刑務所内から司令を出し、独房にはジェットバスまで完備!? 知られざるブラジルの麻薬カルテル

刑務所内から司令を出し、独房にはジェットバスまで完備!? 知られざるブラジルの麻薬カルテル

麻薬カルテル「CV」のタギングが施された街角 (Photo by Peter Bauza/picture alliance via Getty Images)

◆知られざるブラジルの麻薬カルテルの世界

「犯罪が横行する国」というイメージを払拭することを期待されて、ブラジルでは元軍人で強硬派のボルソナロが大統領に選出された。

 しかし、今年1月の時点でブラジルの刑務所に収監されている囚人の数は700,489人に及ぶという。その34%はまだ判決が下されていない。一方、2017年に殺害された人の数は64,000人だという。(参照:「Infobae」)

 ラテン・アメリカ圏の麻薬カルテルというとメキシコやコロンビアが有名だが、ブラジルにも麻薬カルテルが主要なものだけで3つある。Primer Comando de la Capital(PCC)、Comando Vermelho(CV)とFamilia do Norte(FDN)である。

 しかし、他のどの国よりも奇妙なのは、これらのカルテルが、刑務所内で誕生したという理由からである。

 刑務所にリーダーがいて、全ての犯罪の指示が彼らによって外部に刑務所から発信されている。

 例えば、刑務所からバスを放火せよという指示を受けたそのメンバーや仲間がそれを実行すると1000レアル(27000円)、銀行や商店の放火の場合は5000レアル(135000円)がそれぞれ報酬として支給されるようになっている。ブラジルでファベラと呼ばれている貧民街の住民の中には麻薬を買うのにカルテルから指示を受けて犯罪を犯して報酬を得ている者が多くいるという。(参照:「Infobae」)

◆富裕層から奪ったカネをファベラの貧民に分けるカルテルも

 3つのカルテルの中で、最も強力な影響力をもっているのがComando Vermelho(CV)だ。このカルテルは1969年にイーリャ・グランジの刑務所で誕生した。リオデジャネイロにある主要なファベラに影響力をもっている。CVの指示で動くメンバーは全国そして隣国のパラグアイを含め5万人いるという。またコロンビアのカルテルやヨーロッパの犯罪組織とも強い絆をもっている。

 次に強力なのは、Primer Comando de la Capital(PCC)だ。ここは1990年年代にサンパウロから130キロ離れたタウバテの刑務所で誕生した。ゲリラ戦闘員が主体になってできたカルテルで、16の掟を守ることが義務付けられている。刑務所にいるメンバーには50レアル(1350円)、シャバに居るメンバーは500レアル(13500円)を毎月支払うことが義務となっている。最高リーダーはマルコラと呼ばれている人物で懲役44年の刑に服している。メンバーは2万人で、それに収監しているメンバーが6000人いる。

 面白いことに、PCCはロビンフッドのような意識をもって富裕者からカネや物を強奪し、それをファベラの貧民に分け与えることもしている。しかし、富を奪うやり方は狂暴で殺害に至る場合もあるという。

 3つ目のFamilia do Norte(FDN)はCVの同盟組織といったような感じの組織でアマゾン地帯のマナオスの刑務所で誕生している。

◆刑務所内にジェットバスや情婦まで所有し、抗争も

 カルテルの存在がメディアを通して一般に良く知られるようになった最初の事件は、2015年6月と7月にマナオスの刑務所内でPCCの3人のリーダーが殺害されたことである。そして7月17日から20日にかけて同じくPCCのメンバー38人がマナオスの市街で殺害された。実行犯は軍事警官だと推察された。マナオスはFDNの縄張りで、彼らの反対を無視して新しくメンバーを募っていた麻薬グループが背後からこの犯罪の糸を引いたのであった。

 その2年後の2017年1月にはFDNがPCCのメンバー60人を刑務所内で殺害するという事件が起きた。その動機となったのはアマゾン地帯における麻薬の密輸ルートの縄張り争いからであった。特にアマゾン地帯はFDNが支配している地域で、そこにPCCが入り込もうとしたのが双方の争いの発端で、それが刑務所内で殺害事件となって具体化したのであった。(参照:「Infobae」、「Info Amazonia」)

 今年1月にボルソナロがカルテルの活動を阻止して犯罪を徹底して取り締まることを公約して大統領になって軍隊と連邦警察から500人をカルテルが本部にしている刑務所に送り込んで取り調べを行った時に400個の携帯電話が検出されたそうだ。携帯電話の刑務所内への持ち込みは禁止されているが、盲点をついて持ち込んでいたのである。さらに、刑務所内のカルテルのリーダーの独房にはビデオコンソール、水流浴槽まで検出され、売春婦までいたことが判明したそうだ。(参照:「El Periodico」)

◆功を奏さなかったボルソナロの取り締まり

 カルテルはボルソナロの取り締まりに反抗して、ボルソナロが大統領に就任した正に今年1月1日にセアラー州でバスや商店を襲撃し、同州の首府フォルタレザに通じる幹線道路を遮断するという手段で抵抗して来た。

 それ以後も彼らによる犯罪は止むことがなく、2つの橋を爆破、通学スクールバスに放火、銀行支店を破壊、市街の主要商店街を閉店に追い込むまでに過激化したという。

 全面戦争に入るとビデオに訴えて観光者を脅す手段も取った。特に、この犯罪行為が過激となったのは、セアラー州の刑務所管理局長に新たにルイス・マウロが就任して携帯電話の刑務所への持ち込みを厳しく取り締まり、各刑務所ごとにカルテルを分離させて来たのを廃止すると表明してからだという。(参照:「Infobae」)

◆麻薬カルテルの背景にある貧困、格差の問題

 ボスの部屋は立派だが、その一方で刑務所自体は古いままで30年間改善されないでいる。

 1万1000人までしか収容できないカルテルのメンバー主体の刑務所に2万9000人を押し込めてぎゅうぎゅう詰めにしているという人権無視が横行しているのだ。しかも、政府は麻薬戦争を撲滅させるための具体的なプランもない。

 一般の住民の中にも麻薬の密売に関与する人がいる。その中には多くの女性がいるという。子供を養うためには他に収入を得る道がないからである。警察に見つかれば刑務所に送られることは明白だ。逮捕されれば保釈金として1000レアル(27000円)が必要になるが、それは彼女らにとって大金で手に入れらない金額である。ということは刑務所から出られなくなることを意味する。それでも僅かの収入を得るために麻薬の密売に携わるのである。

 メキシコの公共安全と刑事司法の市民審議会による年度別危険度の高い世界50都市のランキングの中に、ブラジルから正にカルテルが活発に活動している3つの州の首府マナウス、ベレン、マカパーがリストアップされた。

<文/白石和幸>

【白石和幸】

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

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