降りしきる雨の中、悲しく響いていた抵抗する若者たちの賛美歌<大袈裟太郎的香港最前線ルポ2>

降りしきる雨の中、悲しく響いていた抵抗する若者たちの賛美歌<大袈裟太郎的香港最前線ルポ2>

弾圧は抵抗を呼び、抵抗は友を呼ぶ

◆その日への胎動。SNSが市民を強くする

 13日、香港は朝から大雨だった。

 前日の喧騒が嘘のようにバリケードも早朝に撤去され、案外あっさりと交通も回復していた。2014年の雨傘運動の時、オキュパイドが長引き地元の商店から苦情が出たことから抗議者側も学んだのかもしれない。

 残されたのは昨日のカオスが産んだ大量のゴミだったが、若者たちは淡々とそのゴミを片付け、まだ使えるヘルメットやゴーグルをより分けていた。

 立法会周辺は警察が完全に封鎖し、厳しく規制していた。

 沖縄から駆けつけた友人のジャーナリスト、LEEJと合流。幾つもの言語を操る彼にはその後、何度も助けられることとなった。

 午前中、立法会へ向かう立体回廊では、バリケードを挟んで市民と警察隊の対峙が続いていた。

 当然のように警察隊の手には銃があった。

 この日も立法会の審議は中止になったが、現場は一触即発という雰囲気だった。

◆危機を煽るだけのエセ保守の二枚舌

 審議中止を受けて日本の虎ノ門系似非保守たちが「よくやった!」などとSNSで宣ったが、こっちじゃ催涙弾を避けながら中学生が走り回っているのだ。

 中国が攻めてくるなどと普段、威勢良く叫んでいる彼らが、実際にはいかに役に立たない机上の存在なのか。危機を煽ることをビジネスにしている卑小な存在か、身体で痛感した。

「大袈裟太郎を見直した」などという言説も何とも空虚で、吐き気がした。

「きみらがおれを見直そうがどうしようが、おれはとっくにきみらを見放しているよ」と叫びたくなった。

 まして、私の行動は沖縄でしていることと何も変わらないのだ。

 いつも辺野古の座り込みに「道交法違反だ」などと言っている連中が、抗議の相手が中国になった途端、全てを賞賛する。

 ダブルスタンダード極まれりだ。

 二枚舌もほどほどにしろ。

 右か左かで考える時代はもうとっくに終わっている。国家の権力か個人の権利か、の時代なのだ。

 あの催涙弾の匂いを嗅げば、一瞬で気づくはずだ。

◆「極東の言論の自由を守ってきた」という誇り

 LEEJと駄目元で香港外国人記者クラブの門を叩き、過去の記事や資料などを提出し、どうにかこうにか会員入りを許可された。

 この会員証はプロテスターが入れない場所へ入れるメディアパスになっていて、以降、取材の幅が大きく広がることとなった。

 また、この3年間、高江、辺野古で「お前はメディアじゃない!」と沖縄県警東浜警視に名指しされながら散々、排除されてきた自分にとって「日本は私を認めなかったが、世界は私を認めた」というような肯定感になり、強く鼓舞された。

 日本の警察にかけられた「呪いの言葉」を香港外国人記者クラブが解いてくれたのだった。

 外国人記者クラブの中は、極東の言論の自由を守ってきたという伝統と誇りにあふれていた。壁にはベトナム戦争や天安門事件の写真が並んでいた。僕らが教科書で見てきた歴史的な写真たちも多くはここから配信されたものなのだった。

 世界的なメディアの部長クラスが仕立てのいいジャケットに身を包み優雅にブランチを愉しむなか、僕らだけは半ズボンだったため、ドレスコードに引っかかり、地下と2階のレストランには最後まで入ることができなかった(笑)。

