アフガニスタン前駐日大使に聞く「タリバンの今後」 最も気になるのは“イスラム教の法律の範囲”

アフガニスタン前駐日大使に聞く「タリバンの今後」 最も気になるのは“イスラム教の法律の範囲”

バシール・モハバット氏(著者撮影)

 混乱のアフガニスタン、20年ぶりのタリバンの支配国家になればどうなるのか。前駐日アフガニスタン大使のバシール・モハバットさん(64)に伺った。モハバット氏は19歳で来日、拓殖大学、中京大学などに留学したが、ソ連の祖国侵攻で帰国できなくなる。メーカーに就職し米国にも赴任した。2003年、カルザイ政権下で在日本大使館が再開すると「異国で祖国に尽くしたい」と外交官試験を受け二等書記官として勤務。2017年から駐日大使となり、2019年12月の中村哲氏の銃撃死事件では葬儀で涙ながらに弔辞を読んだ。今年1月に退任した。

 タリバンの制圧は予測できましたが、こんなに早くとは驚きです。とはいえ米国のバイデン大統領も私も誰もが同じ感想でしょう。アメリカは早くから「撤退する」としていましたし、現地では半年前からタリバンの活動が活発でした。タリバンは南のカンダハルなど地方から制圧し、今度は北部を抑えて行った。北部は1996年から2001年までのタリバン政権時代も人々が強く抵抗していた地域です。

 オバマ政権は2014年、カルザイ政権と米軍の撤退で合意し、兵隊を減らしていった。昨年2月にトランプ大統領も撤退を約束した。バイデン氏はタリバンと交渉し、当初、撤退が5月1日だったのを9月11日にしようとしていた。

 新政権が国際的に認められるかどうか。アメリカ、カナダや、イギリスなどの欧州諸国が認めるにはワンステップが必要でしょう。民主主義、言論の自由、女性の尊厳を守る、行動の自由など要はアメリカやヨーロッパ並みの「普通の社会」になれるかどうか。駄目なら米国も経済援助もしないでしょうね。以前は、教育は小学校までとか、女性は肉親の男と一緒でないと外出できないとかひどい社会でしたが、不完全ながらもこの20年で民主主義を手に入れました。自由、女性の解放、憲法、経済の自由などが新たなタリバン政権で失われることを国民は恐れているのです。

 タリバンも国際社会を知り賢くなったとは思うが、アフガニスタンの国民にとっては過去の経験があるので不安感は拭えません。タリバンの広報担当のムジャヘド氏は記者会見で国民の権利を守るようなことを言いましたが、本当に実践されるかどうかわかりません。守る前提を「イスラム教の法律の範囲」としているのが一番気になりますね。インドネシアからモロッコまでみんなイスラムの国ですが、どこもかつてのタリバンのようなことはやっていません。彼らの言う「イスラム教の法律」が何を指すのかが鍵です。タリバン政権の時はサウジアラビア、パキスタン、アラブ首長国連邦の三国しか承認していません。それでは国際的に孤立するだけです。アフガニスタンの若者も国際的な知識を持つようになり、タリバンも以前のようなことはできないでしょうが。

 テロリストの温床も心配されますね。アフガニスタンはアルカイダだけでなく20以上のテロリストグループが活動しています。ウィグル、ウズベキスタン、チェチェン、そういった地域からのグループや国際組織のIS(イスラム国)、パキスタンからもテロリストが多く入っている。タリバンが彼らをコントロールできるかどうか。まだ幹部が十分、カブールには来ていませんが、すべての民族、部族を政権に参加させるとしています。北部同盟(1996年からのタリバン政権で反タリバンとして組織された政権)の指導者も今パキスタンに居ます。パキスタンも「タリバンと交渉している」と言っています。タリバンも自分たちだけでは政権を維持し政治を遂行することはできないはずですが、指導者もまだ発表になっておらず、まだ指導部の様相はわかりません。ムジャヘド氏が会見しましたが過去、国民の前に姿を現したことがありません。会見の彼が本物かどうか、日本でいう影武者かもしれないとも言われます。

 まだ政変が起きたばかりですが、私も含めてアフガニスタン国民の願いは、言論の自由、女性の自由、マスコミの自由、教育など「普通の国」にしてほしいということですね。

 タリバンはケシの実のから作る麻薬、コカインが資金源でしたが「ケシの栽培は全部消します」といってる。ダジャレみたいですが、代わりに何を栽培するかは不明です。アフガニスタンは元々、農業国で、輸出するほど農産物がありました。最近も日本の援助で米作のプロジェクトも進んでいました。ケシさえ、なくせば代わりには何でも育ちますから大丈夫です。

