バグダディ容疑者殺害も困難なIS掃討 戦火と貧困が障害

 イスラム教の預言者ムハンマドの後継者「カリフ」による、イラクとシリアを「領土」とする政教一致の疑似国家。死亡したスンニ派過激組織「イスラム国」(IS)指導者のバグダディ容疑者は、従来のテロ組織にはない概念でイスラム教徒を引きつけた。

 だが、その裏で行われたのは富の収奪や残虐な処刑、性暴力や強制結婚など恐怖政治そのものだった。「理想郷だ」と信じてISの支配地域に移住したアジアや欧州のイスラム教徒の多くが後悔し、離反した。

 イラクとシリアでISの支配地域が陥落してから7カ月しかたっていない。にもかかわらず、両国では過激派が影響力を拡大しかねない事態が起きている。

 イラクでは経済低迷に怒る若者のデモが続き、今月だけで250人が死亡。首都バグダッドでは昨秋、「ISの関係者は市民にまぎれて潜伏している」との証言を複数聞いた。内戦が続くシリアからは560万人が周辺国に逃れ、国外退去や強制送還を恐れる若者が人目を避けて暮らす。

 貧困に苦しみ、将来に希望が持てない若者が過激派に身を投じる以前のような環境ができつつある。バグダディ容疑者の死はISには打撃かもしれないが、切羽詰まった若者と過激派の危うい接近まで止められるわけではない。

 ISは国際テロ組織アルカーイダから分裂してできた。関連組織の首謀者を米軍が死に追いやったのは2006年のザルカウィ容疑者、11年のビンラーディン容疑者に次いで、バグダディ容疑者で3人目だ。しかし、国際テロ組織は一向に消滅しない。

 イラクとシリアには言語や宗教が異なる集団が混住している。第一次大戦で敗北したオスマン帝国の解体に際し、英仏の間で勢力圏を分け合う「サイクス・ピコ協定」(1916年)が秘密裏に結ばれ、協定を基に「お仕着せの国境線」ができたのが理由だ。中東では民族同士の不信感が消えず、混乱が続く。

 戦火や貧困という温床を断てない限り、イスラム過激派ははびこり続けるだろう。(イスタンブール 佐藤貴生)

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