 まあ、上等上等と、LEEJと笑いあった。

 ここのWIFIが圧倒的に盤石だったことで、悩んでいたネット回線問題が一気に解決したのだ。さっそく、SNSのタイムラインで情報収集する。

◆SNSで拡散していた香港警察の蛮行

 Twitterには、香港警察による暴力を可視化するツイートがいくつも流れていた。

 ドローンでデモの様子を撮影した映像もあった。

 昨日の香港警察による蛮行の数々が、市井の民の手によって次々に明らかになっていく。映像で可視化されて届く。

 黒い武警による市民への圧倒的なリンチ。

 催涙弾の水平射撃。顔面に至近距離からゴム弾を発射され、血を流す市民もいた。

 80名以上が負傷し、11人が逮捕された。

 病院で逮捕された市民もいた。

 150発の催涙弾が使用され、メディアも容赦なく撃たれた。

 自分も一歩間違えば、、、という戦慄に震えた。たまたま自分の居たブロックが大丈夫だっただけの話なのだ。

 そして香港当局が昨日の市民の行動を暴動と認定したこと、さらには警察側の正当防衛を主張したことを知った。香港警察は態度をより強固にすることが予想された。

 シェルターのような外国人記者クラブを出て、暗澹たる気分で再び立法会への回廊に戻る。

◆テクノロジーで抵抗を盛り立てる若者たち

 さっきより張り紙が爆発的に増えていた。

 そして人混みの中に入ると、僕のiphoneに次々にairdropでデモの予定が送られてきた。

 驚いた、何と先進的なことか、彼らは最新のテクノロジーを手足のように使い、この抵抗を盛り立てているのだ。

 バリケードを挟み警官隊と対峙する市民も昼間より4倍か5倍に増えていた。

 手には「stop shooting people」などの文字が掲げられていた。

 皆で、エンドレスで賛美歌を歌っていた。

 泣きながら歌う者もいた。

 マイナーコードが物悲しく響く、悲痛なメロディだった。

「今まで、警察はこんなことしなかったじゃないか?なぜ?」

 香港の中国化を憂うそんな切実な嘆きを僕はこの歌から感じとった。

 現場では、デモに参加した青年たちが、賛美歌を歌っていた。

◆思い出す、沖縄の英雄の言葉

 この日から抗議の内容は廃案に加え、香港警察の暴力への追求を併せたものに変化してゆく。

 SNSを駆け巡った昨日の香港警察の暴力が、香港市民の危機感によりいっそうの火をつけたのだ。

「弾圧は抵抗を呼び、抵抗は友を呼ぶ」

 という沖縄の不屈の英雄、瀬長亀次郎氏の言葉を想い起こさずにはいられなかった。50年余の時を経て、今、2019年の香港で彼の言葉は何より現実的だった。

 より強い抵抗を決意した香港市民たちと、強行姿勢を変えぬ香港警察。

 さらなる激化が予想される次の日曜のデモで、僕は何を見るのだろう?

 果たしてその勇気があるだろうか? これ以上、誰も傷つかず、血を流さずに彼らの自由を守る方法はないのだろうか、、、。

 追い詰められた彼ら彼女らの悲痛な表情とメロディが、ホテルで眼を閉じても、ずっと脳裏にこびりついて離れなかった。

 僕は最悪の事態に備え、自分の位置情報が常にわかるようにLEEJと、沖縄にいる数名の友人たちにシェアした。

 SNSの心もとない命綱を、僕はこの夜、香港から沖縄へつなげたのだった。

短期集中連載:大袈裟太郎的香港最前線ルポ2

<取材・写真・文/ラッパー 大袈裟太郎(Twitter ID:@oogesatarou)>

大袈裟太郎●ラッパー、人力車夫として都内で活動していたが、2016年の高江の安倍昭恵騒動から、沖縄に移住し取材を続ける。オスプレイ墜落現場からの13時間ツイキャス配信や籠池家潜入レポートで「規制線の中から発信する男」と呼ばれる。新しいメディアを使い最前線から「フェイクニュース」の時代にあらがう。

レポートは「大袈裟太郎JOURNAL」

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