イギリスは「難民に厳しい」は本当か? 難民支援の「チャリティ」で働いてみた

イギリスは「難民に厳しい」は本当か? 難民支援の「チャリティ」で働いてみた

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◆イギリス社会に根づいた「チャリティ」。団体数は約16万8000

 イギリスの街中を歩くと、「チャリティショップ」と呼ばれる、赤十字やセーブ・ザ・チルドレン等の非営利団体が運営するセカンドハンドの店が、至る所にあることに気づく。

 会社のイベントでは、非営利団体とタイアップした“チャリティイベント”が数多く開催され、社員が寄付金を集めたりボランティアしたりすることが推奨されている。

 人権・環境などの社会問題の解決を目指す非営利団体は「チャリティ」と呼ばれ、古い団体は19世紀から続いている。「チャリティ」は社会の中に根づき、イギリス文化の一つと言えよう。

「チャリティ」は分野も規模もさまざまだ。年間収入が500億円を越すCancer Research(がん研究/啓発活動)やOxfam(貧困撲滅)といった大手から小規模団体まで約16万8000団体がイギリス内にあるが、その中に国内の難民問題に特化するチャリティも存在する。

 イギリスは、昨年は約3万2000件の難民申請数を記録し、難民認定数は約1万人と、難民受け入れも申請数も、ドイツなどに比べるとヨーロッパ内では決して多いほうではない。

 しかし、ブレグジットも国民の反移民・難民感情が扇動された結果とも言われており、国内の難民問題は「ホット」な問題である。実際に、難民を支援するチャリティで働いてみて、イギリスのチャリティと難民事情について覗いてみた。

◆ボランティアといっても誰でもすぐ働けるわけではない

 そもそも、どうやったらチャリティで働けるのか。イギリスには「charityjob.com」というオンラインプラットフォームがあり、多くのチャリティがそこに求人広告を出す。ボランティアのポジションであっても、履歴書とカバーレターと呼ばれる志望動機書の提出は必須だ。

 イギリス内で「チャリティ」の地位は確立されているため、ボランティアといった無給のポジションでも、誰でもすぐに通るわけでなく、競争である。書類選考が通ったら、次はインタビューだが、そこで落とされることも多い。

 履歴書に書けるようなボランティアの経験を多く積みながら有給のポジションを狙うのが、イギリスで「チャリティワーカー」になる道である。

 筆者は「Room to Heal」というロンドン・イズリントン地区の、「トラウマを抱えた難民/難民申請者」をサポートする小さな団体に履歴書とカバーレターを提出した後、代表とインタビューをして無事にボランティアに採用された。

◆活動するには「犯罪者ではない証明」が必要

 採用後に言われたのが、「犯罪経歴証明書」をとってほしい、ということであった。つまり、「難民のメンバーを守るために、あなたが犯罪者ではない証明をしてほしい」ということである。

 イギリスでは、特に子供や老人といった「弱い」存在を守るために、そのような人々と関わる人が証明書を取得するというのは割と普通であるそうだ。日本で筆者がいくつかの団体でボランティアをした際、取得をするよう言われたことは今まで一度もなかった。

 そして、犯罪経歴証明書を取得するまでは、難民と2人きりになることは許されない。証明書の取得を待たず、まずは団体の概要や、仕事内容、難民のメンバーと連絡先を交換することの禁止などのさまざまなルールを含めたトレーニングセッションを受ける。

 そして秘密保持などの約束が書かれたいくつかの誓約書にサインをした後、ようやくボランティア開始である。小さい組織ながらきちんとしているという印象だが、これはイギリスのチャリティでは普通だという。

◆難民支援に「メンタルサポート」が含まれている

 Room to Healは、中東・アフリカを中心とした世界30か国から毎年80人ほどの「トラウマを抱えた難民申請者」を受け入れている。彼らは、政治思想や人種的理由、そしてレズビアンやゲイなど、セクシャルマイノリティであることなどにより迫害され、レイプや拷問等の「集団的暴力」を受けたためイギリスへと逃れた人々である。

 Room to Healでは、難民申請や生活保護の申請などの実務的なサポートと同時に、トラウマを癒すための精神的サポートを行っている。

 団体がサポートしている「トラウマを抱えた難民」という、「難民」と「トラウマ」がセットになった言葉は、少し聞きなれない。しかし、「難民申請者たちがトラウマを抱えている可能性が高いことは、この国ではよく知られている」と代表のエリーは言う。

 確かに、レイプや拷問等の酷い暴力の結果、フラッシュバックやPTSDを抱えている難民が多いことは想像に難くない。

◆イギリスでも珍しいRoom to Healの家族的サポート

「難民支援の大きなチャリティも実務的なサポートだけでなく、臨床心理士によるセラピーも提供しています。NHS(国が提供する無料の医療)でもセラピーは受けられるけれども、なかなか順番が回ってこないし、NHSの医者からうちの団体に紹介がくることもあります」(エリー)

