進む「トランプのイスラエル離れ」。中東の緊張感をいたずらに高める結果に

進む「トランプのイスラエル離れ」。中東の緊張感をいたずらに高める結果に

トランプ大統領とネタニヤフ首相。 (photo via The White House Photo by Leslie N. Emory /Public Domain)

◆イスラエルへの敵対意識を燃やすイラン

 イラン革命防衛隊(IRGC)の副司令官ホセイン・サラミ将軍は今年1月に「もしイスラエルが戦争を始めようとして何かをしでかそうとすれば、その戦争は自国の消滅を導くものになるであろう。また占拠していた領土は返還される。(そのような状況になれば)自分たちの死体を埋葬するための墓でさえもパレスチナに持つことはできなくなるであろう」と述べてイスラエルへの敵対意識を強調した。

 また、ある記者がシリアにおける前線の抵抗勢力をイスラエルが攻撃しようとしている脅威について尋ねると、同氏は「イスラエルは全中東地域において軍事的挑発を行って自らの破滅に近づいている」と指摘した。一方のイスラエルはその攻撃はシリアでテロリズムと戦うための軍事的指導をしているイランの同国での影響力を抑制するものだとしている。(参照:「HispanTV」)

 9月になると、今度はサウジの石油施設が攻撃を受けるという事件が起きた。サウジ国防相のアル・マルキ報道官は「攻撃はイエメンから来たものではない。北から発射されたもので、イランが背後にいることは疑いの余地がない」と断言した。デルタ翼の無人機と弾道ミサイルYa Aliによる攻撃で、その規模からしてイエメンのフーシ派ではそれだけの能力はないとして、イラン革命防衛隊から発射されたものであると断定した。(参照:「El Pais」)

 この事例が示す意味はイランは必要とあらばイスラエルにも同様に攻撃を仕掛けることができるということである。

◆濃縮ウラン生産能力も向上。高まる核開発への危機感

 更に、11月にはイランは2か月前から濃縮ウランを日毎5キロ生産する能力を備えていることを明らかにした。即ち、それは2015年から比較して10倍に生産能力が増えたことを意味する。また、2015年の核合意で決められた濃縮度3.67%を超えて3.76%にあることも明らかにした。イランがこのように核への積極的な取り組みを表明している背後には制裁下にある原油の販売についてヨーロッパから打開策の提案を待っているのであるが、今のところヨーロッパからの具体案の提示はない。(参照:「Infobae」)

 このように核開発は止むことがなく、しかもいつでもミサイル攻撃をする用意のあるイランを前に、イスラエルのネタニャフ首相は将来への不安を非常に強めているという。そのような不安に駆られる中、ネタニャフ首相は10月31日、数人の閣僚を前に「トランプ政権が少なくともこの1年間イランに対して有効な手段を採用することは期待できない」と語ったという。同様に、米国政府から中東地域におけるイランに対してより大胆な対抗処置がないことにも不満を表明したそうだ。

◆揺らぐネタニヤフのアメリカへの「期待」

 ネタニャフ首相は数週間前にも一部閣僚を前に「トランプは少なくとも2020年11月の大統領選挙までイランを前に如何なる行動も起こさないだろう」と述べたという。イスラエルはイランを前に単独で行動を取らねばならないということである。

 イスラエルはトランプ政権への期待が次第に薄らいでいるという。特に具体的にそれ認識するようになったのは、トランプがシリアにおける米軍の同盟であったクルド部隊を見放してトルコ軍の前に置いてきぼりにした時からであるという。(参照:「HispanTV」)

 イスラエルはシリア南部の米軍基地アル・タンフは戦略的及び地政学的に重要で是非ととも留まるように米国に要望したが結局それは受け入れられなかった。米国政府はイスラエルには損害を与えるようなことはしないと約束していた。そうであればこそ、なお一層アル・タンフに留まるべきであった。

 この米軍の撤退によって、最大の恩恵を受けることになったのはイランである。それは同時にイスラエルに協力して来た民兵部隊を危険にさらすことになった。それに加えてトルコがシリアに進攻開始したことによって同様にロシアとシリア政府軍も恩恵を受けることになった。

 サウジが石油施設の攻撃を受けた時、それがイランからのものであるということが明確であったにもかかわらずトランプ大統領からは如何なる回答もなかった。

 イスラエルのヘブライ語紙イェディオト・アハロノト(Yedhioth Ahronoth)にてジャーナリストのシモン・シーファーは「ホワイトハウスの主でこれまでイスラエルに最も親切な大統領に全ての決定を委ねて来たネタニャフ首相の治安ドクトリンは完全に麻痺してしまった」と報じた。

◆トランプの「移り気」が中東にくすぶる火種に

 この3年間トランプ政権と波長が合って前進して来たが、ここに来て中東における新たな紛争に巻き込まれるのを恐れて米軍事力の使用を極度に控えようとしている気まぐれ大統領の前にイスラエルは直面せねばならなくなっている。(参照:「BBC」)

 その一方でトランプ大統領は、イランに制裁を重ねて来たことによってイラン市民の生活はより苦しいものになり、これまで以上に米国への反感意識を強めている。それが穏健派のロウハニ政権の瓦解を導いて強硬派が新ためて政権に就くようになると、イスラエルとの衝突の可能性はより高くなる。

 イスラエルをこれまで極度に優遇し、その一方で核合意から撤退してイランに制裁を科して厳しい経済事情下に追い込んでいるトランプ外交はイランのイスラエルへの敵対心がより強まって中東をより一層危険な状況に追い込んで行く可能性がある。

<文/白石和幸>

【白石和幸】

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

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