ガソリン・軽油の補助金廃止に市民が大激怒。激化するエクアドルの反政府デモ

ガソリン・軽油の補助金廃止に市民が大激怒。激化するエクアドルの反政府デモ

「殺人警察」というプラカードを掲げるデモ隊(Photographer: David Diaz Arcos/Bloomberg via Getty Images)

◆エクアドルで反政府デモが激化

 日本では殆ど話題にならない国、南米のエクアドルで政府と市民との抗争がこの1週間余り続いている。

 人口1700万人、国土面積28万平方キロメートル、首都のキトは海抜2800メートルの高地にある特異な国。現在全国レベルでデモ隊と治安部隊との衝突が激化して一部道路は閉鎖、学校は休校、商店は閉店、交通機関も止まり麻痺状態が続いている。3日にはレニン・モレノ大統領によって非常事態も宣言された。

 抗議デモを最初に編成したのは先住民の保護組織「エクアドル先住民連盟(CONAIE)」とタクシーや運送業者の組合だった。そのあと学校の教師や学生なども加わった。

 このような抗議デモが全国レベルで起きた理由というのはレニン・モレノ大統領が特別法を10月3日に発動してガソリンと軽油の補助金制度の廃止、公務員の20%の削減や休暇日数の半減などを発表したからであった。なぜ、それを決めたのか。IMFから42億ドル(4960億円)の融資を受けるためであった。その交換条件としてIMFからの緊縮策をモレノ大統領が受け入れたからである。

◆貧困層とタクシー運転手を圧迫する決定

 補助金制度はこの40年間存続していた制度で、それが政府の無駄使いであると歴代の大統領は理解していたが、誰もその制度の廃止に踏み切る勇気を持っていなかった。そのお陰で、エクアドルの燃料価格はラテンアメリカにおいてベネズエラとボリビアに次いで最も安価だとされていた。しかし、そのために政府は毎年550億ドル(6兆4900億円)の歳出を余儀なくさせられていたのである。政府の年間予算が400億ドル(4兆7200億円)という国が、それ以上のお金を補助金に充てていたのである。しかも、この補助金が必要でない富裕者もその恩恵を受け、それを利用して燃料の密売で二重の利益を上げていたということも長年発覚していた。(参照:「Al Navio」)

 この制度の廃止でガソリンと軽油の価格は1ガロン(3.8リットル)につき前者は1.85ドルから2.39ドルへ後者は1.03ドルから2.29ドルという値上げになったのである。先住民ら貧困者にとってこの値上げは彼らの生活に重大な影響を及ぼす。またタクシーや運送業者の間でもコストアップに繋がる。また、この燃料の値上げによってそれを燃料としている生産業者にとっても生産コストの上昇を招く。(参照:「RT」)

 ということで、先住民連盟がこの政府の決定に抗議を始めたのであった。エクアドルの人口の7%は先住民で構成されている。彼らの人権を守るために1980年代に生まれたのがこの組織である。この連盟の影響力は絶大で、彼らの政府への抗議が発端となって1990年代に二人の大統領の解任を導いたほどであった。

 先住民に続いて燃費が利益に直接影響するタクシー業者や運送業者もそれに追随した。

◆モレノ大統領が抱えていた2つの「爆弾」

 なぜモレノ大統領が敢えてこの補助金制度の廃止を決めたのか。国家財政が危機的状態にあったからである。

 彼は2017年に大統領に就任してこれまでこの制度の廃止の時期を待っていた。できればそれを実行しないで済むように望んでいた。それを実行に移せば国民から強い反発を食らうのは必至だと理解していた。

 しかし、もうこれ以上それに耐えることは困難だと判断したようである。その要因をつくったのが彼の前任者であるラファエル・コレア前大統領である。コレアは2007年から2017年まで政権を維持したが、彼の政治は汚職、権力の乱用、ポピュリズムに満ちたものであった。彼が大統領に就任した時点の負債は100億ドル(1兆1800億円)であったのが政権を明け渡す2017年には430億ドル(5兆700億円)にまで膨らんでいたのである。しかも、コレアはGDPの40%以上の負債はできないという国の規定を破って粉飾決済をしてそのリミットを越えた負債を抱えたのであった。2015年からエクアドルの経済成長は停滞し消費は後退し金融面においても問題を抱えるようになっていた。(参照:「Al Navio」)

 特に、コレアが景気の回復で困難を伴ったのはエクアドルが2000年から通貨にドルを採用したということからである。インフレ上昇を避けるという目的でドルが採用されたが、ドルを発券する機能を備えていないエクアドルでは平価の切り下げができないということが経済の回復をより困難にさせた。しかも、コレアはドルを廃止して旧通貨スクレに戻すだけの勇断は下せなかった。

 ということでこの巨額の負債という爆弾を背負わされたのがレニン・モレノ大統領なのである。爆弾であるからいずれ爆発する。

 またモレノはもう一つ問題を抱えていた。コレアはベネズエラのチャベス前大統領の反米主義に呼応して常に反米政治を実行していた。「ウィキリークス」創設者アサンジ氏のロンドンのエクアドル大使館への亡命を受け入れたのもこのネットが反米意識を全面に出して活動していたことから、その創設者を匿うことに同意したのであった。

 IMFからの融資を得るには米国を味方につける必要があると認識していたモレノは2018年に両国の関係回復を図った。それが足場になってIMFへの融資を要請したのである。

◆キューバが背後にいる!?という噂も

 コレアは現在ベルギーに亡命している。エクアドルの法廷から彼に逮捕状が出ているからである。コレアは現在エクアドルで起きている政情不安をモレノ大統領のせいだとしている。そして本来は2021年に予定されている大統領選挙を前倒しして大統領選挙の実施を主張している。しかし、コレアが自らそれに立候補するとは思えない。帰国すれば逮捕されるからである。

 モレノ大統領はデモ隊との交渉を望んでいるが、デモ隊が60の組織に分かれているということで全ての組織を満足させるのは難しいとしている。(参照:「Infobae」)

 この紛争がもたらす損害は一日につき7億2000万ドル(850億円)と推定されている。紛争が長引けばさらに国家財政を苦しめることになる。(参照:「El Comercio」)

 一方、この暴動を背後から糸を引いているのはキューバだという噂もある。ベネズエラやニカラグアと同様に周辺国を混乱させてキューバの現政治体制を維持するためだとされている。(参照:「Al Navio」)

 スペインにはおよそ50万人のエクアドル人移民がいる。その多くはスペインの建築ブームを利用してスペインに移住した人たちだ。その後、建築ブームが終わって不況になり、ラファエル・コレア政権は景気の良さを利用して彼らに帰国を勧めた。それでエクアドルに帰国した人たちも多くいるという。しかし、今その多くが景気の後退と治安の不安で帰国したのを後悔しているとマドリードのエクアドル移民連盟のヴラディミル・パスケル会長がABCの取材に答えた。(参照:「ABC」)

【白石和幸】

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

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