 Room to Healには臨床心理士が4人在籍し、週に1度グループでのセラピーを実施する。その他ガーデニングをしたり、料理を作り皆で食べたり、時には小旅行に出かけたりといった活動を通し、彼らの生きる喜びや希望を取り戻すような取り組みをしている。

「ここに来るまでは、生きる屍のようだった。Room to Healが人生を取り戻させてくれた。ここは自分にとって第二の家族だ」と多くのメンバーが語る。

 難民支援チャリティのうち、臨床心理士によるセラピーを提供する団体は大手含めて他にも存在するが、Room to Healのように小さなコミュニティを形成し、家族のように難民申請者を支えているようなケースは稀だ。

 その特異性から国連が資金援助し、アフリカの地で同じように「トラウマを抱えた難民」を支援する団体に、このコミュニティモデルを輸出しようとしているところだ。

 メンタルサポートまで含めた難民支援は、ロンドンが圧倒的に充実している一方、地方はまだサービスが行き届いていないとエリーは話す。そして、仮にロンドンにサポートがあっても、困っている難民申請者が必要な支援に辿りつけているわけでもないという。

 しかし、翻って日本の難民支援においては、大手の難民支援組織においても、生活支援や法的支援はあっても、彼らのメンタルサポートまで実施している団体はほとんどないのが現状である。

◆就労支援、スキルアップ講座などのチャリティも充実

 前首相のテレーザ・メイは、内務大臣だった2012年に移民難民に対し「hostile environment(敵対的環境)」と呼ばれる、移民難民が簡単に定住できないような厳しい政策を打ち出し、現在までそれは続いている。

 難民申請も非常に複雑で時間がかかり、結果が出るまで数年、人によっては10年以上待っている人もいる。しかし難民申請者は、イギリスでは就労がほとんど認められていない。

「彼らに就労の権利を与えるべきだ」という運動が大手チャリティを中心として展開されており、俳優のジュード・ロウを含む著名人39人もその運動の一環として、今年5月政府に陳情書を書いている。

 それは“チャリティマインド”の強いイギリスらしいできごとだったが、まだ政府の方針が変わるには至っていない。その代わり、難民申請者のスキルアップのための講座はイギリスには多く用意されている。

 Room to Healの難民申請中のメンバーたちが今まで通ってきたコースは、英語、裁縫、Webデザイン、PCスキルアップ、ベイカリー、フラワーアレンジメント、マッサージ、ヘアスタイリスト講座などさまざまである。

 難民申請者が無料で受けられる講座を提供しているチャリティがイギリスには数多くあるのである。日本でも難民申請者の就労支援の一環で、日本語教室やプログラミング講座を実施している団体はあるが、選択肢の充実ぶりは圧倒的にイギリスが優っていると言えるだろう。

◆住居のない難民申請者をサポートする住宅専門のチャリティ

 他にも、住宅専門のチャリティの存在は日本にないものとして際立つ。イギリスでは「アサイラムサポート」と言われる、難民申請者に対し申請の結果が出るまで住居と生活費が保障される仕組みがあり、多くの難民申請者が利用している。

 しかし中には何らかの理由で、アサイラムサポートが使えなかったり、国から提供された住居に住めなかったりする場合がある。そういう時は、住宅専門のチャリティに連絡し、難民申請者を住まわせてくれるホストファミリーを紹介してもらう。

 ホストファミリーとRoom to Healのケースワーカー、難民申請者が面談し、双方が合意すれば決まりだ。先日も、テムズ川沿いの素敵な一軒家に住むイギリス人女性の家に、難民申請中のメンバーが住むことが決まったばかりだ。難民を一般市民が自宅に受け入れる、というのは日本では考えにくいだろう。

◆「イギリスの政策は難民に厳しい」といっても、日本よりは優しい!?

 難民認定率(難民認定数を同年の難民申請処理件数で割ったもの)は、イギリスは約30%。対して日本は毎年1%を切る。チャリティセクターのサポートも日本に比べて充実しているが、エリーはこう指摘する。

「イギリスの移民難民収容所は、ヨーロッパで唯一、無期限で難民申請者たちを収容できる場所。“期限なし”かつ“いつ収容されるかわからない”というのが、彼らの精神不安の増大につながっています。hostile environment(敵対的環境)の呼び名の通り、難民申請のプロセスも非常に複雑で長時間かかり、難民たちにとって今のイギリスの政策は非常に厳しい」

 そして「新内務大臣のプリティ・パテルは、両親も移民でありながらも彼女自身は反移民の極右だから、彼女がいる限り状況がよくなる兆しはない」と話す。

 イギリスの難民をめぐる政策については、難民/難民申請者にとって理想的ではないだろう。しかし難民支援チャリティの現場からは、「チャリティセクター」そのものが日本と比べて充実しており、難民を支援する素地がそれなりに整っていることが見えてくる、と言えるのではないだろうか。

<文・写真/谷口真梨子>

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