『戦場にかける橋』の舞台を日本のSLが走る! 12月初旬はタイを走る日本のSLを見る令和元年最後のチャンス

『戦場にかける橋』の舞台を日本のSLが走る! 12月初旬はタイを走る日本のSLを見る令和元年最後のチャンス

動態保存されている2両のC56は、それぞれ713、715という車両番号が与えられている

◆タイのお祭りで日本のC56 形機関車が登場

 タイは親日国ではあるが、第2次世界大戦時に旧日本軍がタイ国内に駐留していたこともある。バンコクから西におよそ120キロのカンチャナブリ県では連合国軍兵士たちが捕虜になり、地元民たちと共に泰緬鉄道の建設にかり出されていた。労働環境は過酷で、死者も多く、今でもカンチャナブリにはそのときに亡くなった米英の兵士たちの墓がある。

 このときに建設されたクウェー川鉄橋を舞台にした映画『戦場にかける橋』が1957年に公開された。この映画の原作小説は、かの有名な『猿の惑星』の原作者ピエール・プールだ。現在、このクウェー川鉄橋はカンチャナブリ県筆頭の観光地として知られ、多くのタイ人や外国人が観光で訪れている。元々、この橋が架かる川はメークローン川という名称だったが、映画で有名になったことでクウェー・ヤイ川に改名されたほどだ。

 そんなカンチャナブリでは県が主催する祭りが毎年開催されている。特に今年は「平和碑文としてのクウェー川鉄橋」というタイトルで、光と音を駆使した6部構成の演劇も披露される。川の上に舞台を設置し、1200席を設けた会場で上演され、ハイライトは日本製の蒸気機関車C56形機関車がクウェー川鉄橋を走行する。演劇はカンチャナブリの歴史などが演目で、一部には日本軍の様子なども描かれる。日本人としても見所がいっぱいだ。

◆外交巧者タイが交渉材料にしてきた鉄道

 タイは第2次世界大戦時、終戦直前まで日本と同盟国だった。タイの周辺国はヨーロッパ列強国に植民地化されていたが、タイは独立を保ってきた。タイは昔から外交に長けていたこともあり、列強国から自らを守り、また日本とも同盟を組んだが、水面下では連合国と繋がり、日本劣勢と見るやすぐさま連合国側とコンタクトを取り、敗戦国になることも免れている。

 タイが独立を保ってきた外交術の材料のひとつが鉄道だった。カンボジアを支配下に置いたフランスやビルマ(現ミャンマー)の英国を相手に、タイ国内の鉄道使用を材料に交渉していたとされる。また、戦後、日本が食糧難になり、アメリカが日本に配給するための米をタイから調達した。そのときに使われたのが蒸気機関車だ。戦時中に日本が持ち込んでいて連合国に接収された機関車が使われたり、タイ米と物々交換で蒸気機関車が新造され、タイに納入されたのだ。

 タイ国鉄にはそのころに手にした蒸気機関車が残っており、今現在、5両が動く状態で管理されている。国鉄やタイ国の祝日などにその蒸気機関車を使ったイベントが開催され、タイ人にも人気のキップだ。今回、カンチャナブリのイベントに使われるC56形も1935年からタイで使われている機関車になる。車両に設置されているプレートを見ると、日立製で、1982年まで現役で走っていたそうだ。

 以前の情報が不足しているが、少なくとも2018年は同イベントでC56形は走っており、今年もカンチャナブリ県の祭りを彩ることになる。普段はバンコク西部を流れるチャオプラヤ河に面した国鉄トンブリ駅の機関区に置かれ、今回のイベントのために11月頭には整備が始まっていた。

 ただ、C56形は2両あるものの、両方とも当時のまま木炭を燃料としている。そのため、現在は馬力が不足していて、バンコクからカンチャナブリまではディーゼル機関車が補助で牽引した。イベントでは自力走行するので、予定通りであれば、光の演出と共に昔のままの姿を見ることができる。

◆タイの「カンチャナブリ県」ってどんなとこ?

 カンチャナブリ県はそんな戦争経験があるので、地元民には日本人に対してなんらかしらの反感などがあるのではないか、という懸念があるかもしれない。

 確かに、タイ南部が国境を接しているマレーシアは、タイよりは歴史的なものからくる日本への反感が地元民に垣間見られる。近年は減っているはずだが、20年くらい前は「日本人お断り」を掲げる宿などもあったほどだ。

 これは近くにあるペナン島が影響していると考えられる。マレーシアのペナン島は現在もそうだが、中華系住民が少なくない。戦時中、日中戦争開戦と同時に抗日レジスタンスがおり、ペナン島に進駐した日本軍が虐殺を行ったとされる。そのため、地域住民の中にはいまだに日本人に反感を持っている人もいるようなのだ。

 しかし、カンチャナブリではそのようなことはあまりない。地元住民に日本、そして日本人についてどう思うか訊くと、ほとんどが「好き」と答えるか「なんとも思っていない」かで、「嫌い」と言う人は、少なくとも筆者の聞き込みではいなかった。

 カンチャナブリ県も日本人にとって最適な観光地で、今回のイベント「平和碑文としてのクウェー川鉄橋」を楽しんでもらいたいところだ。

◆お祭りの演劇以外にも日本の蒸気機関車を見るチャンス

 この祭りは11月23日〜12月2日の約1週間の日程になっている。例年、だいたい1週間くらいのようだが、今年は演劇に用意された1200席はすべて無料となっている。昨年は1席1000バーツ(約3500円)ほどしたらしいので、かなりお得だ。ただし、予約が必要で、毎日16時から会場前で受けつける。外国人はパスポートを持参すれば席を確保できると発表されている。

 演劇は1日1〜2回の上演だ。本記事掲載後の日程だと、11月30日は19時と20時半、12月1日は19時のみ。2日の最終日は上演の予定はない。

 カンチャナブリまでは車、あるいは南バスターミナルから長距離バスで2時間程度なので、バンコク旅行のついでに時間があれば足を運んでみてほしい。あるいは、C56形ではないが、日本製のパシフィック形蒸気機関車がタイ国鉄の中央駅であるホアランポーン駅(国鉄バンコク駅)から、例年通りであれば12月5日朝8時に出発する予定だ。この次はおそらくタイ国鉄の日なので、2020年3月26日だろう。12月5日は日本の古い蒸気機関車をタイで見る、2019年最後のチャンスである。

<取材・文・撮影/高田胤臣>

【高田胤臣】

(Twitter ID:@NatureNENEAM)

たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など

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