侵入即発砲で3人が死亡。凶悪犯罪にも慣れたタイ人を震撼させた「金行強盗」。犯人はなんと教師で2度衝撃

侵入即発砲で3人が死亡。凶悪犯罪にも慣れたタイ人を震撼させた「金行強盗」。犯人はなんと教師で2度衝撃

流出した防犯カメラ映像 (via LiveLeak)

◆残虐事件にも慣れっこなタイ人を震撼させた凶悪事件

 タイは一見治安がいいように見えるが、日本と同じほどというわけにはいかない。外国人の一般観光客が行くところはそれほどでもないが、タイ人が暮らすエリアでは日常的に事件が起こっていて、人間の心の闇を感じさせる事件も少なくない。そのため、日本では考えられないような残虐事件にも慣れっこになっている節も多くのタイ人に見られるが、そんなタイ人も震え上がらせる凶悪事件が起こった。

 2020年1月9日夜21時前、バンコクの北方100キロ超の辺りにあるロッブリー県の商業施設内の「金行」をひとりの強盗が襲った。金行というのは金製品を売買する店で、今はタイ人からもあまり興味を持たれていないが、かつては資産運用や保全に金製品が利用されていた(*参照:HBOL)。金行強盗もタイ全土を合算すれば年に何回も起こるのだが、今回の強盗は様子が違った。

 というのも、商業施設に侵入し金行近辺に来るなりいきなり拳銃を発砲したのだ。これにより、流れ弾で被弾した2歳児を含む3人が死亡し、4人がケガをした。金行の被害は金製品が60万バーツ相当(210万円相当)と報道されている。

 ためらいもなく発砲している様子、発砲時の姿勢、さらには所持していた拳銃の先端が長いためサプレッサー(銃声などを抑制する器具)が取りつけられている様子が防犯カメラに映っており、SNSなどでその犯行の一部始終が瞬く間に広まった。誰もがプロの殺し屋、あるいは軍人だと思った。

 銃社会のタイでもさすがにサプレッサーは一般人の手には渡らない。また、警察でさえ組織でマシンガンを手にするにはかなり上の地位の人物のサインがいるほどで、サプレッサーはせいぜい警察の特殊部隊が保有するくらいだとされる。そうなると、身のこなしや装備から見て軍人なのではないかと誰もが想像したのだ。

 そして、一般市民たちが連想したのは「犯人は捕まらないのではないか」ということだった。タイは政情不安が続いており、現在の政府は実質的に陸軍が掌握しているとされる。そのため、身内の不祥事をもみ消すのではないかと多くのタイ人が疑った。

 しかし、政府側も国民感情を察知して放置しておくことができないと判断たのか、全力で捜査を進め、1月23日、重要参考人として取り調べをしていた男性を逮捕したと発表した。

◆逮捕された男はなんと学校の教師

 これでめでたしであればいつもの事件なのだが、この事件の闇は思っているほど浅くなかった。というのは、逮捕された男性38歳は、なんと学校の教師だったのだ。しかも、美しい妻を持ち、外車などに乗る成功者のような男だった。なぜすべてを持っている男が事件を? と逮捕翌日は学校や仕事場でタイ人はみんなこの話で持ちきりとなったようだ。

 この記事を執筆中の段階ではまだ取り調べは途中段階で真相はわかっていない。しかし、この犯人もむちゃくちゃで、スリルを求めて強盗を働いたのでゴールドに興味がなかったから川に捨てた、と自供したかと思えば、奪った金製品は犯人の実家や妻の家にあった。保身でウソを言っているのかもしれないが、犯人の頭の中は普通の状態ではないと思われる。

 なぜなら、タイの報道によればこの犯人は犯行後になにくわぬ顔で学校に出勤していたそうだし、タイの子どもの日が犯行の2日後にあり、その際も家庭円満な様子をSNSにアップしていた。最新のニュースでは、射殺した金行の女性従業員の葬儀にしれっと参列し、2000バーツの香典を置いていっていることもわかっている。

 タイの報道では犯人は200万バーツ(約700万円)の借金を抱えていて、それが犯行の動機ではないかという。外車購入や、女性遊び、サッカー賭博などに派手に遣っていたのではないかとされる。そもそも教師はタイでは社会的地位は高いとはいえ、給料はかなり安い。

 犯行に使われた拳銃はCZ75という、チェコ製の9mm口径だとされる。現在タイでは2.8万〜12万バーツ(約9.8〜42万円)になっている。幅があるのは種類がいろいろあるらしいので筆者には現状特定ができないことと、タイは警察官など銃を使用する公務員は免税となって、一般市民とは違う価格設定があるからだ。一般的なタイプのCZ75は平均では5万バーツ前後(約17.5万円)で購入できると見られる。

 また、タイは拳銃の価格設定が高い。一般価格では5万バーツ以上、人気の銃なら10万バーツ(約35万円)を超える。一方、散弾銃やライフルのような長い銃は安いもので3万バーツ(約10.5万円)程度から買えてしまう。

 持ち運びを考えてかもしれないが、銃もちょっとしたものを買うという、やや見栄っ張りなところがあったのかもしれない。そのため、犯人は収入以上に出費があって、カネに困っていたのだろう。

◆犯行数日前に下見していた用意周到な犯人

 報道では、犯行の数日前に金行に妻と訪れている様子が防犯カメラに映っていたとされる。犯行に妻は一切関わっていないようだが、犯人自身は何気なくを装って下見していたようだ。

 現状は取り調べを受けている最中のため、動機など詳細はわかっていない。サプレッサーがもし本物であるなら、どのように入手したのか、また射撃はどこで習っていたのか、なによりもなぜ金行を襲い、発砲をする必要があったのかなど、知りたいことは山ほどある。

 金行は前述の通り、資産運用や保全の対象だったが、今はあまり好まれなくなっている。金相場が高値であることや、金製品は主にアクセサリーで売買するので、デザインや金製品の色合いそのものがダサいと言われるようになってしまった。

 それでも、盗んだのちに裏ルートを持っていれば売却できる。金行はそういった盗難による不正売買を防ぐために製品の裏に各金行オリジナルのロゴを刻印している。しかし、溶かしてしまえばわからなくなるので、完ぺきな防犯方法とも言いがたい。

 また、商業施設の金行を狙った点についても、犯人は現状をよく調べていたと思う。元々金行はバンコクの中華街が発祥で、路面に店舗があった。今も中華街やほかの地域に路面店はたくさんあり、そこでは武装した守衛が雇われているケースが多い。主に非番の警察官がバイトで働いているのだが、それくらい金行が強盗対策をしている。

 しかし、商業施設では非番の警官といえども拳銃を持って立つことは難しい。なにより、人の目がたくさんあるので、強盗に襲われる心配がほとんどない、というのがこれまでの常識だった。犯人はそこを突いて襲っていると見られる。死亡した被害者のひとりは商業施設の守衛で、逃走を阻止しようと自動ドアを操作しているところを射殺されてしまった。この守衛も拳銃は持っていなかったはずだ。だから、応戦するにはドアを閉めるしかできなかったのだろう。

 先日バンコクで日本人が襲われ、在住日本人の多くが改めてタイは治安が悪いところだと再認識したが、この事件はタイ人にそう再認識させることになりそうだ。

<取材・文・写真/高田胤臣>

【高田胤臣】

(Twitter ID:@NatureNENEAM)

たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など

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