ブリティッシュエアウェイズとイベリア航空のIAGがスペインのエア・ヨーロッパを買収した背景

ブリティッシュエアウェイズとイベリア航空のIAGがスペインのエア・ヨーロッパを買収した背景

Sarah L?tscher via Pixabay

◆スペインのエア・ヨーロッパ、IAGによって買収

 2011年に経営統合したブリティッシュ・エアウェイズとイベリア航空のインターナショナル・エアラインズ・グループ(IAG)は今月4日、スペインのエア・ヨーロッパを買収することを発表した。買収金額は10億ユーロ(1180億円)。この経営統合は2020年半ばに予定されているが、その前に欧州委員会の競争法に照らして競争総局の調査をパスしなければならない。

 この買収によってIAGが狙っているのは、ラテンアメリカ市場の強化とアドルフォ・スアレス・マドリード・バラハス空港をハブ空港としてさらに発展させることである。

 現在、ヨーロッパの航空業界には4つの大きなグループが存在している。「ルフトハンザ」、「ライアンエアー」、「IAG」、「エールフランス・KLM」である。この4つのグループの昨年度のヨーロッパにおける乗客利用者数はリストアップした順に記載すると、1億4200万人、1億3900万人、1億1300万人、1億100万人となっている。それにエア・ヨーロッパの1200万人がIAGのそれに加算されると1億2500万人となる。(参照:「El Mundo」)

◆裸一貫でエア・ヨーロッパを成長させた男

 エア・ヨーロッパはこれまでスペイン国内とラテンアメリカ市場においてイベリア航空のライバルとして存在して来た。エア・ヨーロッパは、英国の旅行業者ILGが英国からスペインへの観光者が増えているのを見込んで英国とスペイン間をチャーター便として飛ばしていた。しかし、この事業は成長せず、ILGも1991年に倒産。そこでエア・ヨーロッパを安値で買収したのがスペインの実業家フアン・ホセ・イダルゴ(78)であった。

 イダルゴはサラマンカ県出身で、19歳で仕事を探しにスイスに移住。彼が働いていた会社などが労働者をチャーターしたバスで移動させているのを観たイダルゴは、それを彼の仕事にしてスペインからスイスに出稼ぎに行く人たちを彼の車に乗せて目的地まで連れて行くことを始めたのである。それで稼いだ資金をもってスペインに戻り、小規模なバス会社を設立。その後、観光事業に目をつけて1971年、30歳の時に「アルコン・ビアヘ」という社名の旅行代理店を設立した。スペインが観光の国として成長して行く波に乗って彼の事業も成功を収めて行った。そして、1991年にアルコン・ビアヘで稼いだ資金でもってエア・ヨーロッパを買収したのである。

 エア・ヨーロッパのライバルはイベリア航空。それまでライバルを持つことなく成長していたイベリア航空に1990年代後半から突如エア・ヨーロッパがライバルとして登場したのであった。1994年からマドリードとバルセロナを結ぶドル箱ラインも両社が激しく競争するようになった。さらに、エア・ヨーロッパはロンドンとニューヨークにも飛ぶようになり、当時1週間に750便を飛ばすまでに成長。その後、エア・ヨーロッパはラテンアメリカとの航路を築いて行くのであった。(参照:「El Independiente」)

 その成果があって、今年5月からエア・ヨーロッパはブラジル国内の航路も築くことができるようになったのである。ラテンアメリカで最大の市場をエア・ヨーロッパは手中に収めたことになる。

 しかし、そのように成長していたエア・ヨーロッパはなぜIAG傘下に入ることになったのか?

◆2代目ボンクラ社長が売却を決定

 創業者であるフアン・ホセ・イダルゴが裸一貫で立ち上げ、現在は大きな企業グループへと成長した「GlobaliaCorporaci?nEmpresarial」のエア・ヨーロッパだが、なぜIAGに買収されたのか?

