【ロシアを読む】“理想的な美”に異議 ロシア女性ブロガーに共感広がる

【ロシアを読む】“理想的な美”に異議 ロシア女性ブロガーに共感広がる

“標準的な美”に疑問を呈するため、ロシア人女性ブロガーのトゥーシャさんが投稿した動画。寝そべった女性の後ろで、首をかしげている金髪の女性がトゥーシャさん=動画投稿サイト「ユーチューブ」から

 女性は美を追求すべきだ−との風潮に異議を唱えようと、ロシア人女性ブロガーが「女性は自分の外見に悩むべきではない」と訴えるプロジェクトをインターネット上で始めた。すぐに共感を呼び、SNS(会員制交流サイト)上では女性が続々と“スッピン写真”などを投稿。動画投稿サイト「ユーチューブ」に公開された動画にも6000件近くのコメントが付いている。反響の背景には、ロシア人の美意識の変化や、女性を男性の付属物とみなす男性中心主義的なロシア社会への反発があるとする分析も出ている。(モスクワ 小野田雄一)

 「ありのままの自分」プロジェクトを始めたのは、女性ブロガーのトゥーシャさん。写真共有SNS「インスタグラム」に120万人、ユーチューブに20万人のフォロワー(支持者)を持つ、いわゆる「インフルエンサー」(社会的影響力を持つ人物)だ。

 過去に摂食障害に苦しんだ経験から、美容業界などが掲げる“理想的な美”に疑問を持った。体形や肌の色、シミ、傷痕などを化粧や写真加工などで隠さずにそのまま肯定すべきではないか−。こう考え、プロジェクトを立ち上げた。

 9月26日にユーチューブで公開した動画「体の肯定・どうやって自分を愛するか」(https://youtu.be/EzuoTUK−oFE)で、トゥーシャさんは冒頭にこう問いかける。

 「世界には35億以上の女性がいて、それぞれ別の体を持っている。しかし広告やメディアは、正しい美と正しくない美があるという。そのせいで女性の2人に1人が(ダイエットなどで)自分の体を変化させようとしている。何に一致させるためなの?」

 動画には、体形や歯並び、鼻の形、顔の赤らみ、胸の大きさ、肌の色、やけどの痕、毛髪など自分の体にコンプレックスを持っていたという女性10人以上が登場。以前は化粧やかつら、整形・豊胸手術などで隠していたと告白した上で「これが自分だけの体だと肯定したら楽になった」と晴れやかな表情で話した。

 トゥーシャさんは「“標準的な美”の追求は精神的・身体的な負担となる。35億人も女性がいるのに、誰が標準を決めるのか」と述べた上で「私はありのままの私がいい。あなたはどうですか?」と呼びかける−という内容だ。

 公開された動画は、約1週間で70万回再生され、6000件近くのコメントが付くなど、反響を呼んだ。

 一部には「病気・けがと、怠惰が原因の肥満を同一視してはいけない」「健康を害す肥満を肯定すべきではない」「自分の容姿が良いから言えることだ」などとの否定的なコメントもあるものの、「英語に翻訳して世界中の人に見てもらうべきだ」「登場した女性がかつらを取った瞬間に泣いてしまった」「このプロジェクトを男性にも広げていこう」などとの好意的な反応が大半だ。

 また、インスタグラム上でも、10月上旬時点で同プロジェクトのハッシュタグ(#сомнойвсётак)が付けられた写真が既に3000件近く投稿されている。写真の多くは、化粧をしていない女性や顔に傷やあざなどがある女性、頭髪がない女性、肥満体型の女性らのもので、トゥーシャさんの主張に賛同した女性らが自身を被写体に投稿しているようだ。

 トゥーシャさんの活動がロシアで共感を呼んだ要因の一つには、ロシア人の美意識の変化があるとみられる。

 「ロシアの女性は若いころはきれいだが、歳を取ると太る」とのよく聞かれる俗説の背景には、旧ソ連時代は「太った体形は社会的地位や裕福さの表れ」だとされ、太ることに否定的な受け止めがロシア社会に乏しかったことがある。しかしソ連崩壊後、スタイルの良さを重視する欧米的な美の基準が普及し、現代の多くのロシア女性はフィットネスクラブに通うなど体形維持に躍起(やっき)だ。

 また、ロシアの女性人権保護団体からは「ロシアでは男性中心的な価値観が根強く残っている。女性は一般に社会的立場が弱いため、男性の庇護(ひご)を受けるために男性が欲する美しさを追求せざるを得ない」との分析も出ている。

 実際、ロシアには「女は男に殴られることで愛を感じる」という趣旨の格言があるほか、2017年には家族など身近な相手に対する暴力が刑事罰から行政罰に“格下げ”された。その結果、女性への家庭内暴力の発生件数が急増した。見知らぬ男に乱暴を受けそうになり、身を守るために男を殴った女性が傷害罪などで起訴されるという事件も複数起きている。国連人権理事会はロシアに女性の人権保護状況を改善するよう求めているが、ロシア政府は目立った対策を取る姿勢を見せていない。

 トゥーシャさんの動画も、ロシアでは女性に対して「お前はセクシーじゃない」「その醜さを何とかしろ」「大食いするな。やせろ」などの言葉が投げかけられると紹介し、女性は美に関する社会的な圧力にさらされているとした。

 記者もロシアに住んでいる中で驚いたことの一つは、真冬でも胸元を開けた服を着たり、短いスカートをはいたりしている女性を何度も見かけたことだ。自分の魅力を誇示する意味合いも当然あるのだろうが、男性にアピールせざるを得ない背景もあるとすれば、少し複雑な気持ちになる。

 日本在住経験のある若いロシア人女性にトゥーシャさんのプロジェクトの話をすると、こんな言葉が返ってきた。

 「日本の若い女の子たちも“かわいい”が求められていて、みんな一緒の化粧やファッションをしています。むしろそういう傾向はロシアより強いかもしれませんよ」。なかなか考えさせられる一言だった。

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