家の一部は残念な方向に「意識が高い系」であることがある。

 別の日系企業に勤める日本人は「自分中心のバカのせいで悪く見られるのが、普通に迷惑。無理せず日本で仕事しろと言いたい」と語っている。ベトナム人の怒りの声にも「日本に帰れ」といった言葉が多く見られる。これには昨今の日本でのベトナム人雇用のトラブルも関係しているのではないかとホーチミン在住の日本人が話している。

「日本国内の技能実習生への酷い扱いや、その反面で増えているベトナム・ヘイトみたいな雰囲気があるかと思います。それはベトナムにも伝わっていますが、それでもベトナム人は在住者や観光客に対しては親日的です。しかし、このニュースのおかげで、ベトナム在住日本人もこんなひどいこと書くのか、となり、こんなことを言う奴は日本に帰れと炎上しているのだと思います」

◆日本国内でのベトナム人差別が在ベトナム邦人社会にも影響

 東南アジアの国々は家族や友人への帰属意識や愛情が非常に強い。もちろんどの国にも自分の民族が一番という思想はあるが、東南アジアは愛国心や団結力が日本人が思う以上に高い。また、個人が自由であることは権利であるという考えが当たり前だ。そのため、日本人が日本にいる感覚で、気にくわないからとその国の人を貶めるようなことを言えば、このようにたちまちネットで騒ぎになり、「日本」が批判の対象になってしまう。

 特にハノイ在住日本人たちは「日本国内の技能実習生への酷い扱いやベトナム・ヘイトの実例がいろいろと暴露されているので、これをきっかけにベトナム国内で日本人ヘイトへの狼煙が上がるのではないかと、こちらはビクビクものです」という状況だという。

 日本国内の差別的な技能実習制度や、その差別意識をそのままベトナムに持ち出した「意識高い系」の勘違い日本人たち。

 ハノイで長年地道に地位を築き上げてきた日本人たちは、この「炎上」の行方を見定めているところである。

<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM)>

たかだたねおみ●タイ在住のライター。近著『バンコクアソビ』(イースト・プレス)

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