歴史的会談で注目される一方で、人権軽視が加速するトランプ政権

歴史的会談で注目される一方で、人権軽視が加速するトランプ政権

ショッキングな写真を大きく報じたCNN

◆米国民以外の人権軽視が加速するアメリカ

 米メディアで衝撃的な写真が伝えられたのは、6月26日のことだった。

 米国とメキシコの国境にあるリオグランデ川のほとりで、父親と2歳の娘がうつ伏せのまま溺死している痛ましいシーンが、テレビや電子メディアで拡散された。幼い娘は今にも父の首に両腕を巻き付けようかという体勢をしており、最期の瞬間まで必死に父親に救いを求めていたことを想像させられた。

 この父はオスカー・アルバート・マルティネス・ラミレスというメキシコ人で、妻と娘を連れて正規の手続きにより亡命という形で米国に移ることを目指していた。だがメキシコ側国境の入国事務所で足止めされ、審査を待つ人々のための駐留所に何日も滞在しなければならなかった。駐留所は気温45度度近い猛暑の中で冷房もなく、食料もほとんどなく、やむを得ず手続きを待たずに国境を渡ってしまおうと向かっている途中で溺死したという。

 米テレビ局CNNの電子版はこの父娘を「米国境で起きている危機的状況の犠牲者」と伝え、さらに世界のメディアはそろって「この国境で起きた悲劇は、トランプ政権による移民政策の象徴である」と指摘した。保護主義を貫く米国の現政権は、米国民以外の人々をまるで人権も何もないかのように扱っているという批判が、そこに込められていた。

 それはメキシコからの移民に限った話ではなく、例えば今年5月31日から始まった米国ビザの申請における新ルールは、多くの米国渡航者を不安に駆り立てるものだった。トランプ政権は、米国へ入国するためのビザを申請する場合、ほとんどすべての申請者に対してSNSのアカウント情報を提出するよう義務付けたのだ。

 SNSはFacebook、Twitter、Instagram、Google+、Flickr、LinkedIn、Reddit、Tumbler、YouTubeなどの米国ベースのプラットフォームだけでなく中国のDoubanや Shina Weiboとった外国ベースのものも含め、ほぼすべてのアカウントが対象。Twitterのように匿名で作ってあるアカウントも、複数を保持していればそれもすべて、提出義務の対象だという。

◆SNS解析で政府機関が「アンチトランプ早見表」まで作成!?

 SNSのアカウント情報を提出させるのは、米国務省の公式発表によると「我々は、米国への正規渡航者をサポートするとともに、米国民の安全を守るための審査手段の向上を図るシステムの構築を常に模索している」というのが理由だが、米国はこれらのアカウントから本人とその家族らが反トランプか否か、デモの参加経験があるかといったことまで調べているとも伝えられており、プライバシーを著しく侵害すると懸念が出ている。

 WSWS(ワールド・ソーシャリスト・ウェブサイト)の6月24日付記事によると、米国の情報公開法(FOIA=政府情報を公開するよう請求すれば政府は公開義務がある)によって入手した政府文書の中に「米国務省は、SNSを詳細に分析する高度技術を駆使し、米政府策に対する抗議行動や批判的言動をしていないか調査している」「これらの調査は、米国と国民の安全の名のもとに、左派的活動家や組織をターゲットにしている」「個人または組織がひとたび米国務省から要注意と判断されれば、監視目的でビッグデータに保存され、米国司法省やCIAと情報共有が行われている」といったことが明らかになっている。さらに米移民税関捜査局(ICE)は「アンチトランプ早見表」なるものを作成し、反トランプとみなされる活動に関わった人物を抽出しているという。

◆国外からの米渡航者の言論萎縮が始まっている

 このため他国では、米国へ渡航する人向けにSNSで避けるべき投稿を特集するメディアも出てきている。インドのメディア「ザ・ハンス・インディア」の記事ではSNSを利用する注意点として「政治的発言は投稿しないこと」「暴力的行為には強く反対の意思を示すこと」「パーティーに参加している写真の投稿をしないこと」「米国に住むつもり、などと投稿しないこと」「怒りを表現したりわいせつな投稿はしないこと」「投稿を削除したり非公開にするのは怪しまれるのでしないこと」などを挙げている。

 これらを守らなければならないとしたら、発言と表現の自由を奪われることにもなりかねない。またビザ申請者のSNSを細かく調査するということは申請手続きにこれまで以上に時間がかかり、留学生が新学期スタートまでにビザを取得できないトラブルも続出するのではないかとの懸念も出ている。

◆web検索したら入国審査時の指紋情報まで出てきた

 日本人の場合は短期の渡米ならばビザ申請の必要はないが、渡航時の入国審査で個人情報の提出を求められる可能性もある。現在、トランプ政権になってから米入国審査時にスマホなどの端末機器の提示を求められるケースが激増しているという。

 米ネットメディア「Parallax」によると、最近大きな話題となった事例では、webブラウザ開発モジラの元トップ技術者でアップル社の社員である米国人アンドレアス・ギャル氏が、米国境警備局(CBP)の職員に携帯端末を提示するよう執拗に要求されたが断わったため、入国手続きをスピーディーに行えるグローバルエントリー・カードを没収されるということがあった。米国人でさえこうなのだから、外国人ならなおさら、どんな扱いを受けても不思議ではない。端末機器の没収や断れば入国拒否も、己の身に降りかからないとは限らないということだ。

 ちなみに米国へ渡航することが多い筆者はかつて、個人情報を検索する米国のウェブサイトで自身の情報を検索したところ、指紋情報が出てきて驚いたことがある。指紋押印は米国の入国審査でしかやったことがないのだが、なぜネットに流出しているのか。恐ろしい限りである。

(取材・文/水次祥子)

【水次祥子】

みずつぎしょうこ●ニューヨーク大学でジャーナリズムを学び、現在もニューヨークを拠点に取材執筆活動を行う。主な著書に『格下婚のススメ』(CCCメディアハウス)、『シンデレラは40歳。〜アラフォー世代の結婚の選択〜』(扶桑社文庫)、『野茂、イチローはメジャーで何を見たか』(アドレナライズ)など。(「水次祥子official site」)

Twitter ID:@mizutsugi

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