【欧州を読む】「EU残留派びいき」の英議長辞任 硬骨漢レフェリーに賛否両論

 欧州連合(EU)離脱をめぐる英政治の混迷が続く中、英下院を10年間差配してきたバーカウ下院議長が10月末に辞任する。ヤジを飛ばす議員を独特の口調で「オーダー!(静粛に)」と注意する姿は国内外で人気を集め、辞任を惜しむ声も強い。一方、EU残留派として知られるバーカウ氏は、強硬離脱派にとって不利な議会進行を行ってきたとの批判もあり、議長としての中立性が疑問視されてきた。賛否両論を生んだ“個性派議長”はどのような人物なのか−。(ロンドン 板東和正)

■強力な個性

 「演説をヤジで妨害することは許されない。息がもったいないでしょう」

 「そもそも、あんたはヤジが下手くそだ。お行儀よくしなさい」

 皮肉が効いた発言でヤジをたしなめるバーカウ氏の姿は「英議会の名物」(下院議員)だ。離脱問題が注目される中、国内外のテレビやインターネットで発言が紹介され、英国内にとどまらず、世界的な人気を集めている。英メディアによると、ペロシ米下院議長が4月に訪英した際、バーカウ氏のトレードマークともいえる「オーダー!」の言い方を本人から学んだという。

 国内外で支持されているのは、個性的なキャラクターだけではなく、どんな相手でも自身の主張を貫く強い姿勢だ。下院の審議中に携帯電話を触った閣僚を叱責したこともある。2017年には、国賓として英国を公式訪問するトランプ米大統領が議会で演説することに強く反対。「人種差別と性差別に反対する」として、トランプ氏の政治姿勢は議会演説にふさわしくないと説明した。

■拍手しない保守党議員

 ただ、一方で、バーカウ氏の議長としての評価は二分されている。そのことが如実にみえる場面があった。

 「名誉と誇りにあふれる仕事だった。永遠に感謝する」

 9月9日。議長席のバーカウ氏は立ち上がり、目を潤ませながら10月末の辞任を表明した。辞任が発表されると、最大野党・労働党を中心に野党議員が一斉に拍手を送り、労働党のコービン党首は「貴方が議長になったことで、われわれの民主主義はより強くなった」と称賛した。ただ、ジョンソン首相率いる与党・保守党の議員のほとんどは立ち上がりもせず、野党議員によるスタンディングオベーションに参加しなかった。

 英議会を研究する専門家は「この光景で、バーカウ氏が議長としてどのように評価されているかが分かる」と話す。というのは、バーカウ氏は、野党に多いEU残留派や穏健離脱派に好まれる差配をしてきたといわれるからだ。ジョンソン氏ら強硬離脱派にとっては「目の上のたんこぶ」ともいえる存在だった。

 特にバーカウ氏の「残留派びいき」が垣間見えたのが、離脱協定案の採決が行われる予定だった10月19日のことだ。この日に先立ち、ジョンソン氏は17日にEUと協定案で合意。協定案を採決するために、37年ぶりにわざわざ土曜日に議会を招集した。

 にも関わらずバーカウ氏は急遽、協定案採決の保留を求める労働党議員らの動議を採決することを決定。動議は可決され、協定案の採決が先送りされる異例の展開となった。

 保守党支持者は「この時、協定案が採決されていれば可決していた可能性が高かった」とした上で「バーカウ氏が離脱を妨害する議員に加担したと思われても仕方がない判断だった」と指摘する。

■不公平なレフェリー?!

 与野党が提出する動議の採決の可否などを決める権限がある下院議長は、本来、審議を中立の立場で進行する「レフェリー」のような存在だ。菅野泰夫・大和総研ロンドンリサーチセンター長は「バーカウ氏はあまりにもEU残留派寄りの差配で、ジョンソン氏にしてみれば野党のホームグラウンドで試合をしているような感覚だろう」と推測した。

 ただ、バーカウ氏は意外にも、保守党議員から議長に就任した経歴を持つ。

 英BBC放送などによると、1963年にタクシー運転手の息子としてロンドンで生まれたバーカウ氏は、英エセックス大で行政学を学んだ。97年に保守党から初当選した当時は、右派の思想を持っていたとされる。

 しかし、2009年に下院議長に選出されたころには、リベラルな思想を持つ保守党議員として知られ、労働党にくら替えするとの噂も流れた。EU離脱の是非を問う16年の国民投票では、残留に投票したことが知られている。

 バーカウ氏の政治思想に変化を与えた出来事の一つとして、02年に結婚した妻、サリーさんとの出会いがあるとされる。労働党を支持しているサリーさんの考えに「バーカウ氏は感化され続けてきた」(保守党支持者)という。バーカウ氏は辞任を表明した9月9日、サリーさんへの感謝の言葉を述べた。

 英メディアによると、次期下院議長を選ぶ選挙は11月4日に実施される。バーカウ氏の後任となる新議長も離脱問題に影響を与える存在になるかもしれない。

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