タイを走る日本のSLに乗ってきた。今年はあと3回、8月12日にも運行

タイを走る日本のSLに乗ってきた。今年はあと3回、8月12日にも運行

タイは毎朝8時に国旗掲揚があり、SLは8時10分に出発する

◆タイの地を走る日本の蒸気機関車

 東南アジアのタイでは、毎年4回(2019年は6回になる予定)、日本の蒸気機関車(SL)がタイ国鉄の線路を走っている。国鉄の職員だけでなく、学生を中心にしたボランティアたちがSLを整備し、タイの重要な祝日に日本製のSLがバンコク中央駅(ホアランポーン駅)から出発している。

 タイは政情的には不安定な状況が続く中、日本人からは観光でもビジネスでも人気が高く、移住する日本人も増加し続けている。そんなタイと日本は2017年に修好130周年を迎えるなど、昔から関係の深い国である。

 タイの鉄道史を詳しく紹介している柿崎一郎著『王国の鉄路 タイ鉄道の歴史』によれば、戦時中に日本軍が持ち込んだ111両のSLの一部がタイのものになった。それから1948年と1950年にタイ米との物々交換で50両ずつのSLが発注され、これらが農村からバンコクまで米を運び、日本へと輸出されたという。

 そういったSLが今もタイで大切にされ、タイの祝日を祝っているのだ。

◆普段は緩慢過ぎる運行状況も撮影者には大歓迎!?

 タイに現存するSLは動かなくなったものは多数あるものの、動かせる状態になっている動態保存の車両は実はかなり少ない。4両5両程度の数しかなく、2019年のタイの祝日6回分を走る車両は、1949年製のパシフィック型と呼ばれるSLになる。

 主にバンコクから古都アユタヤに走ることが多く(年度などによって目的地が違う)、折り返し地点に転車台がないことから、2両が連結されて走っている。

 先月7月28日は現国王の誕生日だったので、記念列車としてバンコク・アユタヤを往復した。チケットは1500バーツ(約5200円)だった。食事などもついているとはいえ、通常の車両ではアユタヤまで片道で66バーツ(約230円)なので20倍以上もの金額になるが、最近は人気が上がってきており、座席もほぼ埋まっているような状態だった。

 駅にはもちろん乗客も集まるほか、カメラ愛好家、鉄道好きの子どもたちも集まる。タイのこういったイベントの魅力のひとつは、限りなくゼロにまで展示物に近づけることである。筆者もダメ元のつもりで運転席にいた職員に下から「中に入っていい?」と訊くと、驚くほどあっさりと運転台に入れてもらうことができた。

 ただ、出発前は線路内にも入り放題ではあったが、近年はタイも安全に対する認識や規制が厳しくなってきており、出発時には線路内に入ると怒られてしまう。数年前までは駅から数百メートルも線路を歩いて撮影ポイントを探すこともできたのだが。

 バンコクはいまだに踏切に車が進入した状態で渋滞が発生し、列車が車を待つという日本では考えられないことも起こる。そのため、バンコク市内はかなりゆっくり走るので、バンコクの駅で出発を見届け、そのあと車でバンコクの北側にあるドンムアン国際空港近辺まで行けば、直線距離で23キロも離れていても同じSLが全力疾走する姿も眺めることが可能だ。この遅さが、タイ国鉄の衰退の理由のひとつでもあるわけだが、こういった日は撮影者にとってはメリットに早変わりである。

◆功徳を積むためSLを磨く

 この7月28日のSLの前で、筆者は鉄道マニアでもある日本人の方にお目にかかった。タイの日系企業で駐在員として働くのだが、休日は列車だけでなく、駅舎などの見学も趣味にする人物だった。

 この方は、趣味が高じて、というのもあり、学生などを中心にしたSLの保存を手伝うボランティア・グループにも所属している。さすがに整備まではさせてもらえないが、タイ国鉄職員がSLを整備しやすいよう、ボランティアたちはSLを磨いたりなどしてバックアップしているのだ。

 タイは国民の94%が仏教徒とされる。そのため、徳を積み、よりよい来世を得るという行動がごく普通に行われる。最もポピュラーな行動はボランティアだ。寺院に参拝してお布施をするだけでなく、社会貢献度の高い活動を行う。貧困層の支援などはよくあるが、警察や消防などにもボランティアがいて、日々タイ人は徳を積もうと努力している。まさかSLの保存にまでそんなグループがあるとは知りもしなかったが、その日本人の話を聞くと、確かにそういった活動が生まれるのも理解ができた。

「この中央駅から出発するSLはまさにタイ米との物々交換でタイに来た車両です。戦後の機関車とはいえもう古いですから、この先いつまで走っていけるか不安要素は少なくありません」

 すでに70年前の車両であるため、設計図があるかどうか、仮にあったとしても、部品を造ることができる技術者が日本にすらいない可能性が高い。実際にこの車両も石炭ではなく重油で走るように改造され、また小さなパーツは見よう見まねで国鉄の整備士らが製作したものを使っている。安全性に関係なければいいが、重要部品はそうもいかない。前出の日本人は続ける。

「最終的には新たに日本に残るSLを譲ってもらうといった手段しかないかもしれません。でも、日本国内でも数少なくて取り合いになっているわけですから、タイがそこに入っていけるかどうか」

 タイ人は手先が器用だし、日本人と同じように物を大切にする文化がある。このSLもそのようにして守られてきたが、さすがにこの先は不安が残る。タイで日本の蒸気機関車が走る姿を拝めるのは、場合によっては長くないのかもしれない。

◆2019年に走るのはあと3回! 8月12日にも

 とりあえず2019年はあと3回走る見込みだ。母の日に当たる8月12日(シリキット太后誕生日)、10月23日(チュラロンコーン大王記念日)、父の日の12月5日(ラマ9世王誕生日)が予定となる。興味のある方は「State Railway of Thailand」で検索するとタイ国鉄のホームページが見つかるはずだ。年度によって違うが、大体2ヶ月前に旅程が確定して、チケット販売が開始される。人気が高いチケットなので、早めに手配することをおすすめしたい。

<取材・文・撮影/高田胤臣>

【高田胤臣】

(Twitter ID:@NatureNENEAM)

たかだたねおみ●タイ在住のライター。近著『バンコクアソビ』(イースト・プレス)

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