 その理由の一つに、2016年から創業者、フアン・ホセの息子ハビエル・イダルゴが経営を担うようになってから事業の展開に家族内で対立が起きているという背景がある。

 現在、GlobaliaCorporaci?nEmpresarialの株は創業者が51.58%、ハビエルが9.9%、長女マリアホセが5.14%、次女クリスチーナが7.04%、創業者の妻で3人の子供の母親5%といった株主の構成で全くの家族経営である。ハビエルが社長に就く前まで長女がエアー・ヨーロッパの采配を振るっていた。創業者はカリブ海で悠々自適な生活を愉しんでいる。(参照:「Voz Populi」)

 二代目のハビエルは入社する前は携帯電話の会社ぺぺホーンを経営していたが、それをマス・モービルに1億5800万ユーロ(186億円)で売却した後、エアー・ヨーロッパの経営に携わることになった。個人的に派手な生活を好みイビサやカリブ海で豪遊したり、女性問題でスキャンダルも起こしている人物だ。家族内の紛争からゼネラルマネージャーが二人も交代している。最初の人物はハビエルの親友であったが、1年も待たずに退社した。ということで、ハビエルの経営能力そのものに疑問も持たれている。(参照:「Voz Populi」)

 そんな彼が、今回の売却の最終決定を下したのである。

 背景には、昨今の航空業界は、業界再編も進み事業の存続は容易ではなくなっている。エア・ヨーロッパも今後単独での経営は難しと言われていた。ライアン航空がラテンアメリカに航路を持っていないことから両社で提携したこともあるが、長くは続かなかった。また、エールフランスとKLMがエアーヨーロッパの株主になる話もあったようだ。その結果、今回の買収は誰も予期しなかったものの、ハビエル・イダルゴが、姉のマリアホセの反対を押し切って売却を決めたのだ。

 姉のマリアホセが反対していたのも無理はない。エア・ヨーロッパはホールディングの売り上げの55%を占めており、それが抜けると、800支店を持つアルコン・ビアヘとそれに関連した事業や32軒のホテル事業などを傘下に持っているとはいえ、旅行業ビジネスはインターネットの発展で伸展が難しくなっている。例えば、昨年度のホールディングの売り上げは38億5000万ユーロ(4540億円)であるが、純利益は4億8700万ユーロ(575億円)でしかない。エアーヨーロッパが抜けると事業展開は容易ではないのだ。

◆IAGが買収を決めた背景

 IAGがエア・ヨーロッパの買収に動いた理由のひとつは、先述したようにエア・ヨーロッパが開拓したブラジル市場を介してラテンアメリカでの航路の開発を容易にするためである。

 それはエールフランスとKLMがチリを起点に同じくラテンアメリカ市場の航路開拓ができるようになったことに対抗するものでもある。というのは、エールフランスとKLMはスカイチームを介してデルタ航空と連携しており、デルタがチリのラタム航空の20%の株を取得したことに由来するものである。(参照:「La Vanguardia」)

 IAGがエア・ヨーロッパを買収することに問題がないわけではない。というのは、両社が統合すると、スペイン国内で72%の市場を占有することになるからである。IAGの傘下には国内で強い市場をもっているヴエリング航空をもっているからである。それに続くのはライアン航空であるが、スペイン国内16%の市場しか占めていない。ということで、IAGとエア・ヨーロッパで寡占市場を形成することになる。欧州委員会の競争総局がこの問題を指摘する可能性がある。(参照:「El Mundo」)

 更に、問題は3800人を雇用しているエア・ヨーロッパとIAGが事業を統合すると、荷物などのハンドリングの会社が両社が重複することになる。となれば、将来的には事業の重複を避けるための行動に出て、その結果従業員の削減が必至となるはずである。また、パイロットと客室乗務員についても、削減はないとされているが、両社が重複している航路の調整は必要となって来る。そうなると、廃止されるフライトも出て来る。それは彼らの一部が余剰員となって削減を迫られるようになるはずである。

 雇用の維持はスペインでも社会的に神経質になっている。そのような中で今回の買収によって3800人の従業員の一部が業務の重複を避けるために削減されれるようになるのは必至であろう。

<文/白石和幸>

【白石和幸】

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

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