カブール救出作戦、日本はなぜ韓国にも“大負け”したのか アフガン人協力者らを置き去りに

カブール救出作戦、日本はなぜ韓国にも“大負け”したのか アフガン人協力者らを置き去りに

アフガニスタン人600人超を乗せ、カブールからカタールに向かう米軍のC17輸送機の機内(米空軍公式Twitterより)

 アフガンから怒りの声を上げるのは、現地で日本人の活動を支えながらも見捨てられたアフガン人たち。盟友を保護すべく「カブール救出作戦」で結果を出した韓国と比較すれば、我々とて日本政府の体たらくには憤りを覚える。いったい何が明暗を分けたのか。

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〈日本、カブールの恥辱〉との見出しで〈アフガニスタン退避計画は失敗に終わった〉と報じたのは、8月28日付の韓国紙・中央日報だ。東亜日報など他の大手メディアも横並びで日本政府の対応を取り上げると共に、中国メディアまでもが〈韓国紙が日本を嘲笑〉と報じるなど、中韓がここぞとばかりに“日本叩き”に熱をあげている。

 情けない話だが、かの国々が喧伝するように日本が大負けしたのは否めない事実だ。振り返れば、米国が今年4月にアフガンからの撤退を表明して以降、イスラム原理主義組織タリバンは攻勢を強め、米軍の後ろ盾を失ったアフガニスタン政府は壊滅状態に陥った。8月15日にはタリバンが首都カブールを掌握。以降、31日の米軍完全撤退に間に合わせるべく、タリバンの制圧下で唯一の脱出口となったカブール国際空港には、世界各国から航空機が殺到したのだった。その目的は残留する自国民と、協力者として通訳や警備業務などに従事したアフガン人とその家族の救出である。

 実際、韓国政府はアフガン人協力者390人を3機の輸送機にわけて移送。25日にカブールを発ち、パキスタンを経由して無事に韓国まで送り届けている。冒頭の韓国紙は文在寅大統領が陣頭指揮を執った脱出劇を〈ミラクル作戦〉と呼び、〈カブールのミラクルが成し遂げられた〉と褒め称えた。

 片や日本はといえば、韓国軍機がアフガンを飛び立った翌日の26日、ようやく自衛隊の輸送機がカブールに到着。現地で飲食店などを営みながら共同通信のカブール通信員を務めていた安井浩美さん(57)ただ一人を救出できたが、日本大使館や国際協力機構(JICA)の現地事務所に雇われて、日本人と共に汗を流してきたアフガン人協力者の退避希望者約500人は置き去りにされた。

 タリバンは外国勢力に協力したアフガン人の身柄を次々に拘束し、場合によっては殺害しているともいわれており、彼らは命の危険に晒されている。

 全国紙の外報部記者曰く、

「日本政府は、カブール市内に集まった脱出希望者をバスに乗せるところまではこぎ着けたのですが、折悪しく26日に空港周辺で米兵を含む140名もの死傷者が出た自爆テロが発生し、自衛隊機まで運ぶことができなかったのです。あと1日早ければという声もありますが、そもそも日本政府が自衛隊機の出動を決めたのは23日になってからでした。カブール陥落後、すぐ軍用機を出して救援活動に乗り出した欧米各国と比べれば、1週間ほど遅かったと思います」

 結論からいえば、日本政府の初動が遅れた理由は二つ。一つ目は現地事情に最も精通しているはずの外務省の対応にある。

「救出作戦の明暗を分けた背景には、日韓の“外交官格差”があると思います」

 とは、元時事通信外信部長で拓殖大学海外事情研究所教授の名越健郎氏だ。

「韓国の報道によれば、カブールが陥落してから韓国の大使館員も国外へ一旦避難してはいますが、救出作戦を遂行するために4人が現地に戻り、大混乱の中でも、米軍が契約するバスを素早くチャーターして空港まで脱出希望者を送り届けることに成功しています。外交官の日頃の人脈や行動力、機転が成功につながったのだと思いますが、これに対して日本大使館の日本人職員12人は、カブール陥落2日後の17日、全員が英国軍の輸送機に便乗してドバイへと脱出してしまっているのです」

 ちなみに日本大使館ご一行様が脱出時に頼ったイギリスは、米軍が撤退するギリギリのタイミングまで大使自らが残留し、ビザ発給業務などを続けたという。結果、取り残された人々がいるものの、英国は8千人超、ドイツは4千人超のアフガン人を退避させることに成功した。


■頼りにならない国


 一方、現場の“最高責任者”である岡田隆・アフガン大使の姿が、カブール空港で見られることはなかった。日本の名誉のため付言すれば、自衛隊の先遣隊が派遣された22日以降、一部の日本大使館員がカブールに戻って救援業務にあたったとの報道もある。とはいえ、刻一刻と治安状況が悪化するにもかかわらず、米軍やタリバンとの折衝などにおいて空白期間があったことは否めない。

 名越氏はこうも指摘する。

「日本政府は過去20年で約7700億円もの援助をアフガンに行い、欧米諸国と違って自衛隊を派遣してタリバンと戦ってはいません。日本人外交官が危害を加えられることは考えられない。現地に踏みとどまる気概はなかったのでしょうか」

 時代や状況は異なれど、ナチスに迫害されたユダヤ人を救うために「命のビザ」を発給し続けた杉原千畝のような外交官はいなかったのか。

 そして、もう一つの理由は法律上の限界である。当初は民間機をチャーターして救援に向かう計画だったが、想定よりカブール陥落が早く急遽自衛隊に要請が下った。本来の自衛隊は、騒乱の現場で邦人を保護して空港へ運び、日本まで退避させる訓練を積んでいるというが、現状ではその能力をフルに発揮できないというのだ。

 防衛大学校名誉教授の佐瀬昌盛氏によれば、

「自衛隊法84条の4では、海外で邦人輸送できるのは〈安全に実施することができると認めるとき〉との要件が定められ、今回は米軍のコントロール下にあるカブール空港の中でしか活動できなかった。もともと自国民が危険に晒されているから自衛隊を派遣するのに、安全な場所でしか行動できないというのは矛盾しています。政治家はこのような現実を直視して法改正を検討すべきですが、今の菅首相や政権与党は喉元過ぎれば熱さを忘れる。そうした危機意識の欠如が、救出作戦が難航した理由だと思います」

 米軍が完全にアフガンを去った今、日本政府は出国を希望する協力者の救出を求めてタリバンと交渉するとは明言しているが、タリバンは9月上旬にも新政府を樹立すると意気込む。いざという時に頼りにならない国だとの烙印を押されないよう、救出作戦を完遂する必要がある。残された時間は限りなく少ない。

「週刊新潮」2021年9月9日号 掲載

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