インドシナ半島で「幻のトラ」を発見! 絶滅を防ぐために、何ができるのか?

インドシナ半島で「幻のトラ」を発見! 絶滅を防ぐために、何ができるのか?

発見された「幻のトラ」 (WWFチャンネルより)

◆絶滅が危惧されるトラやヒョウ

 動物園でおなじみのトラやヒョウ。野生の大型ネコ科動物としてポピュラーな存在であるが、自然破壊や密猟により各国で絶滅が危惧されている。とりわけ東南アジアでは、近年、自動車のタイヤの原料となる天然ゴムの栽培などで、この周辺にわずかに残るトラやヒョウが脅かされている。

 これは、日本の人々にとっても他人ごとではない。公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)は、都内でイベント「メコンの森で野生動物を覗き見る」を開催し、同団体が現地の協力で撮影に成功した「幻のトラ」の映像や写真が公開された。また、東南アジアのトラやヒョウを護るための取り組みについて、報告が行われた。

◆ラスト200頭? インドシナ半島で発見された「幻のトラ」

 インドシナ半島メコン川流域に広がる森林は、かつてはトラやヒョウ、アジアゾウやテナガザルなどの野生動物の楽園であったが、この地域での人口増や経済発展に伴う開発により、多くの動物達が絶滅の危機に瀕している。

 中でもトラ亜種の一つ、インドシナトラは、カンボジア、ベトナム、ラオスでは、ほぼ壊滅、タイでも約200頭を残すのみ。貴重なインドシナ半島のトラを護るためには、トラ達が生息する森林自体を保全することが重要だ。

 そのためには、どこにトラが暮らしているのか、どの地域を優先的に保全していくのかの計画を策定するための情報が必要だ。WWFジャパンは、タイとミャンマーの国境沿いの森林地帯でWWFタイと協力して現地での調査活動を行っていて、ミャンマー側でも調査を進めている。そうして集積された情報をもとにタイ、ミャンマー両国政府に森林の保全を働きかけるためだ。

◆無人カメラで「幻のトラ」を調査

 トラの調査を行うために不可欠なのが、無人カメラ。トークイベント「メコンの森で野生動物を覗き見る」で、WWFジャパン森林グループの川江心一さんは「熱帯林では、下草や落ち葉が地表を覆っているため、足跡は頼りになりません。高温多湿で微生物の活動も活発なためフンの分解も早く、個体識別のためのDNA採取は難しいのです」と解説する。

「だから、トラが通りそうなところにセンサーで自動撮影するカメラを設置し、体の模様で個体識別するのです」(同)

◆東京都の2倍の広さに無人カメラを設置して回る

 調査の対象となる国立公園の大きさは東京都の2倍という広範囲なもの。

「道路もないような森の中でキャンプしながら、1~2週間かけて無人カメラを設置していきます。また、定期的にデータの回収やバッテリーの交換なども必要です」(同)

 こうした調査は、WWFジャパンへの寄付によって支えられていると川江さんは言う。

「5000円あれば、レンジャー1人が1日、森林の中での調査する日当や食料、装備費などをまかなうことができますし、2万円あれば、調査用の無人カメラを1台新たに買うことができます」(同)

 トークイベントでは、実際に無人カメラが撮影したインドシナトラの貴重な写真も公開された。

「トラは体の左右で模様が非対称なので、2台のカメラで体の両側を撮り、個体識別します。トラの模様を自動識別するソフトもあるのですが、最終的には人の目による確認が必要です」(川江さん)

◆自動車のタイヤに使われる天然ゴム農園が生態系破壊の原因に

 東南アジアで急速に森林が失われている主な原因のひとつとして、天然ゴムの生産のための農園拡大があげられる。天然ゴムは、ゴムの木の樹液からつくられるが、今、東南アジアの森林が次々にゴムの木の農園へと変えられているのだ。

「世界の天然ゴムの約7割が、東南アジアで生産されており、そうした天然ゴムの約7割が自動車のタイヤのために使われています。ですから、東南アジアでの森林の危機は、日本にも無関係ではないのです」(川江さん)

 ミャンマーやカンボジア、ラオスでは2000年代に入ってゴム農園が激増。このままのペースでいくと、2030年にはメコン地域のほとんどの森林が分断され、その生態系を維持することができなくなる見込みだ。

◆トラは森の豊かさの指標

「生態系の頂点に立つトラは、森の豊かさの指標になります。トラの生息域を明らかにすることで、現地の政府に森林の保全計画の策定を促すことができます。特にミャンマーでは、長年の政情不安もあってトラについての情報もほとんどない。天然ゴム農園の開発がすすめられていますが、だからこそWWFが調査を行う必要があるのです」(川江さん)

 WWFジャパン及びWWFミャンマーは、ミャンマー政府とも情報・意見交換し、開発せずに森を残すべき場所を明確にするなどの「土地利用計画づくり」を進めているとのことだ。

 また、WWFは世界のタイヤメーカーとも話し合いを重ね、2018年10月、持続可能な天然ゴムのための新たなグローバルプラットフォーム、GPSNR(Global Platform for Sustainable Natural Rubber)が立ち上げられた。

◆現地行政と協力して密猟防止、野生動物救出

 トークイベントでは、カンボジアで深刻化しているインドシナヒョウの密猟についても、WWFジャパンC&M(コミュニケーション&マーケティング)室の小坂恵さん、辻紀美代さんが報告した。

 カンボジア東部の自然保護区では、針金を動物の足や首に引っ掛ける「くくり罠」が大量に仕掛けられ、ヒョウや野生の牛バンテン、アジアゾウなどの絶滅危惧種も密猟の犠牲になっているという。

 そのため、WWFカンボジアは現地行政と協力し、2016年から2017年にかけて、5515個の密猟罠を撤去した。また、生きた状態で捕まっていた167頭の野生動物を救出したという。

 小坂さん、辻さんによれば、密猟が横行する背景には、現地での貧困に加え、そもそも密猟が悪いことだという現地住民の認識の欠如があるという。

 WWFカンボジアでは、現地有志を募って「コミュニティ・レンジャー」として自然保護官を養成。トレーニングを行なって、密猟や違法伐採のパトロールにあたることのできる人材を増やしている。また、コミュニティ・レンジャーが現地の人々に森や野生動物を守ることの必要性を伝える役割を果たすことも期待できるとのことだ。

◆日本の責任は重く、できる役割も大きい

 今、世界では恐竜大絶滅を上回る規模・速度での大絶滅が進行していて、約100万種もの生物が絶滅の危機に瀕している。その原因は、生息地の破壊や、密猟・密漁、農薬や化学物質による汚染など、人間の活動によるものだ。

 地球は人間だけのものではなく、生物多様性をいかに維持していくかは国際社会の重要課題となっている。日本も2010年に生物多様性条約第10回締約国会議のホスト国となり、同会議でまとめられた、2020年までに生物多様性の損失を食い止めるための緊急かつ効果的な行動目標は、開催地となった愛知県の名を冠して「愛知目標」と名づけられた。

 日本の責任は重く、また果たせる役割も大きい。主権者・消費者として日本の市民も、本稿で紹介したような野生動物の保全に、関心を持ち協力していくことが望ましいのだろう。

<取材・文:志葉玲 会場内撮影:藍沙 写真・動画提供:WWFジャパン>

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