中国人実習生は賄賂の要求を拒否し、成績表をゴミ箱に捨てた<アレックの朝鮮回顧録5>

中国人実習生は賄賂の要求を拒否し、成績表をゴミ箱に捨てた<アレックの朝鮮回顧録5>

「富二代」の本科生とは違い、中国の短期留学生は皆勉強熱心で優秀だった(真ん中は他国からの留学生)

◆「富二代」と違い真面目だった中国からの短期留学生

 今回も、前回に引き続き、中国からの実習生(短期留学生)について紹介していきたい。

 彼女たちは、なぜ平壌に来ようと決めたのか? 北朝鮮を神秘的に思い、行ってみたいという理由で留学を選んだ人もいる。一方で、韓流のために韓国語を学び始めたが、韓国留学の奨学金を得る競争があまりにも熾烈で、より奨学金を得やすい北朝鮮留学プログラムを申請した人もいた(もちろんソウル行きプログラムよりも申請者がはるかに少ない)。

 彼女らは金日成総合大学の教員、寄宿舎職員から好感を得ていたので、我々のような肩身の狭い(非中国人)外国人留学生の社交上の大きな助けになった。

 私は彼女たちのうち数名と中国語と英語(全般的に英語が上手い学生たちだった)でよく会話し、一緒に平壌を回ったり寄宿舎でもともに余暇を過ごした。千里馬通りで散歩しながら、ともに色々と語らったのをよく覚えている。

◆「タバコを1カートンくれたら満点にしてやる」という教授の要求に……

 実習生のうち一人は、教員になりたいという夢を持って中国の名門大学に進学した。中国南方の亜熱帯地方出身である彼女は明るく聡明だが、もともと入ることが難しい英語専攻だった。しかし、韓国ドラマの影響で韓国語専攻に変えた。

 彼女は北朝鮮にも興味があったが、金日成総合大学で賄賂のやり取りをみて幻滅したという。「教員という崇高な職業を冒涜するもの」といって悲しむ彼女を、私は「この国の特殊な状況を考えよう」と精一杯、慰めた。

 卒業する直前、彼女は「贈り物」を要求されたが、その時に倫理的ジレンマを痛感した。成績が出た後にも、ある教授は彼女に「タバコ1カートンをくれるなら、3点ほどの成績を5点満点に変えられる」と言った。

 私は今だに「賄賂」の提案を受けた彼女が見せた行動と、その時の印象を覚えている。当然、彼女は賄賂を贈らず、成績表を受け取るなりゴミ箱に捨ててしまったのだ。

 しかし彼女は、否定的な思い出だけを持って朝鮮を発ったわけではなかった。彼女は留学生宿舎の1階にある売店の女性と親しかったが、寂しいときはその女性としばしば閑談していた。彼女が学業を終えて去るとき、売店の女性は彼女にプレゼントとしてノートを贈り、彼女も朝鮮の庶民の温かい心を感じ取ったのだった。

◆帰国日の前倒しを要求した、ロシアからの語学留学生

 一年間滞在する実習生を除くと、夏休みに1、2ヶ月ほど金日成総合大学に語学短期留学する団体もいた。フランスとドイツから少し来ていたが、もちろん中国からがもっと多かった。

 私がいたときはロシアの3つの大学校――国立モスクワ国際関係大学校、高等経済大学校、ロシア外務省の外交学学院(国立モスクワ外国語大学校の学生もいたが、彼らは平壌外国語大学におり、我々と同じ寄宿舎に住んだ)の学生たちも夏に短期の朝鮮語留学をしていた。

 これもほとんどが朝鮮語専攻だったが、私は彼らと絡みまくった。一緒にウォッカを飲み、インディー・ロック、そしてアメリカのシットコム「シリコンベリー」について遅くまで議論したりした。平壌にはナイトクラブがないためつまらないと不平を言う彼らの中には、韓国に行くため韓国語を学んだ人が多いようだったが(彼らは平壌の後、韓国で1年間留学する)、北朝鮮に関心がある人もいた。私は北朝鮮の歴史をよく知っている、モスクワの大学に留学中のウズベキスタン出身高麗人学生と興味深い話をたくさんした。

 もちろん、彼らのほとんどは金日成総合大学での留学をそれほど楽しんでいないようだった。彼らはそればかりか、平壌のロシア大使に平壌を発つ日を前倒しするよう直接要求していた。

◆軍事施設の裏山でピクニックをし、秘密警察に捕まる

 要求は拒絶され、彼らは仕方なく退屈な生活を耐えなければならなかった。その後、ロシア人学生たちは暇つぶしのため寄宿舎の裏山にピクニックをしに行った。

 しかし彼らはその山に砲撃施設があり、国家安全保安省の本部を見下ろせることを知らなかった。彼らはすぐに捕まり、「KGBの臭いを醸し出す」人々によってスパイとして一日中、屈辱的な尋問を受けた。解放された後、彼らは同宿生の同伴なしには外出できなくなり、私に「我々は祖父母が体験したナンセンスをよくわかった」と断言した。

 だがこの話は、その後彼らが北朝鮮を離れ、現在ソウルで幸せな留学生活を送っているためハッピーエンドである。

 一方、私は平壌での生活を楽しみ、あの都市を深く愛するようになった。ほとんどの留学生たちは怖がったり、退屈がったり、または興味がないといって寄宿舎に引きこもっていた。しかし私は数名の友人と一緒に、一週間に何回も平壌を探訪した。ゆえに、スパイであると誤解されやすくなったのだ。それについては、後に語っていこうと思う。

<文/アレック・シグリー>

【アレック・シグリー】

Alek Sigley。オーストラリア国立大学アジア太平洋学科卒業。2012年に初めて北朝鮮を訪問。2016年にソウルに語学留学後、2018〜2019年に金日成総合大学・文学大学博士院留学生として北朝鮮の現代文学を研究。2019年6月25日、北朝鮮当局に拘束され、同7月4日に国外追放される。『僕のヒーローアカデミア』など日本のアニメを好む。Twitter:@AlekSigley

関連記事(外部サイト)