昔ながらのタイの「カフェ」。それは歌謡ショーありのレストランだった!

昔ながらのタイの「カフェ」。それは歌謡ショーありのレストランだった!

時間帯は22時以降がおすすめで、それより早いと歌手がいない

◆タイで「カフェー」といえば……

 東南アジアの国々は多くがヨーロッパの列強による支配を受けてきた歴史がある。ベトナム、カンボジア、ラオスはフランス統治時代はインドシナと呼ばれ、地元住民には虐げられてきた歴史だったかもしれないが、今はその名残から、ベトナムならバインミーと呼ばれるサンドイッチやコーヒーなどがおいしく食べられる。フランスそのままのものではなく、ベトナムナイズされた味わいで、観光客にも人気だ。

 一方、日本人から人気の観光国タイは植民地の経験のない国だ。そのためか、コーヒーはこの20年くらいで徐々に浸透し始めただけだし、パンもおいしい店はほとんどなかった。今でこそパン食も増えてきているタイだが、これは2000年以降に進出してきた日系のパン販売店、あるいは日本人職人の活躍が大きく貢献していると見る。

 そんなタイでも昔からコーヒー豆の生産は少なくなかった。タイ南部で栽培され、多くがインスタントコーヒーの原材料にされる。近年は、タイ北部の少数山岳民族が所有していた大麻やケシの畑の代替作物としてコーヒーが植えられ、バンコクにもタイ産豆を使ったカフェが増えている。

 ネットで検索すると、「インスタ映え」するとか「オシャレ」などという様々なスタイルのカフェが見られるが、タイ語で「カフェ」(正確にはカーフェー)と言うと、かつては、あるいは一部の人々にとってはまったく違ったスタイルの飲食店を指していた。タイ通の日本人にはあたかも「風俗店」のように認識している人もいるが、これがタイならではの飲食店として、かなり楽しめる店なのだ。

 元来のスタイルを貫いている店はバンコクだともう残り少ないと言われるカフェに行ってみた。

◆歌謡ショー&レストランなタイの昔ながらの「カフェ」

 タイのカフェの歴史は諸説あるようで、東北地方が発祥という人もいれば、タイ全土に最初からあったという人もいる。

 昔ながらのカフェのスタイルはステージのある飲食店で、歌謡ショーを観ながら食事をするというものだ。ステージ上の歌手たちは現金で作った花輪をチップ代わりに受け取り生計を立てている。客から花輪をもらうと、お礼の挨拶としてその客の席に歌手がやってくる。歌手は女性が多く、挨拶という建前がありつつ、同席して会話や食事を楽しむことから、傍目には日本でいうキャバクラのような印象を受け、風俗店のように思われる所以でもある。

 しかし、歌手には男性もいるし、バンコクの外国人向けの売春バーやカラオケクラブと違い、店側は歌手や従業員の連れ出しを認めていない。閉店後にどういった関係になるかは客と歌手次第で、歌手たちもまた自身はあくまでも歌手であり、「そういう」前提では働いていない。

 今回訪れた、バンコク都内のウドムスック通りにある「ザ・サン・カーフェー」も同じで、売春行為などをしていないからこそ、店内で写真を撮っても誰にも咎められることはない。売春バーならカメラを女性に向けようとした段階で男性店員らに暴行を受けることだってあるほどなので、カフェは風俗店ではないのだ。

◆地元民の娯楽を満喫できるカフェ

 この「ザ・サン・カーフェー」を始め、カフェがおすすめの理由はふたつある。

 まず、女性がきれいなので、歌は正直うまくないにしても、観ていられる。そして、なによりも接客の態度が素晴らしい。外国人向けのバーなどは従業員が外国人を小バカにした態度で接してくるケースが散見される。タイ語がわからないことをいいことに、従業員らは堂々と客の悪口を目の前で言うなど、ひどい接客なのだ。日本人経営店や日本人従業員が常駐して徹底的に接客態度を管理・教育している店ならいいのだが、特に欧米スタイルのバーはひどい。売り上げを上げるためには仕方がないことだが、しつこく女性へのドリンク購入を勧めることも少なくない。断れば、店員が怒り出す始末だ。しかし、「ザ・サン・カーフェー」なら歌手を呼ばずにただ飲食するだけでも嫌な顔をされることもない。

 この店に限らず、カフェやローカル向けの飲食店などはタイ人が顧客の中心になる。そのため、言葉遣いや態度などに、タイ人らしい優しさが随所に見られるようになる。カフェは風俗店ではないので女性客も歓迎なのだが、現実的に女性歌手が多く、席で接客することから、男性客ばかり。そして、よくも悪くもタイ人男性は酒の飲み方が上手ではない人も多く、かつ素性が見た目で判断できない、タイは銃社会でもあるということから、従業員も客に気を遣うことになる。言葉ひとつ間違えれば、極端には殺される可能性だってあるからだ。

 そうして、接客態度が丁寧になり、非常に居心地がいいと感じるのだ。

 カフェの魅力のふたつめは料金だ。カフェでかかる費用は飲食費と、もし歌手に花輪をかける場合は別途かかるだけ。「ザ・サン・カーフェー」では100バーツ(約350円)からになる。歌手が隣に来て、一緒に飲食をしたとしても、彼らが食べるもの・飲むものはすべて客が注文しているものになる。つまり、追加料金が発生しない。

「ザ・サン・カーフェー」の料金例で話すと、我々日本人でも問題なく飲めるウィスキーが「100パイパー」というブレンドウィスキーで、750mlのボトルで約500バーツ(約1750円)。これ以下のグレードだと二日酔いがひどいなど、粗悪なウィスキーになる。ビールもあるが、タイでは税制上割高になるので、ウィスキーの方がいいのだ。

 食事は100バーツ前後からあり、氷やウィスキーの割りもの(ソーダや水など)も30バーツ(約100円)程度となる。安い上においしいというメリットもある。

 4人5人で行き、料理を2、3品程度注文し、女性数人に花輪をかけてもせいぜい1000バーツ(約3500円)しかかからない。ひとり頭ではなく、全員で、だ。しかも、ボトルキープもできるので、次はもっと安くなる。筆者はボトルキープしておき、2回目に行ったときは料理を注文しなかったので、3人の飲食合計金額が200バーツ(約700円)程度で済んでしまった。

◆今や希少スポットになっているタイの「カフェ」

 接客態度もよくて居心地がいい上にこの料金設定はかなりいい。ただ、タイ語ができないと、立地がバンコク郊外ばかりになるので、行きづらいというデメリットはあるが。

 日本でも元々のカフェは女給が積極的に接客する喫茶店だったということから、タイのカフェがまさにそういったものになる。日本にはもうない、昔の日本の遊びを体験できるという意味でも、バンコクのカフェは興味深い場所だ。

 バンコクだと「タワンデーン」という店などがカフェの発展系として有名である。こちらはどちらかというとディスコのようなジャンルで、大音量のステージショーを観ながら食事をしたり、深い時間帯になると席周辺で踊るというスタイルになる。歌手が席で接客をすることはほとんどなく、女性客も少なくない。タイ式のディスコはこういった店をさらに都会の若者向けに発展させたものになる。

 そう考えると、カフェはタイの夜遊びの原点であり、昔ながらのスタイルを貫く「ザ・サン・カーフェー」の店員が言うには「このタイプのカフェはバンコクにはもう10軒もないはず」ということで、今のうちに足を運んでおきたい飲食店でもある。

【高田胤臣】

(Twitter ID:@NatureNENEAM)

たかだたねおみ●タイ在住のライター。近著『バンコクアソビ』(イースト・プレス)

関連記事(外部サイト)