 タリバンに対して国民の間にはすでに反発が起きています。8月19日は独立記念日で様々のセレモニーが行われてきました。歌ったりアフガニスタンの旗を飾ったり。それをタリバンが認めないと衝突します。市民は、「政府が変わるのは仕方ないが、旗や国家の象徴は変えたくない」とも思っています。ガニ政権の汚職などの腐敗に対しての不満があったことも一因でしょう。

 ガニ大統領は国外へ逃げましたが、サレー第一副大統領は国内にいるようです。彼は「憲法に基づけば今、自分は大統領になる責任がある。パキスタンの奴隷になることやテロリストは受け入れない」として政権に意欲を見せます。しかし、どれだけの人が彼につくかわからないですね。

 カブールの日本大使館の日本人職員は脱出しましたが、通訳などアフガン人のスタッフや家族でも脱出したい人も多いはずです。大使館の様子はまだよくわかりません。日本政府がどのように彼らを守ってくれるのかも注目されます。

 幸い、私の肉親や友達は大丈夫です。大きな混乱は空港だけ。市内では大きな混乱はないようです。一番怖がっている旧政権中枢の人などに対して「タリバンが恩赦を与える」と言っていることは安心感も与えている面もあします。

 アメリカもEUも様子見です。ドイツも援助しないと言っています。アメリカは「暴力で政権を取った政府は認めない」としていた。ガニ大統領がまだいた時、ドーハでタリバンと平和的な話し合いがありました。あまり効果はなかったが、その頃、タリバンはカブールの周囲にいた。紛争が起き、タリバンは「治安を守るためカブールに入った」と主張し、国民は「しかたない」という空気にもなっていました。

 タリバンの中にも昔のような圧政を行いたい人物もいるでしょうが、彼らもある意味で苦しい立場だと思います。イスラム教の教えの元で女性も教育も守るのかと、世界が見守るが、イスラム教は一つしかない。どういう形にするのでしょうか。

 ハザーラ(アフガニスタンのシーア派系の民族)の指導者アブドウル・アリ・マザリは、スンニー派であるタリバン政権で処刑されましたが、バーミヤンでは彼の銅像が造られていました。今回、誰かによってそれが爆破された。イスラム教は偶像を否定するから、バーミヤンの石仏を爆破したことを思い出させますね。

 タリバンは「我々の仕業ではない。我々は国の宝は全部守る」とし、カブール博物館などの文化財も守ることを言ってます。今回の爆破の真相はわかりませんが石仏をタリバンが破壊して国際的非難を浴びていたはずのバーミヤンでそういうことが起きていることも心配です。

 タリバンの幹部は教養もあるが末端は違います。彼らが規律を守れるか。アフガニスタンは民族が多く、ソ連侵攻からの49年間でも民族間の憎しみも深い。統制を取るのは難しい。

 20年間の米国支援政府は、海外からも戻ってきた協力者らに支えられました。タリバンには教育されてない人が多く、彼らが教育されるには30年かかるでしょう。彼らは「これまでの国家システムを維持する」と言いますが、国家システムの構築には旧政権の関係者がいなくてはできない。「みんな家にいろ」では国はもたないし、今の経済システムも変えられないはず。変えれば経済がつぶれ海外から資金が入らず最貧国に戻ってしまいます。 

 ただ、これまでのシステムを認めると、タリバンとしては「何のために戦っていたのか」という自己矛盾にも陥ります。以前のタリバン政権はテレビの音楽や歌も禁止しました。OKにするのはよいのですが、「なんで今まで駄目と言っていたのか」となってしまう。「何のために戦ってきた」同様、矛盾してしまう。矛盾をどう克服するかです。

 いずれにせよ、イスラムの法律で国民生活をどこまで制限するかが大きな鍵です。歌手はブルカの格好をさせられるとか、刺激的な音楽はダメとか、宗教的な歌に限らせるとかになるかもしれない。これまでは大統領を「ぼろくそに」批判してもよかったが、新政権で本当の言論の自由が許されるのかどうかです。選挙制度も認めず、イランと同じく最高指導者の号令だけの国になってしまうのか。記者会見のような対外向けの顔と、国内向けの顔が違わないかどうか。まだ政変が起きたばかりですが、予断を許しません。(8月18日取材)。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

デイリー新潮取材班編集

2021年8月23日 掲載

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