ベネチアで入港反対運動再燃。深刻化するクルーズ船の環境破壊、健康被害

ベネチアで入港反対運動再燃。深刻化するクルーズ船の環境破壊、健康被害

豪華クルーズ船の旅は世界中の富裕層に人気になっているが……  photo by Roman Grac via Pixabay

 本サイトでも奄美大島で進むクルーズ船寄港計画などを取り上げたが、世界各地でクルーズ船の「問題」が噴出している。(参照:"環境汚染、行方不明、ブラック労働……。ブームの陰で本当はヤバイ豪華客船クルーズ旅行|HBOL")

◆事故を契機にクルーズ船抗議運動が再燃

 6月2日、イタリアのベネチアで6万6000トンのMSC社の大型クルーズ船「Opera」がベネチア本島の停泊港に向かう途中ラグーン(潟)のジュデッカ運河で遊覧船「River Countess」に衝突して後者に乗船していた観光客の間で幸いにも死者は出なかったが4人が負傷するという事件が起きた。この事件を切っ掛けに大型クルーズ船がラグーンに入って来ることに反対する抗議が再燃した。

 理由は深刻な大気汚染を誘発しているからである。(参照:「El Pais」、「El Espanol」)

「この2〜3年前からバルコニーで洗濯物を干すのをやめた。私はジュデッカ島に住んでいて、私の家はベネチア本島の真向かいにある。毎朝起きると重い空気を吸っているように感じている」と取材に答えたのは舞台女優のサビナ・トゥトネさんである。

 彼女が語っていることは正にクルーズ船による大気汚染がベネチアの住民の健康を損なう要因をつくっていることを如実に示すものである。

◆深刻化するクルーズ船による環境汚染

 最近はヨーロッパでもクルーズ船での旅行に人気があるが、クルーズ船の燃料は重油で硫黄分や微小粒子物質を多量に含んでいるため健康障害や環境破壊を誘発する要因になり易い。それが僅かのクルーズ船の通過であれば問題は少ないが、イタリアのテレビ局La7が発表した報告によると、ベネチアでは年間594隻が入港しているというのは深刻な問題である。クルーズ船はそれが停泊中もエンジンは作動させているため24時間大気を汚染しているのである。余り知られていないが、客船のデッキも汚染された空気で満たされて健康を損なうには十分な場所である。

 更にベネチアの住民の間で問題が起きている。電磁波汚染である。テレビの画像受信やインターネットの受信に問題が発生するケースが起きているのだ。

 ラグーンの海底でも問題が発生している。船の全長が300メートルで10万トン以上の船になると海底の溝が深まって傷つけられて海底の生物の生態系に悪影響を及ぼすようになっているそうだ。(参照:「El Espanol」)

◆9万6000トン以下ならベネチア本島まで入港してくる

 現在、9万6000トン以上の大型クルーズ船はラグーナを通過するのではなくベネチア本土のマルゲラ港で停泊することになっているが、それ以下のクルーズ船はラグーナを通過してベネチア本島に停泊できる。レッタ元首相の政権時に環境保護からラグーナを通過できる船を4万トン以下と政令で決めていたが、それを不服としてクルーズ船の船会社が控訴。判決でそれが認められてこの政令は廃止された。ということで、現在9万6000トン以下のクルーズ船はベネチア本島まで入港しているのである。

 ベネチア本島まで入港する場合、アドリア海に面したリド島のリド港からジュデッカ運河を経由してベネチア本島に向かっている。リド島からクルーズ船ではなくフェリーで本島に向かうという案が出されているが、客船会社は飽くまでクルーズ船で本島に停泊することを主張している。

 現在代替案として有力なのはマラモコ港からペトゥロリ運河を抜けて、ビットリオ・エマヌエル3世運河から本島の停泊港に向かうルートである。水深を10.5メートルまで深めるだけでよい。19か月の工事で、費用は1億2000万ユーロ(156億円)と見積もりされているそうだ。

◆連立政権内でも対立が

 同盟と五つ星運動の連立政権は今月6月末までジュデッカ運河を経由する以外の解決策を見つけたいとしている。これを担当している建設省は五つ星運動のダニロ・トニネリ大臣だ。両政党が対立関係にある中、同盟のサルビニ内相は「昨年、この問題の解決はついていたはずだ。ダニロ・トニネリのせいで前進していない。彼は同盟ではない」といって五つ星運動を間接的に批判するような表現をしている。(参照:「El Espanol」)

 ただ、クルーズ船の寄港にもメリットがないわけではない。

 クルーズ船がベネチアに連れて来る観光客は年間で156万人だという。即ち、一日におよそ4300人をベネチアに連れる来ている計算になる。そして、彼ら観光客の訪問によってベネチアで4000人が直接雇用で働いている。ということで、クルーズ船の入港によってもたらされる観光産業はベネチアのGDPの3%の貢献に繋がっているそうだ。(参照:「El Mundo」)

 それだけに、地元の住民が健康問題と大気汚染問題を理由にしてクルーズ船の入港に反対しても、地元の関係当局では経済を優先してクルーズ船の入港を禁止することが出来ないということなのである。

<文/白石和幸>

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

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